第3-7話「シャルル」




 スターウルフが新たに手にした力というのは光の剣。スターウルフの正体であるユウのクラスメイト、デンタの発明がその力を発揮した。

 デンタが渡した筒の招待は、光弾レーザーを剣状にとどめる装置だ。スターウルフの武器の特徴を聞いたデンタは、せっかく出した光弾レーザーという技が一瞬の勝負になってしまうことを勿体なく思っていた。どうせならそれを留めておいて、好きなように振るえる状態を作れたらと考えたのだ。

 それが光弾剣レーザーソードだ。突けば光弾光線レーザービームと同等の貫通力を誇り、斬れば大抵のものは切り捨てられる。というのも、デンタの遊び心がこの発明に現れており、刀身を高速で振動させることで鉄でもダイヤでも斬れる武器として完成した。

 ただ、そんな高性能な光弾剣レーザーソードにも欠点はある。まずグローブを光弾銃レーザーガンに変形させる必要がある。筒に光弾レーザーを放つことで剣を構成する必要がある。つまり変形する隙を作らなければならないのだ。


「これは改良の余地ありです」


 ドグシーとの戦闘を終えた後、変身を解いたユウとウォルフ、デンタは共に帰路を辿っていた。

 デンタは今回の戦闘で使われた光弾剣レーザーソードを見て感想を述べた上で決意する。ユウとしてはこの武器のおかげで随分と戦いやすくなったと感じていたから満足していた。だからデンタの向上心には目を引いた。


「なんでそこまで僕のために頑張るの?」


 恩返しがしたいとデンタは述べていた。しかし、恩返しにしたって普通なら何かを渡して終了なはずだ。スターウルフの戦闘を全面的にサポートする姿勢を見せるデンタを見たユウは疑問に思っていた。危険な状況など吐いて捨てるほど出てくるだろう。そこに自ら巻き込まれに来るのだから、そう疑問に思うのは当然の結果といえる。

 その質問をデンタは考える措置もなく答えた。


「僕も正義のヒーローになりたいんですよ」

「ボク、正義のヒーローになるつもりなんてないんだけど……」

「でもやってることはまさにそれですよね」


 全くその自覚がないユウにとって、その言葉は少しむず痒かった。スターウルフが正義のヒーローであると断言するデンタは、その言葉を撤回することはないだろう。ユウはそこは敢えてスルーして話を進めていく。


「でもそれだと、計山は裏方に回ることになるよね。正義のヒーローっていっても地味なポジションになるんじゃない?」

「どんな特撮でも裏方という存在は重要ですよ、英くん」


 特撮ヒーローに登場する主人公は一人では戦わない。何らかの組織が裏方となってサポートする存在が必ず存在する。その役にデンタはなりたいと申し出たのだ。

 状況判断能力や推察力、発明好きなところ、さらにはユウと同じ立場にあって理解しやすいという彼はかなり適任であるといえる。


「今後、ボクもウォルフと話ができるようにしますので。色々ウォルフには協力してもらいますが」

「例えばどんな?」

「先程の戦いで、アグレッサーの魂の波長というんでしょうか、それを観測しました。これを上手く調整すれば、ボクも直接アグレッサーと対面できる装置が作れるんです。ウォルフに協力してもらうことは波長の帳尻合わせですね」


 現在ではウォルフの言葉はユウの口を通してデンタに伝えられる。確かにそれで意思疎通は叶うわけだが、それだとユウに不便が生じてしまう。魂魄融合をすれば直接会話できるが、毎回それをやるにはリスクが高い。デンタの言う通り、ウォルフと直接対話できる手段があれば、万全の状態でスターウルフをサポートできる。

 ウォルフは乗り気だ。デンタを戦いに巻き込む気満々のウォルフにとってはありがたい提案だ。


「明日か明後日、時間が取れたらボクの家に来てください」

「今から行ってもいいけど……」

「いやユウ。テメェは一旦休め」


 日程の調整をするデンタに対し、予定に余裕があるユウは気軽なことを言う。しかし、魂魄融合で体力を消耗しているユウには休息が必要だ。ウォルフはそう危惧して後日に回すことを指示する。

本当ならユウには休んでもらって、ウォルフだけで行くことも考えられるが、細かいところで指示ややり取りを考えると、どうしてもユウの存在が必要不可欠となる。そんなわけでこれからのことを後日に回してユウとデンタは解散することになった。


「明日から、またよろしくです。優雨君」

「うん、まぁよろしくね、デンタ」



====




 翌朝。よく寝て、よく食べて、よく休んだユウはいつも通り学校に登校する。母である日和にお使いを頼まれて白河家に寄ってから登校するハメになったユウは、いつもより早めに出発して遠回りにはなるがカリンの家に立ち寄った。

 その中で、ユウは驚愕の表情を見せた。


「……なにやってんの?」

「…………」


 ユウが見るのは、昨日戦闘をしたアグレッサー、ドグシーの存在だった。

ジャーマン・シェパードに取り憑いたドグシーは、ついにその肉体から抜け出すことは叶わなかった。スターウルフとの戦闘で敗北したあと放置され、目が覚めたら大雨の中で一人立ち竦んでいたのだという。

 そこにたまたま通りがかった一人の少女が白河カリン。下校途中で見かけたボロボロの犬を連れ帰って、動物病院で処置をしてもらってから飼育することになったのだとカリンは言っていた。


「この子の名前をまだ決めてないのよ。どうしましょ」

「僕の名前はドグシーッス!! この方にお伝えしてください!!」


 ドグシーの言葉をユウは理解できる。アグレッサーと接触しているユウにはしっかりとした言葉になっているのだが、カリンにとっては「わんわん」と鳴いてるようにしか聞こえない。

 拾ってきた犬の名前を考えるカリンに対し、ドグシーは自分の名前をユウに告げるように申告している。しかし、タイミングが掴めずにカリンは名前を決めてしまう。


「マリーアントワネットなんてどうかしら」

「だからドグシーッス!! 頼みますよ、人間、伝えてくださいよぉ……」


 カリンはドグシーに「マリーアントワネット」と名付けようとしていた。だが響きが気に入らないらしく、どうするべきかとユウに相談を持ち掛けていた。

 他にも「マリアテレジア」「ソフィー」などという名前の候補を建てていたが、どれも女性の名前だ。

 敵であるドグシーの存在が、幼馴染のカリンの元にいる事実に危惧するユウ。彼の牙がカリンに向いたらと考えると冷や汗が出てしまう。


「カリン、この犬は止めた方がいいと思う」


 理由は述べられないが、率直な意見を告げる。ユウの言葉を聞いて、不機嫌な表情をするカリン。どこか癇に障ったのか、怒っているようにも見える。


「それってどういうこと?」


 理由を聞かれてしまうのは当然だった。自分で助けた命を見捨てろと言われたのだ。機嫌が悪くなっても仕方がない。

 カリンは見知らぬ獣を助けるほどのお人好しではない。カラスに襲われてる野良猫がいてもそれが自然の摂理。車にはねられて遺体となった動物を見ても同情をするだけで終わる女の子だ。自ら関わって問題になっては困るからだ。だから気に食わない。なぜ今回に限ってドグシーを助けるような真似をしたのか。

 なんとかドグシーをどこかに解放するように促したいユウだったが、言葉が見つからない。


「これって所謂野良犬ってやつだよね。カリンに噛みつかないなんて言えないよね」

「人馴れしてるから平気だと思うわよ」

「何か病気あるんじゃない?」

「お医者さんに診せたから平気よ」

「でもさ……」

「あのね、ユウ。飼う飼わないに関して、アンタの意見は聞いてないのよ」


 この言葉がなんだか喧嘩腰に見えて、ユウは怪訝な表情を見せる。ユウとしてはカリンを心配しての発言だ。アグレッサーのことを言うわけにはいかないユウにとって、遠回しではあるが、この犬は危険であることを伝えようとしていた。だからこの喧嘩腰は少し不愉快だった。


「この犬は危ないって言ってるんだよ、カリン」

「そんなの私もわかってるわよ」


 自分の気持ちを率直に告げるユウに対して、カリンは率直な気持ちで返してきた。思わず黙ってしまうユウにカリンは告げる。


「私の心配をしてくれてるのはわかるのよ。でもね、私は多分、この子を見捨てられない」

「なんで?」

「……これはあまり言いたくないんだけど、言わないと納得しないわよね。アンタ」


 カリンは唇に親指の関節を添えて考える素振りを見せる。考えるというより迷ってるのかもしれない。ここでユウを怒らせたまま追い出してもよかったが、そうなると色々と面倒なことが起こる気がする。カリンは少し間を置いて言うことにした。


「この子の目がアンタに似てるように見えたのよ」


 少し弱々しく小さな声だったが、ユウの耳には届いていた。ユウは首を傾げてドグシーの顔を見た。どう見てもただの犬の目だ。これをどう見ればユウの目と似てるのかがわからなかった。

 そんな疑問を持つユウに対して、カリンは続けて言った。


「昔、敦さんが亡くなった時のアンタの目とそっくりだったのよ。この子」


 敦が異空間で行方不明となり、死亡扱いになった時期。全てに見捨てられたような感覚がユウを襲った。独りになったような気がして精神的に追い詰められていたのを覚えている。

 そういう意味では独りになったという感覚がドグシーを襲っていても違和感はない。真っ向から慕う兄貴に拒絶されたドグシーは独りになってしまった。尚且つ魂魄融合をしてから肉体から分離できないため、他のアグレッサーともまともに交信ができない。

 完全に取り残されてしまったドグシーは、ある意味あの頃のユウと似たような心情にあるのかもしれない。


「そう思ったらいても経ってもいられなくてね。思わず連れてきちゃったわ」

「つまりボクとこの犬が似てたから連れてきたってこと?」

「んー、まぁそういうことね」


 釈然としない結論になったが、カリンがそう感じてしまったのだから仕方がない。隣にいるウォルフも「言われてみれば」と呟きながら頷いていた。納得は行かないが。

 だからカリンはドグシーを見捨てることは無い。それをしてしまうと、ユウを見捨てるような気がして収まりが悪いから。別にユウに好意を持っていて、存在を重ねるために拾った訳では無い。

 釈然とはしないが、本当に釈然とはしないが、仮に百歩譲って拾った理由を納得したとしても、ドグシーが危険な存在であることに変わりはない。もしカリンが手放さないというなら、無理矢理にでもユウが奪い取ることも考えていた。なんならユウの傍に置いておくのも一つの手だと考える。


「人間、僕はそこの女に手を出せないッス」


 唐突にドグシーがユウに告げた言葉。カリンを目の前にドグシーと会話をするわけにはいかない。それを察したウォルフが代わりに問いかけた。


「どういうことだ?」

「僕の宿主の魂がその女を気に入っちゃったんス。どういう理由かは言いませんが、完全に服従してしまっています」


 人間に深い恨みを抱えてるはずのジャーマン・シェパード。しかし、一つだけ戦いの中で矛盾を感じていたユウ。それは、ジャーマン・シェパード自身はスターウルフとの戦闘で一切手出しをしていない点である。本当に人間に対して恨みがあって、目の前に人間獲物か現れた時、真っ先に攻撃していたはず。それがなかったということは、なにか深い事情があるのではと推測する。

 もしドグシーの言い分が本当なら、ジャーマン・シェパードがカリンを襲うことはないのかもしれない。そして、ジャーマン・シェパードと完全に同化してしまっているドグシーも襲える環境にはないということになる。


「この女をテメェが襲わねぇ保証はあるのか、クソガキ」


 確証を得られないユウに代わり、ウォルフがドグシーにそう問いかけた。


「100%安全である保証はできないッス。けどボク自身はこの女に恨みはないッスからね」


 ドグシーはそう言い切る。ドグシーがスターウルフと戦ったのは、ユウに対して個人的恨みがあったからだ。人間に対してはそこまで敵意を持ってはいない。もしドグシーがカリンを襲うとすれば、宿主のジャーマン・シェパードが心変わりをしてしまった場合に限る。それが絶対にないと保証ができない限り、ドグシーは自分を安全であるとは言いきれない。

 ユウは犬の頭を撫でる仕草を見せると同時に顔を近づけ、ドグシーにしか聞こえない小声で呟く。


「もし、カリンを襲うようであれば容赦しないよ」


 それはユウとしてではない。スターウルフとしてドグシーに告げていた。

 彼の反応を予測していたドグシーは「わかってるッス」とだけ言って落ち着く。


「とりあえず、この子は男の子だから、マリーアントワネットって名前は可哀想だよ」


 先程の名前の話題を掘り返して告げる。


「そうなの? じゃあ男の子の名前を考えないとね……、何がいいと思う?」

「いや、ボクに聞かれても……」

「よし、『シャルル』にしましょう」

「結局ボクの意見って必要だったの?」


 こうして、ドグシーはシャルルと改名されてカリンの家で飼われることとなってしまうのだった。


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