やっぱり冒険者も大変らしい(2)

「おはようございますホムさん! いい朝っすね!」

「おはようクローバー」


 小鳥のさえずりが心地の良い、いつもの眩しい朝だ。


 だが俺は昨日寝る前に片桐が話したことを少し考えていた。


『ボクの過去なんか知らなくていいっすからね』


 片桐は過去のことをあまり話したがらない。話してくれたのは、俺がこの世界に来た初日に少しポロッと話したくらいだ。


 ほぼ覚えていないが、確かチート能力を良いように使われて嫌になって逃げ出した……みたいな感じだったか。


 まあそれまでと言えばそれまでなのだろうが。深く考えることも無いのだろうが……しかし片桐はなんでもないと言っていた。最近気が付いたのだが、あいつは「なんでもない」と言う時は絶対に何かあるのだ。


「ホムさんホムさん」


 突然片桐の呼ぶ声が聞こえたので、顔を上げる。


「なにボーっとしてるんすか。ご飯できてますよ。今日はミナトルさんの仲間探しに行くんすから、沢山食べておかないと」

「ああ……そうだな」


 とりあえず片桐の過去のことは頭の片隅に置くことにして、目の前にあるご飯を食べることにした。


「いただきます」

「はーい、どうぞ」


 ───


 朝食を取って少しした後に、ミナトルはやって来た。今日の仕事は休んだらしい。


「さて、仲間探しだけども。どこで探すんだ?」

「ギルドハウスで探すのが一番早いと思うっすよ。ギルドメンバー募集の紙とか貼ってますしね」


 なるほどな、それなら手っ取り早そうだな。


「了解だ。ギルドハウスに向かおう」


 ミナトルはその考えに了承したようだ。


「よし、なら行こうかクローバー」

「はい……っす」




 ──ギルドハウス──


 ここはいつ来ても大勢の人でごった返している。俺達はその人混みを抜けて、仲間募集の張り紙のある中央の掲示板の方へとやって来た。


「これか」


 掲示板全体に『メンバー募集』と書かれた張り紙が貼られているようだ。


 何枚か軽く見てみると募集要項に『戦士、僧侶募集』

『魔道士募集』『アーチャー急募』などそれぞれ必要な職業が書かれている。


 その中で俺は『盾士募集』と書かれている張り紙を見つけ出した。


「これはどうだ?」


 張り紙に指を指してミナトルに提案してみる。


「ふむ……なるほどな」


 ミナトルは顎に手を当ててその張り紙を眺めだした。俺も一緒に読んでみる。


 ──


 メンバー募集中。リーダー『ラルフ・リーノ』


 主に中〜高難易度のクエストを受ける事を目的としたメンバーを常に募集している。現在20名。


 現在、前衛が不足している為『戦士、盾士』を中心に募集しているが、他の職でも問題ない。


 入団希望者は今日の12時に入口付近のベンチへ集合してくれ。


 以上。


 ──


 ……ん、ラルフ・リーノって……あのリーノじゃん。俺達が剣を取り返してやったあのリーノじゃん。


 ミナトルはその紙を読み終わると


「ふむ……とりあえずここに行ってみようと思うが、どうだろうか」


 と、俺に聞いてきた。


「まぁ……いいんじゃないか? この人俺の知り合いだし良い奴だとは思うぞ。……というか今何時だ?」

「時計は……アレか?」


 ミナトルは掲示板の上に掛かってる時計を指さす。その時計の針は集合時間の12時を刺していた。


「あ、おいもう12時だぞ!」

「何っ!?、早く行かねば!」


 ……と、俺とミナトルが急いで集合場所へと向かおうとした時、片桐が傍に居ないことに気が付いた。


「……ん、あれ? クローバーは?」

「おい、早く!」

「あ、ああ」


 ミナトルは先走って集合場所の方へと行ってしまった。


 うーん……とりあえずミナトルの方を優先するべきだろうか。この機会を逃すとまた時間が掛かってしまうだろうし。


 うん、そうするか。後で片桐は探すことにしよう。




 俺はミナトルを追いかけた。



 ──


「……あ、お前は便利屋の!」

「ホームズだよ。久しぶりリーノさん」


 リーノは俺を発見すると反応してくれた。どうやら覚えていてくれたらしい。


「どうしてここに? まさかお前が入団希望者か?」

「いやいやまさか。このミナトルさんが希望者だよ」


 俺はリーノにミナトルを紹介する。


「私が希望者だ。盾士で守りには自信がある」

「へぇお前か」


 リーノはミナトルをじっくり上から下まで眺めた後、幾つか質問を問いかけた。


「得意な魔法は」

「『パーフェクトシールド』『リフレクター』」

「大型パーティの経験は」

「皆無だ」

「アピールポイントは」

「……何事にも恐れない?」


 リーノはうーんと唸った後、俺の方をチラッと見て言った。


「少し心配な所はあるが……どうやらホームズのお墨付きみたいだしな。入団を許可しよう」


 するとミナトルは嬉しそうにはしゃぐのだった。


「本当か! 感謝するぞ」

「詳しい話はこっちでしよう」


 リーノはミナトルを連れて、テーブル席の方へと移動する。その移動中、ミナトルがこっちを向いて俺に感謝の言葉を言ったのだった。


「ホームズ、ここまでありがとう。感謝するぞ!」

「おう、頑張れよー!」


 俺がそう言うと笑ってくれて、またリーノの後ろを着いて行くのだった。




「さて……」


 早くアイツを探さないとな……

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