第33話 慈悲を乞う奴隷少女、主人は執念を込めて罰を下す
鬱蒼とした森のなかを、巨漢が歩く。
太い腕。太い脚。みっしりと肉の詰まった胸板に、強靭な体幹を予想させる背中。
有無をいわさぬ圧力をまとう、鍛え上げられた全身は、裸だった。身につけるものは、レスラーパンツ、ブーツ、そして覆面。
レスラーパンツには『Aクラス腹パン職人』の文字。
腹パン職人、それは鍛えた肉体と積み上げられた努力により相手に一切の外傷を負わさずに、腹パンの苦しみだけを与えられる特殊技能を備えたもののみに与えられる称号。しかもAクラス、ハイレベルな心技体の持ち主である証。
腹パン職人「ぬ」
ブーツに何かが引っかかる感触──ブービートラップ発動のワイヤー、そう思う間も無く、頭上に人体より大きい丸太が降ってきた。
腹パン職人「ふっっ!!」
真上へ解き放たれる拳。拳圧により衝撃波が発生、落ちる丸太に拳がめりこみ、有り余る破壊力が丸太を砂糖菓子の如く粉々に砕く。
しかし、衝撃波が今度は腹パン職人の周囲のワイヤーを揺らす。振動に次々とトラップが発動。今度は樹上から丸太や岩が雨霰と降り注ぐ。常人ならば、いや常人でなくとも即死は必至。
しかし、腹パン職人ランクAとは、たかが常人を超えた程度で冠されるものではない。
腹パン職人「ふ、おお、おお!!」
巨大な拳が、今度は地面にぶち当たる。発生するクレーター、そして先ほどよりもより巨大な衝撃波に、全ての落下物が天高く吹き飛ばれる。
腹パン職人「また遊ぶつもりか、シャドー!」
腹パン職人の声に、木々の影から染み出すように人影が現れる。
細身、だが引き締まった筋肉と、シャープな体系。そして覆面、レスラーパンツ、ブーツ。それは全て漆黒だ。そして研ぎ澄まされた緊張感をまとう。抜き身の刀のような男だった。
腹パンシャドー「この程度では遊びにもならんか」
腹パン職人「シャドー、なぜだ……なぜお前ほどの天才が腹パン協会を抜けた! 俺さえしのぐ才能のお前が、なぜ裏腹パン結社に!?」
腹パンシャドー「飽きたのさ……腹パンの苦しみのみを与え非害非殺にこだわる協会の奇麗事にな……相手がどうなろうと、思う存分に腹パンをせずなにが腹パンよ!?」
腹パン職人「才能溢れるお前が……堕ちたか……腹パンの暗黒面に……! 師匠に、師匠になんという気だ!?」
腹パンシャドー「俺の才能……? たしかにお前とは兄弟弟子……だが俺が十種の技を覚えるとお前は一種の技をひたすらに極めていた……師匠はいつもお前ばかりを誉めていたよ……『一のみを極めるものは百を知るものを超える』とそう言ってな」
腹パン職人「僕は……ただ愚直にやるしか能がなかっただけだ。お前の才能がうらやましかったのに!」
腹パンシャドー「下らぬ、実に下らぬ記憶だ! こうして『闇』に堕ちてみれば実に下らない! 思う存分腹を殴れれば、それでなにも後悔はない!」
腹パン職人「貴様ああ!!」
腹パンシャドー「お前を呼び出したのは、下らぬ話をするためではない。腹パン職人としてケリをつけるためだ! 勝負を申し込む!」
腹パン職人「まさか……腹パンファイト!?」
腹パンシャドー「そうだ! ひとりの相手に交互に腹パンを打ち合い、先にギブアップさせたほうを勝ちとする腹パン界の決闘!」
腹パン職人「だが誰に!?」
腹パンシャドー「こちらの協力者にお願いする どうぞ!」
主人「む う う う う う ぐ う う が あ あ あ ! !」ジタバタ
腹パン職人「なんだ? 木に鎖で縛り付けられて猿ぐつわされたおっさんが!? なんか見たことある人だ!」
腹パンシャドー「とある女の子から『腹パンされるのが趣味の人がいる』と紹介されてな! 協力をお願いした! 今日はお願いします!」
腹パン職人「お願いします!」
主人「がああああ!!」ジタバタ
腹パンシャドー「というわけで本人から承諾を取ってあるからコンプライアンス的に何の問題もないぞ!」
腹パン職人「そうか、コンプライアンス的に問題ないなら全力でぶん殴っても何の問題もないなさすが兄弟子!」
腹パンシャドー「ああ、コンプライアンスは大事だ! それでは腹パンファイトオオオオオッ!!」
腹パン職人「レディイイイイイイッッ!!」
腹パン職人・シャドー「「ゴオオオオッッ!!」」
主人「ぬがあああああああ!!!」
△ △ △
主人「ああああああ!! クソ奴隷ええええ! クソ奴隷はどこだああああ!!」
奴隷少女「ああ、お帰りなさいませご主人様……なぜそんな衣服が乱れて……? まさか性的暴行!?」
主人「うるせえええんだよバアアアアカ! バアアアアカ! なにが腹パン職人だあいつらあああああ!! 鎖引きちぎってなんとか逃げてきたわああ!! なにが決闘だ、ただのリンチじゃねぇか!! 5発もやられたぞ! 5発も腹パンやられたんだぞ!! この怒りどうしてくれる!!!」
奴隷少女「そんなに殴られて……ご主人様がかわいそう……」
主人「だから全部オメエのせいだろこのド畜生奴隷がよおおおお!!??」
奴隷少女「ち、違うんです、これは私じゃなくて!」
主人「ああああん? こんなことするのお前以外にいるかあ!?」
奴隷少女「これは……あの、私の中のビリーという凶暴な腹パン好きな人格がですね」
主人「急に思いついた設定いえば許されるって思ってんじゃねーぞこのクソ奴隷がよおおおお!?? もうマジで今回は許さねーからなああ!!」
△ △ △
奴隷少女「こ、今回は非常にご主人様に申し訳なく……」
主人「はい心がこもってない。しいたけ」ポイッ
奴隷少女「うぅ……こ、このようなことはもう二度といたしませんのでお許しくださ……」
主人「まだだめだな。ピーマン追加」
奴隷少女「お、お許しくださいいい!!もう二度といたしませんからあああ!!」
主人「うーん足りないな。はいらっきょとしもつかれもいっちゃえ! あとハチノコ! そしてミキサーのスイッチオン!」ギュオオオオオオ
奴隷少女「やめてえええ!!」
主人「お前の嫌いな食材でスムージーつくってやったぞ! 真面目に謝れば食材を減らしてやるといったが誠意が足りんからなにも引かん! さあ飲めええええ!!」
奴隷少女「いやああああああ!!!」
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