第43話 慈悲を乞う奴隷の少女、主人は三つの密に気をつけながら罰を下す


奴隷少女「ご主人様お許し下さい!」


 華奢な少女の声が、悲痛に響く。


主人「いいや許さんぞこのゴミ奴隷が!」


 肥満体の中年は、その光景に怒号を飛ばす。


奴隷少女「どうか、どうかお慈悲を!」 


 少女の頬は涙で濡れていた。泥で汚れた古いメイド服。


主人「お前さぁ……俺が寝てる間になにやった? 言ってみ。正直に!」


奴隷少女「えぇと……ご主人様が『最近はマスクが手に入りにくくて困るなぁ』と仰られてたので」


主人「おおこの御時世だからなぁ。孤児院や病院に配ると自分の使う分さえないわ。工場開発にも寄付したがあれも時間がかかるからなぁ」


奴隷少女「もしご主人様の身になにかあったらと思うと夜も眠れず……ご主人様になにかできることはないかとこの愚鈍な奴隷も一生懸命考えて」


主人「ほう。それでなにやった?」


奴隷少女「ご主人様が寝ている間にこっそりマスクの」


主人「マスクの?」


奴隷少女「入れ墨を口の周りに入れてみました」


主人「みましたじゃねええよバァァァカ! バカ! コロナより有害だなオメエはよぉ!!? みろダークナイトのジョーカーみたくなっちまったぞ!? 全然落ちねぇぞ!」


奴隷少女「ごめんなさい……マスクがどこにも売ってなくて……これも転売ヤーのせい……!」


主人「だからって入れ墨でいいわけねぇだろ常識で考えろよぉぉ! 転売ヤーだってお前みたいなサイコパスの責任取れるか!」


奴隷少女「あ、フィルター通さないと意味なかったですよね。メッシュとか縫い付けておけば良かったです」


主人「なに一つ反省してねぇなオメエはぁぁぁ!!!! もう許さん罰を与えてやる!!」


奴隷少女「ああ! もう二度といたしませんからお許しください!!」


 △ △ △


奴隷少女「……」


主人「はいやるぞ。早く始めろ」


奴隷少女「……やっ、やっぱりやめま」


主人「うるせーなやるぞっつってんだろこのバカ奴隷が。はい配信スタート!」


奴隷少女「みんなー! 奴隷男の娘竹輪農家鯖缶ハンタータピオカ黒魔術師アイドルのYouTubeチャンネル見てくれてありがとー! 今日は生放送のライブです!」


奴隷少女「春になって植木鉢で栽培していた竹輪が収穫できるようになりましたぁー!」


奴隷少女「今日はこの竹輪を使ったライフハックを紹介します!」


奴隷少女「この大きな竹輪をですね。穴のところを加えて呼吸すると」スピースピー


奴隷少女「なんと竹輪の殺菌効果をフェルター代わりに利用したマスクの代用になるんですよー! すごいですねー! 殺菌効果は竹輪の長さに影響するので必ず長いまま使用してください!」


奴隷少女「そ、それではここでリアルタイムでのみなさんのコメントを……コメントを見てみます……」


奴隷少女「『頭おかしい』……お、おかしくないよーライフハックだよー」


奴隷少女「『こういう笑えないのやめたほうがいい』はい、その通りです……」


奴隷少女「『このご時世にデマを広めるのはやめてください』……ごめんなさい」


奴隷少女「『食べ物を無駄にするな。工場長より』ヒッ、ご、ごめんなさいごめんなさい……」


主人「とうとう病院関係者からも苦情が来たぞ! 大人気で俺も鼻が高くてうれしいぞこのクソ奴隷がぁ! ほら視聴者さんにお礼だ!」


奴隷少女「み、みなさんコメントありがとー! ……もうやだぁ」



 △ △ △



奴隷少女「ご主人様お許し下さい!」


 華奢な少女の声が、悲痛に響く。


主人「いいや許さんぞこのゴミ奴隷が!」


 肥満体の中年は、その光景に怒号を飛ばす。


奴隷少女「どうか、どうかお慈悲を!」 


 少女の頬は涙で濡れていた。泥で汚れた古いメイド服。


主人「お前……Twitterで俺の顔写真アイコンにして本人名乗ってなにやってた?」


奴隷少女「申し訳ありませんご主人様! 私はただご主人様の偉大さ崇高さを世間の方々に知ってもらいたかっただけで」


主人「……なにやったお前は?」


奴隷少女「ご、ご主人様のご高名をより高めたく……でもこのバカで愚かな奴隷では良い方法が思いつかなくて……」


主人「で、なにした?」


奴隷少女「ご主人様を名乗るアカウントで『実はだいしゅきホールドの命名をしたのは俺だ』と宣言しました」


主人「なにひとつ俺の人生にプラスにならねぇぞそんな称号!?」


奴隷少女「そしたら『いやその発言はおかしい』とわざわざ証拠のログ付きで反論してくる人とレスバになり」


主人「どんどん俺にとってなにも得にならない展開だなおい」


奴隷少女「六時間の討論の末に最終的に言い負かされてしまいまして」


主人「ほんと無駄なことに時間つかうなお前」


奴隷少女「捨て台詞を吐いて鍵アカにして逃亡しました。私にもっと力があればこんなことには……お許しくださいご主人様!」


主人「そんな称号いらねぇ……お前もうSNS一生禁止な。インターネット開発した技術者の方々に下らない使い方して申し訳ないと思わんのか」


奴隷少女「ほかにも『俺のママになって』『ガナニー』などなど最初の発言者を名乗ってみましたがこれらもことごとく否定されてしまい」


主人「お前のやったことを否定するために無駄に時間を使った人に謝ってほしい」


奴隷少女「ですが、『ご主人様野獣先輩説』はなんとか受け入れられそうなんです!」


主人「やるなこのクソボケ奴隷がぁぁ!! もう許さんぞタップリ罰してやる!!!」



 △ △ △


主人「今まではお前の外出用にマスクを用意してやりましたが」


奴隷少女「はい」


主人「罰としてこちらの対BC兵器用ガスマスクをこれから使用してもらいます。安心と信頼のイスラエル製です」


奴隷少女「これ重くて不便なんですけど……」


主人「うるせぇなマスクがねぇんだよ黙ってこれかぶっとけクソ奴隷がぁ!」



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