剣を取り戻せ!(5)
痛みが全く感じなかった。例えるのなら子猫が頬を触ぺちペちって叩いてくる感じの感触だった。
佐藤も手応えを感じなかったのだろう。クエスチョンマークが頭に浮かんでる。
何故だ? なぜ痛みを感じない……もしかして覚醒ってやつが来たのか!? 戦いの最中に急に強くなるアレがついに俺にもきたのか!?
「ど、どういうことだ!!」
「そろそろ本気を出そう……さぁ! 反撃開始といこうか!!」
勿論最初から本気であったが、それは言わないお約束。俺は力を込めて拳を振りかざす。すると自分でも驚く程に素早い右ストレートが、佐藤の顔面にめり込んだ。
「喰らえっっっ!!!」
「ぶへぇ!!!」
パンチを喰らった佐藤は回転しながら吹っ飛んでいき、倒れ込んだ。その後は動く様子もなく、近づいてみると完全にノビていることに気がついた。
勝った……!! やったぞ!!
「はぁ……はぁ……正義は必ず勝つのだ……」
そう言って戦いを見ていた2人の方を向く。
「ふふ……素晴らしいね。お見事」
「……頑張ったっすね。怪我治してあげるからじっとしてて……っす。」
そう言って片桐は治癒魔法を俺にかけてくれた。するとみるみる傷が塞がっていき、痛みもどんどん取り除かれてく。
「おお、すげぇや! ありがとなクローバー!」
「……めんなさいっす」
「なんて?」
「……早く剣を返してもらうっす」
「ああ、そうだな」
片桐は佐藤に近づいて治癒魔法をかけた。すると佐藤はまた動き始めるのだった。
「よし、佐藤てめぇ剣を返してもらおうか」
「えー? やだ!! 負けてないもん!!」
あ? お前負けただろ……!! 完全にノビてたろ……!! 俺の勝ちだろ!!!
と内心またイライラしていると、片桐が佐藤に向けて火の玉を飛ばした。
「……ブレイジング」
「うあああっつっ!!!!!」
「……お前はホムさんに負けたんっすよ。これ以上痛い目合いたくないなら早く剣を持ってこい……っす」
「は、はい」
めっちゃ怒ってる片桐の姿初めて見た……怖っ。
佐藤は明らかに怯えた様子でこの場所から去って行った。
「ふぅ………………これで依頼解決っすね! ホムさん!」
「あ、ああ。そうだな」
どうやらいつもの片桐に戻ったみたいだ。やっぱりこれが一番落ち着くな。
「そういやあの白髪の男はどこ行った?」
「さぁ……居ないっすね。帰ったんじゃないっすか?」
──後日、佐藤はリーノから奪った剣を俺達の元へと返しに来て、無事剣は戻ってきた。
そしてその後、リーノが便利屋ホームズへとやって来た。
「よお、剣は戻ってきたか?」
「あ、リーノさんいらっしゃいっす!ほらー! 無事に取り返しましたよ! 」
「おお!! これは正真正銘俺の剣だ! 本当にありがとう! ……そうだ金を払わないと。この位で大丈夫か?」
そう言ってリーノは机に硬貨を数十枚置いた。
「そ、そんなにいいっすか!」
「おうよ。本当に助かったぜ。それじゃあな」
そう言ってリーノは剣を持って、便利屋から出ていった。俺は片桐に尋ねる。
「いくら貰ったんだ?」
「ええーっと。1ヶ月は何にもしないで生きていけるっす」
「おお。まあまあだな」
まぁ死にそうになりながら戦ったので、割に合わないと言えば合わないのだが。
「そういえばさ、クローバー。何で酒場にいたらへんから機嫌悪かったんだ?」
「はぁ……分かんないならいいーっす。乙女の気持ちわかんない童貞チェリーさんには関係ないっす」
「何でボロクソに言われなきゃいけないの!!」
なんでそこまで言われなきゃいけないんだ!! 俺が何したってんだ!!
いやまぁ落ち着け……一旦冷静になって考えてみよう。乙女の気持ち……? あ、もしかして女の子の日だったのかな……
と一瞬思ったが、流石にそんなことを聞くのはキモすぎる気がしたため、何も言わずに黙っていた。
「……なんか今変な事考えました?」
「へぇ!? な、何もぉ!?」
テレパシー能力でもあるのかこいつは……
「そ、そうだ。俺さ佐藤と戦ってる時にさ急に強くなった気がしたんだけどさ……」
「はい」
「その時に俺覚醒したんじゃないかって思ってさ!」
俺は話を変えた。すると片桐は明らかに笑いを堪えながら話し始めた。
「そ、そっすね……っ、か、覚醒したん……ふっ……覚醒したんすねぇ!」
「なーにがおかしい」
「な、何もぉ!?」
何なんだ一体……まぁでも……
「……でも戦ってるホムさんカッコよかったっすよ」
「あ、ありがとう」
……無事終わって良かった。
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