第21話 帰ってきた慈悲を乞う奴隷の少女、帰ってきた主人は苛烈な罰を下す


大佐「もう逃げられんぞ。大人しく来てもらおう」


 無数の兵士を従え、無表情な男が冷酷に笑う。視線の先には切り立った崖と、晴天。

 そして、無力な二人。


少年「いやだ! 俺たちはもう戻らない! お前等の道具にはならない!」


 少年は、少女の手を握りしめて叫ぶ。僅かに震えていた。


少女「もう……私達は逃げられないの……」


 絶望の中で、少女は静かに涙を流す。


大佐「いいや……君たちには来てもらうぞ、資源乏しいわが国の産業であるアニメーター奴隷を労働力として売る政策のためにな!

そのために絵を描く人間の奨励をしてきたのだ!」


少年「お前等は人間をなんだと思っている!」


大佐「素晴らしいクリエイターだと思っているよ! 月給八万で1日十六時間絵を描く素晴らしい|経済動物(アニメーター)じゃないか!」


少女「鬼! 悪魔! 宮崎駿!」


大佐「なんとでもいえ! 少女のほうは個人サイトやpixivでファンも多い…ソシャゲのイラスト奴隷でも使えるな! 少年のほうはいまいちだが、エロ漫画のアシスタント奴隷にしてやろう!

者共、拘束しろ」


少年「やめろおおおお!!」


大佐「無駄なことはするな! 鉛玉を食らうぞ」パァン!


少年「ぐわあああ!!」ドサ


兵士「大佐、報告します! 未確認の旅客機を発見したとの報告です!」


大佐「あん? そんなものなんの関係が」


兵士「それが、なにかを投棄したらしいと……ああ! あれは!」


大佐「ん? な! 空からなにか」


兵士「大佐! 空から……空から太ったおっさんが!!」



主人「こおおおおおのおおおおおクウウウウウソオオオオオオ奴隷がああああああ!!!!」


 ズ ド ォ ン 


兵士「うわあああああ!!」


主人「あのゴミ奴隷が! 上空六千メートルの旅客機から突き落としおって!」


大佐「な、なんだ!? 人間かあれは? く、クレーターの中に人間が!」


主人「通信教育の『サルでも一週間でできるアイアンマン着地講座』を受けていなかったら死んでいた所だ! 帰ったらどう仕置きしてやろうか!」


大佐「き、貴様何者だ!」


主人「見てわからんか、ただの金持ちだ。……なんだ貴様、ガキ共に銃なんぞ向けて何が楽しい? あの少年、肩を掠めた程度のようだがお前が撃ったのか?」


大佐「質問に答えろ化けも」


主人「礼儀がなっとらん!」ドゴォ!


大佐「おぼおお!!」ドサッ


主人「ふぅ……おい少年」


少年「は、はい!」


主人「年端もいかぬとはいえお前も男だろう。いつまで寝ている。立て。男ならば女子供を守るために立たんか!」


少年「く! ち、ちくしょお!」ググっ


主人「よぉし、多少はマシな面になったではないか」


少女「あ、ありがとうございました……あなたは一体……?」


主人「ただの金持ちだ。俺はクソ奴隷に罰を与えねばならん。さらばだ」


少年「なんだったんだ……あのおっさんは……」


少女「わからない、でも」


少女「漫画のネタに使えそう」


 △ △ △


主人「というわけで帰ってきたぞおおこのクソ奴隷があ!」


奴隷少女「申し訳ありません! もう二度といたしませんから! ……パワードスーツ無しにアイアンマン着地は反則でしょぉ」


主人「やかましい! 同じ金持ちでも俺をあの鍛えてないもやしと一緒にするな!

というわけで早速罰を与えてやる!」


 △ △ △


主人「よし、水着に着替えたな。ではエプロンをつけろ」


奴隷少女「はい…」


主人「よしコロッケ揚げろ」


奴隷少女「あっつ! 熱い! 跳ねた油が! あつ!」


主人「よぉしこのままあと二十個は揚げてもらうからな! たっぷり苦しめこのクソ奴隷があ!」


 △ △ △


奴隷少女「ご主人様お許し下さい!」


 華奢な少女の声が、悲痛に響く。


主人「いいや許さんぞこのゴミ奴隷が!」


 肥満体の中年は、その光景に怒号を飛ばす。


奴隷少女「どうか、どうかお慈悲を!」 


 少女の頬は涙で塗れていた。泥で汚れた古いメイド服。


主人「俺が作ったガンプラ捨てやがったなあ! どんだけあのドム作り込んだと思ってんだ! 完成に三十時間かかったんだぞ!!」


奴隷少女「いえなんか壊れてたしキッタナイ色してたんでゴミかなって」


主人「ウェザリング塗装おおおおおお!! 壊れてたのはダメージ表現だよ! 全部そういう風にわざとやってんの! わざとなの!」


奴隷少女「あー、わざとゴミにしたものなんですか」


主人「ゴミじゃねぇーよこのクソ奴隷がああ!

やはりお前には罰を与えるしかないな! もう許さん!」


 △ △ △


奴隷少女「……」シャッシャッシャ


主人「……」シャッシャッシャ


奴隷少女「……」シャッシャッシャ


主人「……」シャッシャッシャ


奴隷少女「この細かいパーツのヤスリがけいつまでやらないといけないんですか……?」


主人「全部だよ全部! このあと組み上げもやってもらうぞ! お前は右手と右足とバックパックを担当な!  マスターグレードのEx-sはパーツ量が頭おかしい! 覚悟しろこのクソ奴隷が!」

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