決戦(2)
オレは反射的に男へと殴り掛かった。しかし……
「……遅いですね」
「なっ!?」
素早く避けられ、蹴り飛ばされる。そして恐ろしいスピードで壁に打ち付けられた。
「ウグッ!!」
蹴られた腹にダメージを負う。それに耐えきれずに横になってしまった。
……その時、コロンという笛の落ちる音がする。当然その男も気がついたようだ。
「ふふ、実に愚かですね。君たちの会話は全部盗聴してましたよ。作戦も筒抜けです」
男はニヤッと汚い笑みを浮かべながらこちらへとゆっくり近づき、ぐしゃりと笛を踏み潰した。
「ははっ、これでお仲間も呼べないですねぇ。どうですか今の気持ちはぁ?」
「ッハァ……!! ……殺す!! 殺すッ!!」
「……まったく、気性の荒い人ですねぇ」
男は指をパチンと鳴らすと、フードを被った裏ギルドのメンバーが続々とオレの前に現れた。数は10人程だろうか。
「お前達、痛め付けてやりなさい」
男が合図を出して、オレに飛びかかってきた──その瞬間。
「大丈夫かホームズ!!!」
……入口の方から仲間の声が届いてきた。
「あら、来てしまいましたか。まぁ何人来ようが無駄ですよ」
フードの敵は入口の方へと気を取られている。この隙にオレは起き上がって、クローバーの方へ近づき……
「させませんよ」
「……チィ!」
クローバーへの道を男に塞がれる。
「君のことも調べさせてもらってますよ。……魔法も使えないただの雑魚ってことも」
「クッ……馬鹿にしやがって……!!」
手の平を男に向け、魔法を放つポーズを取る。
「ハッタリですか? そんなものに引っかからない……」
「はぁああっ!!『ラスト・スピンバースト!!!』」
オレは風属性最高の魔法を放った。
「なっ!?」
男は反射的に守りの体制をしたが、ダメージは確実に入っているようだった。
「なっ……なぜだ!? どうして貴様が魔法を……!?」
「……バーカ、いい加減気づけよ。オレは……ホームズじゃないんだよなぁ?」
「馬鹿なっ!?」
俺は変身魔法を解除して……いつもの『クルト』の姿に戻った。
……ふぅ。うわ、楽だわこの体。動きやすっ。
「なら、奴は何処に……!?」
「おっと、よそ見してる暇あんのか?」
続けてオレは風魔法を唱えて攻撃をした。元の体に戻ったため、スムーズに魔法を放つことができる。
……しかし今度は完璧にガードされて、男は傷一つ付いていない様だった。
「……ふっ、実に面白い……!! ならば私も本気でいきますよ……?」
「ああ、来いよ!」
───
作戦の紙に書かれていた内容は以下の通りだ。
─ ─
クルトがホームズの格好をして突入する。
同時にホームズとマルクは透明化して、変身しているクルトの後ろをつけて行く。
残りのメンバーは入口付近で待機しておく。敵が現れたと感じた瞬間、大声を出して突入してくれ。
作戦は以上だ。健闘を祈る。
─ ─
ってな訳で、俺とマルクはずーっとクルトの後ろにいたのだ。
つーか、クルトがする俺の真似下手すぎだろ……俺そんな熱血主人公みたいなセリフ吐いたりしたことないよ? バレるんじゃねーかなこれ……
……とかなんとか、そんなことを思いながら眺めていると、急に戦闘が始まっていた。
ぎゃぁー!! リーノ出番だぞ!!
「大丈夫かホームズ!!」
すると入口の方から声が聞こえてきた。……ふぅ。なんとか入口に注意は向けられたな。
フードの敵は入口の方へと全員向かっていった。そして正面ではクルトとルイトの戦闘が繰り広げられている。
そんな状況の中、俺は小声でマルクに言う。
「おいマルク、あいつから鍵を盗めないか?」
「そんなことは容易いが……奴が気付く可能性があるぞ」
「そんなの構わん」
「ふむ、承知した。なら我が合図を出したら、クローバー氏の元へ走り出せ。分かったか?」
「ああ、りょうかい……」
「走れ!」
早っ。合図早っ。
俺は片桐の方へと向かって走り出した。と同時にマルクが盗みの魔法を唱えているのが、後ろから聞こえた。
「フッ……『スティール!』」
「……何っ!?」
男がそれに気がついた頃には、鍵は宙に浮いていた。
「ホームズ、受け取れっ!」
マルクは俺に鍵を投げつける。……俺はそれを上手いことキャッチして、鍵を使って片桐の手錠と足枷を外そうとする。
……すると、カチャリという軽快な音を立てて鍵は開いたのだった。
「よし開いた! クローバー! 逃げるぞ!!」
「……ん……ホム……しゃん……」
だが、片桐はフラフラしていて、まともに立つことができてない。それに呂律も回っていないようだ。恐らく魔力か何かが吸い出されてるため、力が入ってないのだろう。
だが、そんなゆっくりしている余裕はないのだ。俺は片桐の手を引いてなんとか逃げ出そうとした……
「おいクローバー! 早く逃げるぞ!!」
「んん……ボク……き……?」
「何だって!? 早く逃げ──」
「ホムさんは……ボク……のこと……すき?」
…………は?
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