俺だってオフの日も必要なんだよ(3)

 さて、これからどうするか。片桐みたいにテレポートでも使えたら困らないんだが……使えないし。


 片桐をおぶって便利屋に帰るのも……無理だな。俺体力無いし。遠いし。疲れるし。


 目が覚めるまで待つにしても……外はどんどん寒くなってきているし。それに薄着の片桐が風邪をひくかもしれないな。


 なら答えはひとつか。


「……宿に行こう」



 宿屋。異世界と言えば宿屋に泊まって生活する……みたいなことはよく聞くが、俺はまだ宿屋というものに泊まった事がなかった。


 何故ならタダで雨風しのげて、3食飯も出てくるそこそこ立派な便利屋(助手付き)で暮らしているからだ。


 ……俺だいぶ恵まれてたんだな。いや、恵まれてたと言うよりは、片桐に甘えすぎていたのかもしれないな。


 しかも俺の力不足のせいで今片桐はこんな状況になっているんだし……ルクの親を俺が見つけられたら片桐はこんなことにはならなかったのにな。


 ……俺は片桐を見る。片桐はベンチに体を預けてすぅーすぅーと寝息を立てている。


 もしかして疲れとかも溜まっていたのかもしれないな。


「……たまには恩返しでもしなきゃな」


 そう呟いて俺は片桐をおんぶして、宿屋へと向かって行ったのだった。


 ───


 俺は宿屋の部屋へとやって来た。お金を節約するために部屋はひとつしか取らなかったが……


「……狭っ」


 そこにあったのは、小さな木製のベッドと丸テーブルのみ。こんなに狭いなんて聞いてない。


 例えるなら……刑務所? ……通りで安すぎると思ったぜ。


 うーん、とりあえず片桐をベッドに寝かせるか。


 よいしょ。


 俺は片桐を運んでベッドに寝かしたが、依然起きる気配は無い。


 ふぅ……これからどうするか。


 片桐にする『恩返し』の内容でも考えるか。そうしよう。


 俺は床に座り、腕を組んで考える。



 ……何をすればいいんだろう。片桐は何をすれば喜んでくれるだろうか。




 ……少し考えてみたが全く分からない。想像がつかない。


 プレゼントとかか? いやでも何が欲しいとか知らないし……金無いし。そもそもあいつなら自分の欲しいものくらい簡単に手に入れそうなんだがな。


 料理でも振る舞うか? でもあいつ俺より上手だもんな……自分より下手なモンは食いたくないよなぁ。


 なら感謝の言葉とかを伝え……いや、何かキモイな。却下。


 頭を撫で……もっとキモイ。








 んあぁぁあダメだァ!! 一人じゃなんも思いつかん!! 誰か……誰かにアドバイスを貰わなくては。


「でも誰に……あっそうだ」


 ふと思い付いた。ミルドタウン内で知ってる人がいる場所と言えばあそこだ。というかあそこしかない。


 俺は壁にかかってる時計を見る。


 現在の時刻は20時過ぎ……まだ空いてるか……? 空いてるよな。うん。



「行くかぁ!」


 俺はしっかりと部屋の戸締りを確認して、宿屋を飛び出していったのだった。



 ───メルシーハウス───


 木製の扉を勢いよく開ける。


「まだやってる!?」

「うわっ! ……なんだホームズか。やってるけど……脅かさないでよ」

「あ、ああごめん」


 扉を開けるとビクッと驚いているメルの姿があった。


 店の中には客は誰もおらず何だか静かな感じだった。そりゃいきなり大きな音出したら驚くよな。悪いことした。


「あれ? 今日は一人?」


 メルは俺の後ろの方をキョロキョロしている。片桐でも探しているのだろう。


「ああ、一人だ」

「へぇ、珍しい。あ、ほら座りなよ」


 俺はカウンター席へと座る。


「ご注文は?」

「コーヒーを頼む」

「はーい」


 俺はコーヒーを注文する。メルがそのコーヒーの用意をしている間、俺は『恩返し』のことについて話してみることにした。


「なぁメル。ちょっと相談みたいなものがあるんだが」

「んー? なに?」

「あの……あいつ、クローバーに恩返しをしたいと思ってるんだが……何したらいいかな?」


 するとメルは口をあんぐりと開いて、こっちを向きながらコーヒーをとぼとぼ注ぎだした。


「……何だよ」

「そんなこと聞かれるとは思ってなかったから……とりあえずはい、コーヒー」

「ありがと」


 少し零れているコーヒーを受け取った。熱いうちに頂くとしよう。


 くびり。


「美味しい」

「良かった。……で、話に戻るけど。クローバーちゃんに恩返しをしたいけど、その仕方が分からないと」

「まぁそんな感じだ」

「へぇー」


 メルは心做しかニヤニヤしている。


「何だよ」

「いやぁーホームズもかわいい所あるんだなーって」

「あ?」

「あれ? そんな態度だと考えてあげないよ?」

「くっ……」


 こいつも片桐みたいな所あるよな……相談相手間違えたか?


「いや……教えてください」


 しかし俺も困っているので、仕方なく素直になる事にした。


「うんうん。素直でいいね。で、やっぱり女の子はプレゼントが喜ぶと思うんだよ」


 プレゼントか……喜ぶのかなぁ。


「でも……プレゼントなんて何が欲しいか分からないし」


 するとメルはチッチッチッと左右に指を振り出した。


「甘いね。甘いよホームズ。物じゃないんだよ。物なんかより、好きな人から貰ったという事実が大切なんだよ」


 ……よくわからん。


「どういうことだ?」

「だから……とにかくなんでもいいからプレゼント渡すんだよ!!」

「……お、おう。分かった」


 しかしなんでもいいが一番難しいんだよな……


「でも、なんでもいいって……」

「そのくらい自分で考えなよ」

「うーん……」


 と、悩んでいたその時


「メルさんお先に上がります……あ、ホームズさんじゃないですか!」

「あ、エミリオか」


 奥の扉からエミリオが出てきた。恐らくバイトが終わったのだろう。


「どうしてここに?」

「いや、コーヒーを飲みにだな……」

「ねぇエミリオーホームズがさぁークローバーちゃんにプレゼントしたいんだって」

「おい!! なんで言うの!!!」


 油断していた。メルは結構おしゃべりだった。


「へぇーいいですね! 何をプレゼントするんですか?」


 エミリオは意外にもグイグイ話に参加してくる。


「いや……それが決まってなくてな」

「そうですかー。あ、そうだお花なんてどうですか? 僕の家の近くにお花屋さんがあるんですよ!」


 花。花? 花ねぇ……花なんて貰っても喜ぶかなぁ。俺は喜ばないけど……


「とっても綺麗ですよお花……お花貰って喜ばない女の子はいませんよ!」


 お前どっからそんな自信が出んの?


「お、いいね。エミリオ、ホームズ連れてってあげたら?」

「分かりました! さあホームズさん行きましょう!」

「えっ……えぇ」


 何か勝手に決まったんだけど……

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