第23話 慈悲を乞う奴隷の少女、主人はサティスファクションに罰を下す。あとセールスレディがやってきた

 ざっく ざっく ざっく


老人「主人さん。そろそろ、船が来ますよ」


主人「おや、もうですか」


老人「今日で島を離れるというのに、畑を耕しているのですか」


主人「土をいじると心が安らぎますからな。それに、この畑をここまでにするのが一番手間がかかった」


老人「……無人島だったこの島にワシが漂着して、その二十年後にあなたがやってきた。

二十年でワシは自分一人くらせる程度がやっとだったのにあなたはたった5ヶ月で畑を作り木造三階建ての家まで建ててしまうとは」


主人「いやぁ日曜大工が趣味なのですよ。あと家が壊れやすいから修理もよくしてました」


老人「庭付き一戸建て、しかも水道設備をつくりプールまで」


主人「よく考えてみれば周りは海なんだからプールは入りませんでしたなハッハッハ」


老人「野生の猪を捉え家畜小屋まで」


主人「捕まえたはいいですが情が移るとああいうのはやはり食べにくいものですよ」


老人「船も手作りして網による漁まで行う」


主人「趣味が釣りでしてまあその応用ですな」


老人「そして漂着した機械部品を集めて無線を作り、救助信号を送って船まで呼んでしまう……あなたは一体なにものなのですか?」


主人「なぁに、ただの漂流した金持ちですよ。それよりいいのですか、この島から出ることは?」


老人「もう二十年暮らしたらこの島が故郷のようなものです。ワシはここで最後まで暮らしますよ。あなたのおかけでかなり生活も楽になりました。ありがとうございました」


主人「救助が来るまでの素人の趣味のようなものですが、喜んで頂ければ良かった」


ボオオオオオオ


主人「おや、船の汽笛が。では帰ったら手紙を送ります。畑の世話をお願いしますね」


老人「ええ、それでは」


主人「さて、ではひさしぶりにアレをやるか」


老人「? あれとは…?」


主人「あのクソ奴隷があああああ!!!」


老人「」


主人「よくも俺が寝ている間に無人島に放置してくれたな! 俺が鉄腕ダッシュの視聴者じゃなかったら死んでいた所だ! 帰ったらどう仕置きをしてやろうかこのゴミ奴隷があああ!!!」


 △ △ △


主人「というわけでやっと帰ってきたぞこのクソ奴隷がああ! この怒りどうしてやろうか!」


奴隷少女「お許し下さい御主人様! もう二度といたしませんので! でも御主人様が『たまには仕事を忘れてゆっくり南の島でバカンスしたいなぁ』と仰っていたのでつい」


主人「無人島でジジィとサバイバルするのを世間一般ではバカンスとは呼ばねぇんだよクソ奴隷がよおおお!!」


奴隷少女「なにか……ロマンス的なものは芽生えなかったんですか?」


主人「ジジィと猪のジローと花子と魚しかいねぇんだからそんなもんねぇよアホ奴隷があああ!!」


主人「もうほんとに許さんからな! 徹底的に後悔させてやるぞこのクズ奴隷があああ!!」


 △ △ △


主人「よし、やれ」


奴隷少女「う、うぅ」


奴隷少女「み、みんなー! 視聴ありがとう! 今日も奴隷男の娘アイドルのYouTubeチャンネル始まるよー!」


奴隷少女「今日はねー、私の趣味をみんなにお見せしようと思います」


奴隷少女「私の趣味はガーデニング」


奴隷少女「特に今ハマってるのは、その

あの」


主人「早くやれ!」


奴隷少女「……ち、ちくわの栽培にハマってるの!」


奴隷少女「この植木鉢にちくわを埋めて、ちくわの花が咲いたりちくわの収穫をするのが大好き!」


奴隷少女「こっちの鉢植えではちくわぶ、こっちは薩摩揚げを植えてるのよ! 秋にはたくさん採れそう! 楽しみ!」


主人「よし、コメントも再生数も鰻登りだ! みろこの『マジキチWW』のコメントの数を!」


奴隷少女「も、もう勘弁してくださいぃ……」



 △ △ △


セールスレディ「というわけでこちらの商品、いかがですか」


主人「うーん、ですがなぁ。うちはそういうのは」


セールスレディ「今非常に人気があるんですよ。この『全自動奴隷しつけ直しマシーン』は!」


主人「うーん。いやうちは職人的手作業感を重視してるので」


セールスレディ「いえいえこれから効率化の時代。これならスイッチ一つで奴隷をしつけ直せます!」


主人「でもこれただの釘バットですよね」


セールスレディ「使い方は簡単です! こちらのスイッチを押して」カチッ


主人「はぁ」


セールスレディ「その後釘バットでいうことを聞かない奴隷をしばき倒す!」ブォンブオン


主人「こっちのスイッチいらないよねそれ」


主人「あのねーそういう大怪我しそうなのは趣味じゃないっていうかそもそもそれマシーンじゃないよね」


セールスレディ「大丈夫です、この釘バットは全て天然素材を使用しています」


主人「ちょっとなにいってるかわからないなぁ」


主人「だからそれはいらないというか……あ、ちょっと待ってね」スタスタ




主人「おい奴隷」 


奴隷少女「はい」


主人「その手に持ってるものはなんだ?」


奴隷少女「……花火です」


主人「現代日本じゃあプラスチック爆弾を花火とは呼ばないんだよなぁ」


奴隷少女「お客様に花火を見せてあげようと」


主人「花火を見せるんじゃなくて花火にしてやる気じゃねーかあれほど客の車に爆弾しかけんのやめろつってんだろこのクソ奴隷がよおおおお!!」


 △ △ △


奴隷少女「ご主人様お許し下さい!」


 華奢な少女の声が、悲痛に響く。


主人「いいや許さんぞこのゴミ奴隷が!」


 肥満体の中年は、その光景に怒号を飛ばす。


奴隷少女「どうか、どうかお慈悲を!」 


 少女の頬は涙で塗れていた。泥で汚れた古いメイド服。


主人「よくも俺が寝ている間にまた富士演習場に放置してくれたな! しかも今度は戦車砲試射の的にくくりつけやがって! |消力(シャオリー)と受け身をフルに使ってなんとか生き延びたからいいものの、七割くらいの確率で死んでたぞアレは!」


奴隷少女「申し訳ありません御主人様! もう二度といたしませんので!

御主人様が『ガールズ&パンツァー面白いよね』とツィートしてたので、ぜひ本物の戦車道を体感して頂けたらなと思ったのですが!」


主人「絶対人体無害砲弾は現実にはねーんだよバカヤロオオオ!! そもそもリアル戦車道は悲惨なだけだから見たくねぇよ! やはりお前には苦痛で躾てやるしかないようだなこのクソ奴隷があああ!!」


 △ △ △


主人「はいいつものパターン椅子に縛り付けるー」


奴隷少女「椅子に縛り付けられるー」


主人「はい目の前に七輪出すー」


奴隷少女「?」


主人「はいくさや焼くー」パタパタ


奴隷少女「ああああああ!!! 目に! 目にしみる臭さ!」ジタバタ


主人「ははは! 八丈島産のムロアジのくさやを肴に、島焼酎のロックを呑むのは最高だぞこのくさや奴隷がああ! たっぷり苦しめええ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る