奪還作戦(1)

「クルト! 縦読みだ!!」

「え?」

「1行目を縦に読むんだよ!!」


 思わず俺は叫ぶ。そして俺は手紙を取り上げて、縦に読みだした。



 ──

  ホムさんへ


 楽しい日々をありがとうございました。

 すっかりこの世界に馴染みましたね。

 健康に気をつけて野菜とかちゃんと取るんですよ。

 テカ草とか……ミル草なんかがおすすめです。

 バカなボクなんかとっとと忘れて、新しい人と一

 緒に生きていってください。新しい職業は

 早く決めるんですよ。そうだな……

 ざっと上げるなら、冒険者とか商人とか……あ、マ

 ルクさんみたいに怪盗なんかどうかな。か

 っこいいと思いますよ。

 優しいホムさんは心配するでしょうけどボクのわが

 ままで勝手に出て行ったので心配しないでね。


  クローバーより


 ──


「た す け て ば しょ は ざ る つ や ま……クローバーはザルツ山にいる!!!」

「え……ホントだ!! すげぇホームズ!!」


 片桐は俺がこの話を覚えていることに掛けて、こっそりと俺にヒントを与えていたんだ。そして理由は分からないが今、片桐は助けを求めている!!


「場所は分かった!! 急いで助けに行くぞ!!」


 俺達が助けに向かおうと立ち上がろうとした……





 ──その刹那。扉が乱暴にバァンと開かれた。


 そこには、金髪で目付きの鋭い少年が立っていた。そして右手には尖ったナイフが握られている。


「ぬわぁ!? だ、誰だお前は!?」

「……誰だっていいだろ? はぁ……つーかあのバカ置き手紙とか許しやがって……帰ったらシバくか」


 少年は独り言を吐き捨てて、全く隠す素振りもなく気分の悪そうな顔をしている。……俺は震えた声で問いかける。


「なっ、何しに来た!?」

「ん? ああ……お前を処理しに来たんだよ」


 処理……? ……そして手に持っているナイフ……もう嫌な予感しかしない。……たすけてぇ。


「そ、それって……」

「……あんなぁ。そんなお喋りしてる時間はねぇんだ……よっ!!」


 少年は俺の体を目掛けてナイフを放つ。


「──避けろっ! ホームズ!!」


 その瞬間、俺はクルトに突き飛ばされて間一髪避けることに成功した。


 ナイフはザクッと嫌な音を立てて木の床に突き刺さる。


「うぎゃぁああああ!!!」

「チッ……死ねや!!」


 少年は腰のポーチに入ってるナイフを取り出して、更に俺たちに投げてくる。倒れてる俺に目掛けてそれは向かって来て……


 ──待って!! 当たるぅ!! 死ぬぅ!!!!



「『リフレクト!!』」


 俺にナイフが当たる……寸前にクルトが魔法を唱えてナイフを弾き返した。た、助かったぁ……


「なんだこのガキッ……!!」

「へへっ、魔法の練習も最近してんだよ!」

「チッ……お前から殺る……!!」


 少年の狙いは、俺からクルトへと変わっていた。


 ナイフを投げては弾き返す。そんな非現実的な戦いが目の前では繰り広げられていた。


 ──心臓の音が早くなる。


 ……少年はもうこちらの方を向いていない。俺が逃げようと思えば逃げれる状況だ。一刻も早く逃げ出したかった。


 ……だが、逃げる訳には……いかない。俺を守ってくれたクルトを置いて逃げるなんて、そんなだせぇ真似できるわけない……!!


 俺は勇気を出して立ち上がり……少年の隙をついて、来客用の椅子を持ち上げて思いっきり投げつけた。


「だぁぁああああ!!!」

「何っ!?」


 少年はギリギリ回避するが、バランスを崩してよろめいた。その隙にクルトが攻撃を叩き込む。


「いいぞホームズ!『スピンバースト!!』」

「ダハッ!!!」


 そして少年はクルトの魔法に凄い勢いでふっ飛ばされ……壁に頭を打って気絶した。


「やったなホームズ!」

「……はぁ。……めっちゃ散らかったな」


 戦いで便利屋がもうめちゃくちゃな状態だ。これは片付けに時間が掛かりそうだ……


「そんなことよりホームズ、コイツどうする?」


 クルトは気絶した少年を指さして言う。


「そもそも何者なんだコイツは……まぁ攻撃してきたってことは絶対俺達の敵な訳だけど」


 俺を殺しに来た時点でろくな奴じゃない。始末するのが一番だとは思うが……


「殺るか……?」

「あー待って待って。ちょっと試したい魔法があるんだけど……やっていい?」


 クルトは笑顔を見せながら、俺に言う。


「……なに?」

「家の倉庫にあったんだけど……禁止魔法の魔導書。名前が……『心変わり』」

「……まぁ状況が状況だし。やってもいいぞ」


 心変わり……それが成功したらコイツから情報が引き出せるかもしれない。そう考えた俺は禁止魔法を使うことを許可した。


「よっしゃ!」


 そう言ってクルトは魔導書を取り出す。そして長い呪文を唱えて……数分後。


「はっ……こ、ここは?」


 さっきまで気絶していた少年が目を覚ました。


「目覚めた? 君の名前を教えてほしいんだ」


 クルトがそう言うと、さっきまで俺達を殺そうとしていた少年とは思えないほどの笑顔で挨拶をするのだった。


「はい! 僕の名前はロビン・クートです! よろしくお願いします!」

「おいクルト……」

「やっぱりやばい魔法だったね」


 どうやら悪人が善人へと変化する魔法だったらしい……やはり禁止魔法は恐ろしいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る