小さいものは大抵かわいいっす!(1)

 ああ……やっちゃったっす。これはとんでもないことになったっす。こんなことが起きるなんて……


 もう分からない。……どうすればいいか、わかんないよ。


 ホムさん……いや桜井さん。ボクはボクは……どうしたらいいの……?


 責任を持ってボクが……しかないの……?


 ───


「何だこれ? クローバーお前のだよな?」


 桜井さんはテーブルに置いてあるボクの本を手に取って言った。


「はいっす。これは魔導書ってやつっす」

「魔導書? お前そんなのなくても魔法使えるだろ?」


 よく知ってますね。ボクのことそんなに見ててくれたんすね……!! 嬉しいね!!


「そうですけど、最近出た新しい魔法は魔導書で学ぶのが基本なのです」

「よくわからんが……俺が読んだら魔法を使えるのか?」

「ホムさんは魔力無いので絶対無理っすね!」

「ふーん……」


 桜井さんはガッカリした表情をする。おおその表情たまんない……もっと頂戴。


「……で、何の魔法を使えるようになるんだ?」

「分からないっす。安かったから買ってきただけっす」


 この魔導書はなんかミルドタウンの処分品セールで買ってきたやつだ。


 まだ読んでいないため、何の魔法を使えるようになるか分からない。しかも表紙がボロボロだ。


 まぁ処分品なのであまり期待はしていないのだが。


「へぇー」


 そう言って桜井さんは本を置いて、トランプのカードを触り始めた。


 うーん……このままだとまたカードショップに行っちゃうっす。ボクはもっと話したいのに……桜井さんの気を引かなくちゃ……


 あ、そうだ!


「よし、今から魔導書を解読するっす!」

「お、やるの?」


 桜井さんはこっちの方を向く。よし、食い付いてきた!


「どんな魔法が出るかな」


 ……期待されてる!! ボクは今桜井さんから期待されているんだ……!!


 やらなくては……!! やろう!!


 ボクは本を開く。……うわっびっしり書いてるなぁ。まぁやると言った以上やりますが。


 そして書いてある呪文を詠唱し始める。



 そして数十分後……


「……エルヘルノンフペルプロヌビ……」

「……長くない?」


 確かに長い。こんなに詠唱が長い魔法はちょーつえードラゴンを封印した時以来だ。


 しかしここで中断する訳にはいかない……今までの詠唱の意味がパァだ。


 ボクは魔導書を読み続ける……ん?


(ここで対象に手を向ける)と書いてある。対象……? よく分からないがとりあえず桜井さんに向けておく。


 ……爆破とかしたらどうしよう……とそんなことを思いながら詠唱を続けていると、いつの間にか最後のページになっていた。


 よし、終わる……!!


 最後の文字を読み終わった瞬間、ボクの手が輝き出して……部屋全体が光出した。


「うわぁああっ!!!」


 そして桜井さんが叫び出した。……やっぱり攻撃系の魔法だったのかな? なら直ぐに手当をしてあげなくちゃ……


 光が弱くなりボクは目を開く。……が、桜井さんの姿が見当たらない。


「おーい! ホムさん!! どこに行ったんすか!!」


 呼びかけても返事が無い。どこに行ったの……? まさか移動系の魔法だったのかな……? もしそうだったのなら大変だ。


「どこっすか!! ホムさん!! 答えてホムさん!!」


 桜井さんが居なくなると急に不安になってきた。怖い……怖いよ……!


「どこっすか!!!」


 すると後ろから声が聞こえてきた。子供特有の高い声だ。


「んん……ねぇここどこー? ねぇーそこのおねーちゃん」


 ボクは振り向く。そこには子供が1人立っていた。


「……えっ。き、君は……?」

「ぼく? ぼくはね、ゆうと! 」


 ゆうと? 桜井さんの本名って確か……桜井侑斗。


 ……何だか桜井さんに似てるかも。黒髪に天然パーマっぽい髪の毛に少し鋭い目付き。それに……桜井さんがさっきまで着ていたブカブカのコートを着ている。


 ……もしかしてこれ桜井さん? まじで?


 まさか……これって若返りの魔法ですか!?


 いやいやヤバいって!! これはヤバいって!!


 ボクはとんでもない魔法を使ってしまったのではないか……?これが本当に若返りの魔法だったら大変なことになるぞ。


 ボクが使っていた変身魔法とは訳が違う。変身魔法は姿を変えるだけで、中身は変わらないし、肉体的な体力とかもそのままだ。


 だが……若返り魔法となると話は別だ。体も精神も年齢相当に変化する。連続で使えばずっと若いままでいることが出来る。


 それに記憶を移す魔法を使えば記憶を持ったまま、実質永遠の命を手にすることができるということだ。


 ヤバさが伝わっただろうか。


 ヤバい……こんな魔法が存在していいのか!? 何で禁止級の奴が処分セールで売られてるんだ!?


 もう分からない。……どうすればいいか、わかんないよ。


 ホムさん……いや桜井さん。ボクはボクは……どうしたらいいの……?


 責任を持ってボクが育てるしかないの……?


 すると、泣きだしそうなボクの頭に誰かの手が触れた。


 顔を上げると小さな桜井さんが居た。ボクの頭を撫でていたのは桜井さんだった。


「なでなでしたらげんきになるってママがいってたんだ。 かなしそうだったからなでたけど……おねーちゃんげんきになった?」

「……っ!!」



 ボクは反射的に抱きしめる。


「わっ! く、くるしいよおねーちゃん」

「うぅ……!!うわぁぁ!!! すきだよぉ!! ゆうとくん!!! うわぁぁああん!!!」


 この絵面……小さなショタボーイに思いっきり抱きついて泣きながら告白しているこの状況。傍から見ればボクとんでもない変態っすよ。


 でもその時はそうせざるを得なかった。そのくらい感情が高ぶっていたのだ。


 小さな桜井さんは驚き戸惑っている。そりゃそうだよね。


「……あ、ごめんね。ちょっと暴走しちゃった」


 はっと我に返り距離をとる。だが、小さな桜井さんは怒り出す訳でもなく、笑いながら優しくボクに声を掛けるのだった。


「……いいよ。おねーちゃんがおちつくのならぼくをギューってしてて。もっとなでてあげてもいいよ?」




 ……天使か? ああ……目の前に天使がおる。


 桜井さん、子供の頃からとっても優しかったんすね。そういう所本当に大好きですよ。


 ……決めた。



「責任もってボクが桜井さんを育てるっす!!」

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