第49話 慈悲を乞う奴隷の少女、主人はトライアンドエラーで罰を下す


奴隷少女「ご主人様お許し下さい!」


 華奢な少女の声が、悲痛に響く。


主人「いいや許さんぞこのゴミ奴隷が!」


 肥満体の中年は、その光景に怒号を飛ばす。


奴隷少女「どうか、どうかお慈悲を!」 


 少女の頬は涙で濡れていた。泥で汚れた古いメイド服。


主人「よくも俺が寝ている間に、悪魔召喚の生贄にしてくれたなぁ!」


奴隷少女「申し訳ありませんご主人様! ソシャゲの課金を月5万に戻したかったので悪魔召喚を試してみたんですが、『自分のもっとも大切なものを捧げよ』と魔導書に書いてあったのでじゃあご主人様で『……げる』っちゃっていいかなって」


主人「え、そういうこと……? もうしょうがないやつだなぁ、じゃあ今回は許してやるか……ってなるかボケカス奴隷がよぉ!!? クソみたいな理由で人を生贄にしやがって、目の前に図体と態度がデカいハエみたいなのがいて死ぬほどビビったんだぞ!!」


奴隷少女「張り切ってかなり強そうな悪魔召喚やってみたんですけど、またしても暴力で悪魔を黙らせるなんてさすがご主人様です!!」


主人「俺が若い頃にバチカンの悪魔祓いの手伝いをしていたことを知らなかったようだなこのおぞましい異端奴隷が!! 聖なるショットガンと聖なるメリケンサックを取っておいてたすかったぞ!」


奴隷少女「いくらなんでも聖句を唱えてお祈りすれば百裂拳にも悪魔祓いの効果があるってむちゃくちゃだと思うんですよ……いまでは悪魔さんもこんなに素直な仲魔になりました!」


ベルゼブブ「今後ともよろしく」


主人「うるせえ早く地獄に帰れ!! あと!!おまえ!!このあと!!罰な!!!」


奴隷少女「えー」


主人「あたりめぇだろ!!!」



 △ △ △


奴隷少女「うう……また椅子に縛り付けられた…」


主人「ほれ取り出したるは新鮮な鰻」


奴隷少女「うぅ……ピッチピチです……」


主人「九州産の天然ものだ。大きすぎず程よい太さでこれなら皮も身も柔らかい食べ頃だ。これを、捌いて」ピピッ


奴隷少女「なんという関東型の裂きの腕前……!」


主人「串うちして」グイグイ


奴隷少女「鮮やか……!」


主人「最初は蒸してから、その後は炭火で焼いて仕上げにこの事前に作っておいたタレをつけて」ジュワアア


奴隷少女「あぁぁ……匂いがぁぁ」


主人「できたぞ蒲焼のうな重……どうだ素人の手慰みだがなかなか仕上がってるだろう?食いたいか?」


奴隷少女「食べたいですぅ……」


主人「だめだ」


奴隷少女「あああ……!!」


主人「自分で手作りしたうな重は最高だなぁ奴隷よ!」ガツガツ


奴隷少女「ああああ……!!」


主人「かわいそうだからおまえには蒲焼さん太郎をご馳走してやる! ただし鼻から食うがいい!!」グイグイ


奴隷少女「いたいいたい!!」


主人「たっぷり反省しろこの糞奴隷がぁ!!」


ベルゼブブ「僕の分の鰻ないんですか?」


主人「おまえは早く帰れよ!!!」


 △ △ △


ンジャミヒン「主人さん……本当に行ってしまうんですか……?」


主人「ああ、この国も再建の目処はついた。あとはお前らこの国の若者たちの仕事だよ」


ンジャミヒン「あなたには沢山のことを教わった……この政情崩壊したアフリカの小国の財政建て直しと、他国からの交渉による復興援助の引き出し。未来へのビジョンを失っていた国民へ、新たな復興への道程を示してくれた」


主人「多少の経営知識を使ってコンサルタント紛いをやってただけだ。大切なことは、ホラを吹いてでも希望はあると信じさせること。そうすれば人は勝手に歩き出すもんだ」


ンジャミヒン「そして軍という名の野盗になっていた政府軍と反政府軍の鎮圧を行い、今日を生きるだけしか関心の無かった兵士達に教育を施した……私もその1人だった」


主人「まだ目が死んではいなかったからな。私にライフルを突きつけて喚いていたあの青年が今は内閣府復興産業省のニューリーダー……人は変わるものだ」


ンジャミヒン「あなたが変えてくれたんですよ……しかし政府軍や反政府軍を次々と腹をぶん殴って倒していった謎の覆面のレスラー男は一体何だったんですか?」


主人「人数が沢山いたからちょっと職人に頼んだの」


ンジャヒミン「……? まだ教わりたいことが沢山あるんです。本当に帰ってしまうんですか?」


主人「ああ、まだやることがあるからな」


ンジャミヒン「見てください。この建物の窓から見えたガレキの街も、今は復興によりどんどん新しい建物が経とうとしている……あなたにはこの国の立ち直る姿を最後まで見守ってもらいたいんです」


主人「いっただろ、あとはお前ら若者の仕事だとな。心配するな、俺のやることを一緒に見てきたおまえなら、必ずできる」


ンジャミヒン「……ホラを吹いてでも希望はあると信じさせる、ですか」


主人「希望も絶望も所詮はただの言葉なのさ。大ボラでも、信じて本物の希望に変えられるかはお前次第だ。そして俺は、お前らがそれを出来ると信じている」


ンジャヒミン「ありがとう、ありがとう主人さん……この国が生まれ変わったら、もう一度見に来てください」


主人「ああ、必ずまた会おう、さて、それじゃあ久しぶりにアレやっておくか」


ンジャヒミン「……?」


主人「ああのクッソ奴隷がぁぁぁ!!!!!」


ンジャヒミン「」


主人「よくも俺が寝てる間に内戦状態の小国に放置してくれたなぁぁ!!!!絶っっっ対に許さんぞぉぉぉおおおおおれ!!!!」



△ △ △


奴隷少女「あ、お帰りなさいませご主人様! 『アフリカ第二の奇跡』を起こして帰ってくるなんてさすがご主人様です!」


主人「うるっせええええよぉぉこのゲロゴミ奴隷がよおおお!!!?」


奴隷少女「す、すいませんご主人様が『春なのに寒くてやだなあ』と仰っていたので暖かいところにお送りして驚かせようかなと思って……私は馬鹿でマヌケな奴隷だから……」


主人「理由がどんどん雑になってんじゃねぇかよボケがよおお!! もうマジで許さねぇからなお前よおおお!!」


奴隷少女「お、お許しくださいご主人様! もう二度と致しませんので!!」


主人「聞き飽きすぎてデジャヴュすら感じるわこのゴキブリ奴隷がぁ!!」


 △ △ △


主人「はいこのテープを脛に貼って」ペタペタ


奴隷少女「はい」


主人「一気に剥がす!」ベリベリ


奴隷少女「はい」


主人「おまえスネ毛生えてないからあんま効果ないな」


奴隷少女「そうなんですよねぇ……」


主人「脇毛……も生えてないっけ」


奴隷少女「はい」


主人「そっかあ。じゃあどうっすかな」


奴隷少女「諦めて晩御飯食べましょうよ」


主人「そっかぁ。じゃあそうっすかぁ」


奴隷少女「諦めのいいご主人様で良かったです!」


主人「そっかぁ。じゃあ眼にレモン汁の刑な」ブシュッ


奴隷少女「あぁぁぁぁ!? 目があああああ!!!??」


主人「ただで済ますわけねぇだろこの公害奴隷がよおおおおお!!!??」


ベルゼブブ「すいません、晩御飯まだですか?」


主人「だから!!! 帰れよおおおおお!!!!?」




□ □ □



皆様お読みくださってありがとうございます。


別の作品の「貴族令嬢がジャンクフード食って「美味いですわ!」するだけの話」が作画担当ごくげつさまにより

現在スターツ出版様の電子雑誌『コミックグラスト』にて絶賛コミカライズ連載中ですので、

宜しければぜひそちらもお読みください。

5億回くらい。

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主人「おのれこのクソ奴隷がぁ!」奴隷少女「ああ、お許し下さいご主人様!」 上屋/パイルバンカー串山 @Kamiy-Kushiyama

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