スターウルフ、誕生
第13話「アグレッサー人」
ユウは挑もう。異世界探訪の夢を。
ユウは叫ぼう。友達を守りたいと。
ユウは呼ぼう。友達を。ウォルフを。
さあ、始めよう。
オレたちの、ボクたちの。
新たな伝説を。
====
ユウは目覚める。
飛び起きる。
その姿はまるでヒーローのような青い全身タイツに身を包み、硬い胸当てが付けられている。長くごついブーツ、自分の手では余るくらい大きな鉄の爪。そして頭に身につけた青いヘルメットは狼の形をしていた。
「これは……」
『魂魄融合だ』
「……? ウォルフ?」
直接頭の中に届くようなウォルフの声。いつもは耳を通して声を聞くのだが、その過程を今は吹き飛ばしている。
『オレと目的を共にすることを決めた人間は合体できる。つまり魂魄融合だ』
「なんか力が溢れてくる気がする……」
『オレと同化してるからな。それよりいいのか?』
言われて思い出した。今はタケシが暴れていることを。
急いでその場所に戻ろうと地面を蹴ったその時だった。
「うわあああっ!!」
勢いが着きすぎたユウはそのまま向かいの壁まで激突してしまう。
それまでは騒いだり泣き喚いたりしていた子供たちの声は止んでこちらに向かって注目する。
「や……、飛びすぎた……」
『力加減はこれから覚える必要があるな。それよりユウ、前を見ろ』
「ん……?」
言われた通りに前を見てみると、涙を流しながら目を丸くしてるもの、震えながら頭を抱えるもの。タケシの周りには特に異様な状況で、何人も暴行を受けた後があったり、突き飛ばされた後があったりする。どうやらユウと同じように止めようとして吹き飛ばされたり、殴られたりしたのだろう。その光景を怯えて隠れる子や震えるもの、錯乱する者に分かれて完全に和を乱していた。教員が一番多くの傷を負っていた。
勇気のある行動だが、すべてが無駄に終わってしまっている。
未だにカリンの腕からは手を離さない。
「これは……」
『全員がアグレッサー人に操られてんだ』
「ど、どういうこと……?」
『いや、全員じゃあねぇな。あのデブ餓鬼に捕まってる女以外が操られている』
「操られてなんでこんな状況になるの……?」
ウォルフの言葉を信じるなら、カリンを襲ってるタケシならまだしも、タケシに抵抗したほかのクラスメイトや、女性教員。さらには影で怯えてる生徒達を含めた全員が操られていることになる。
もし操るならタケシのようにあからさまな行動に出るものだと思うのだが、この光景はそれとは全然違っている。
『正確には操られてるというより、操られて欲望に忠実になっている』
「欲望に忠実……?」
『女を手に入れたい、女を助けて気に入られたい、子供を助けていい教師になりたい、怖いから助かりたいといった欲望がこの状況を作り出したんだ』
「……とにかくカリンだけは操られていないんだよね?」
『そうだ』
ユウは何事もなかったかのように歩き出す。見つめるは一点、タケシとカリンの二人のみ。カリンは謎の男の登場に一瞬だけ意識を奪われたが、すぐに腕の痛みで表情を歪める。タケシが腕を掴む力を更に強めたのだ。
ギシギシと軋む音がさらに強くなる。もう完全に折れてるのではと思う。
それでも声を挙げない。彼女はユウが突き飛ばされてから、もう声を挙げなくなった。泣きながら睨みつけるだけで、声を挙げることを、叫ぶことを、怒鳴ることを止めた。ただ視線で訴えた。お前の望むとおりにしてやるものかと。彼女にはタケシの望むことはわからない。だが、ここで声を挙げてしまえば彼の、タケシの思い通りになってしまう気がした。
だか負けじとタケシを睨みつける。時折ユウが吹き飛ばされた方向に視線を向けながら。
「その手を離せ」
タケシの左腕を掴むユウ。その力は強く、次第にタケシの手の力が弱まる。今まで誰も止められなかった、緩められなかったその力をユウは抑え込もうとしている。
「カリン」
タケシは空いた右腕に拳を作って振りかぶり、
分はタケシに有り。体格差を見るだけで、誰もがそう判断できる。しかし
『ユウ、こいつにアグレッサー本人が乗り移ってやがるぞ』
「……そうか、じゃあ君が、アグレッサー人なんだね」
「そうだよ」
ユウがそう言うと、タケシはすぐにカリンから手を離した。
どんなに説得をしても、どれだけの人間が力づくで止めようと微動だにしなかってタケシが、謎の男のたった一言で手を離し、さらに他の言葉を使うようになった。
「僕の名前は《ドッペル》。よろしくね、地球人」
「
「どうもしないよ、君次第ではあるけどね」
やっと解放されたことで鮮明に痛み出した自分の腕を抑えて震えるカリン。彼女は涙で溢れた目を拭いながら突然現れた男を見据える。
不思議な男だ。細く小さな身体。顔はヘルメットに隠れててよく見えないが、あどけなさが残る子供のようだ。それなのにごついブーツやグローブを身につけ、さらに重そうなヘルメットを装着しながら平然と立っている。
そんな注目のされ方をしているとも知らないユウは、タケシ改めドッペルに向かって問いかける。
「ボク次第?」
「そうさ。君次第だよ」
「どういうこと?」
「君は素晴らしいということさ」
ドッペルに取り憑かれたタケシは、ユウの持った疑問を他所に続けて発言する。
「さて、速度はどうだろうね」
そう言い終えると、タケシは魂が抜けたように気絶した。その代わりに黒い炎の塊のような物体が抜け出した。どうやらこれがドッペルの本体なのだろう。ドッペルはそのまま高速でその場を去る。追いかけてこいということだろうか。
当然カリンはアグレッサー人の本体を視認することはできないため、突然タケシが倒れたようにしか見えない。それはタケシだけではなく、ドッペルに操られていたであろう生徒達全員気絶する。その光景に目を白黒させることしかできない。
『ユウ、言っておくが正体は伏せておけよ』
「……わかってる」
そんなカリンに声をかけようとするユウに、ウォルフからの忠告が入った。ユウとてこんな姿になった自分の正体を明かしたいわけではない。ウォルフの忠告に小さな声で頷いたユウは、ゆっくりとカリンに近寄って言う。
「彼は操られていたんだ」
「あ……、あの……、あなたは……?」
カリンがユウに話しかけたその言葉は、完全に正体がバレていないことを意味する。少しだけほっとしたユウは、こう言葉を続ける。
「腕、痛かったでしょ。けどこの男の子のことは許してあげてほしい」
「操られてたって……、あの……」
普段は見られないほどの挙動を見せるカリンを少し新鮮に見ながらユウはなんとかこの場から離れようとした。しかし、次の言葉がカリンから放たれたことによってフリーズしてしまう。
「あ、そ……、そうだ……っ、ユウ……。ユウがあっちに……」
ユウの動揺はバレていない。カリンはユウが先程飛ばされた方向に視線を向けて様子を見に行こうと、腕の痛みを耐えて立ち上がった。
「大丈夫、さっきの彼はボクが避難させた。気絶してたけど、先に月に到着してるから、後で落ち合うといい」
「あ、そ……、そうなんですか……?」
「そうさ。ボクはこれから、この男の子を操っていた奴を追いかける。だからそこでじっとしてるんだ。いいね」
「えっ、あ、あの!! 待って!!」
今度はカリンの言葉では止まらない。ドッペルの向かった先にユウは飛び出した。
「あなたは一体……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます