第40話 慈悲を乞う奴隷の少女、主人は臥薪嘗胆して罰を下す
奴隷少女「ご主人様お許し下さい!」
華奢な少女の声が、悲痛に響く。
主人「いいや許さんぞこのゴミ奴隷が!」
肥満体の中年は、その光景に怒号を飛ばす。
奴隷少女「どうか、どうかお慈悲を!」
少女の頬は涙で塗れていた。泥で汚れた古いメイド服。
主人「よく俺が寝ている間に伊豆バナナワニ園のワニコーナーに放り込んでくれたなぁ! 無数のミシシッピワニに囲まれて食われるところだったわ!」
奴隷少女「申し訳ありませんご主人様! ご主人様が驚かせようと分園のレッサーパンダコーナーに放り込もうと思ったらうっかり間違えてしまって……もう二度といたしませんから! お許しください!!」
主人「黙れこのクロコダイル奴隷め! 噛みつきからのデスロールにとっさに回転方向を合わせて飛ばなければ腕をもっていかれる所だったわ! 世界まる見えテレビ特捜部を見てワニの特性を知っていなければどうなっていたことか!」
奴隷少女「普通は噛みつかれた時点でアウトなんですよねぇ……それにしてもこの主人ノリノリである」
主人「うるせぇ黙れマジで死ぬかと思ったんだぞこのクソ奴隷があああ!!! 今日という今日はもう許さん!!!」
△ △ △
主人「最近は暑いのでクーラーの設定温度は20度にしていましたが」
奴隷少女「はい」
主人「罰として27度にします」
奴隷少女「申し訳ございませんんご主人様あああああ!!!」
主人「うるさいクーラーの効いた部屋でアイスを食うのがお前の楽しみなことなどとうに知っているわ!! そのまま後悔していろこのエコ奴隷があああ!!!」
△ △ △
部長「会長……これが全社員の意思なんです!」
主人「ふん、飼い犬が俺の手を噛むというのか……」
部長「たしかにこの会社はあなたのもの……だがそこに働く私たちにも訴えたいことはある!」
主人「働きアリは大人しく働いていればいい……俺の都合のいい手足としてな!」
部長「あなたには私たちの苦しみはわからない!」
奴隷少女「ご、ご主人様、お茶が入りました……」
主人「うるさい! この部屋には入るなといっただろこのゴミ奴隷が!!」
奴隷少女「も、申し訳ありませんご主人様……」
部長「会長、いくら奴隷とはいえこんな子供に怒鳴る必要があるんですか!!」
主人「黙れ。俺のものをどう扱おうと俺の自由だ。この俺に逆らうだと? お前ら働きアリ共を慈悲をかけて優しく優しく扱ってやれば調子にのりおってなぁ……」
主人「なにが不満だぁ? お前らのようなやつらにはこれで十分だろ!?
完全週休二日制! 1日七時間労働! 有給は年三週間! ボーナスは6ヶ月分保証+出来高! 残業代全支給! 転勤無し!」
主人「今年の社員旅行はラスベガス! 保育所完備! 新年会忘年会は全部会社持ち! 週一回は俺の手作りカレーの日! 働きアリ程度にはこれで我慢しているのが分相応というものだ!」
部長「く、こないだの二次会でみんなが『つぼ八がいい』と言っているのにあなたが勝手に歌広場を決めるから! だからみんな怒ってるんです!」
主人「うるせぇな歌いたかったんだよ!! だいたい幹事やるやついねーから仕方なく会長の俺がやってんだぞ!? いいだろ二次会の場所くらい自由に決めても!?」
部長「社員旅行だって海外は怖いから沖縄とか国内がいいっていう人もいるんですよ!」
主人「やかましいわだったら国内組と海外組で班わけりゃいいだろが!!」
奴隷少女「あのご主人様……」
主人「なんだよ今大事な話してるからさ」
奴隷少女「大変会社の方々と揉めているようですので」
主人「うんだからちょっと大変だから部屋出といて」
奴隷少女「ここはやはり早急な解決方法をですね」
主人「おいクソ奴隷。その懐にある
奴隷少女「……チッ」
部長「い、今のは……?」
主人「パイナップルだ。気にすんな。とにかく二次会歌広場にしたぐらいでなんで怒られないといけねーんだよしかも部下から!?」
部長「カラオケが苦手な若いやつもいるんですよ」
主人「めんどくせーなそういう時代かあ。歌うの嫌なのか?」
部長「多人数でやると順番回ってこなくてイライラするから苦手だって」
主人「バリバリ歌うやつじゃねーかよ……」
部長「あとカレーはいらないって」
主人「またそれかよぉ……そんなダメか俺のカレー……」
部長「ダメですね。ココイチに行くやつ続出ですわ」
主人「もうやだぁ……生きていたくないよぉ……」
奴隷少女「ご主人様、元気出してください! ご主人様のカレーは……その、コメントしづらいですけど愛情は伝わってきますよ!」
主人「フォローになってねぇよ……」
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