第三章 地球人とアグレッサー
3rd prologue
住宅街の空中で謎の閃光が走る。これはユウらが住まうカラサワ町で一種の都市伝説となった。
秘密結社の実験が何らかの影響で火花を散らした。謎の宇宙船が地球にやってきた。幽霊が何かをしていたときに放ったもの。子供たちの間で憶測が舞う中、一人だけ的を射ている仮説があった。
「スターウルフ様よ、きっと!!」
天気は快晴。気持ちのいい朝日が照らすカラサワ町の通学路。現時刻は朝七時。その道を通る四人の子供たちの先頭を切る少女がそう言い放つ。
少女の名は白河カリン。金色の長い髪を靡かせながら歩く様は正にお嬢様。縦ロールの似合う整った養子に、周りの人間達は視線を奪われる。曰く綺麗な子だ。可愛い女の子。学校ではモテるのだろう。といった憶測が彼らの中に蠢いている。その後ろを付随するように歩行する三人の男子は宛ら、姫を護衛する召使いのように見えることだろう。
その一人である少年、英優雨はカリンの言葉を聞いて心臓が飛び出るような緊張感を感じ始める。
「でもカリン、オレらはそのスターウルフ様を見たことないんだよなぁ」
その言葉に真っ先に反論する少年は一番ふくよかな体型をしている。名を郷谷剛。宇宙での一件以来、タケシはカリンを名前で呼ぶようになった。カリンは変わらずタケシのことを「郷谷」と呼ぶが、これでも大きな前進であると思うようにしている。
彼は宇宙船での出来事を朧気にしか覚えてなかった。ただカリンを締め上げてユウを投げ飛ばしたことだけだった。スターウルフが途中で現れてタケシを洗脳から解放したことなど覚えていない。だからスターウルフとは何か。いきなり現れた架空の恋敵を思って悩むのが日課になってしまっている。
「スターウルフ様は王子様よ。きっとどこかの宇宙から現れた王族で、地球を守るためにやってきたに違いないわ!!」
スターウルフは宇宙人ではなく、異世界人であること。王族ではなく、一般庶民であること。カリンの物言いは全て妄想から来るものだ。唯一当たっている事柄といえば地球を守るという部分のみ。
そんな妄想に浸るカリンに、もう一人の少年が物申す。
「仮にそうだとして、そのスターウルフとやらは何と戦ってるんでしょう」
「きっと異星人とかよ……」
「なぜスターウルフとやらは地球を守るために戦うんですか? 異星人なのでしょ?」
「正義の味方なのよ、きっと。あぁ、スターウルフ様……」
カリンの妄想に正論で反論する計山電大。対するカリンは全て妄想、なんの根拠のない回答で帰ってきていた。
これはダメだとメガネを掛け直したデンタは、今度は後ろにいる少年に問いかける。
「英くんはどう思います?」
話題を振られたユウは軽く震え、なんとか誤魔化そうと言葉を探す。
「さ、さぁ……、ボクにはわかんないよ」
「……そうですか」
誤魔化せているだろう。若干怪しんでいるようだが、自分がスターウルフであることを隠したいユウはそう思うしかない。
宇宙遠足での一件から一ヶ月が経った。
全治二ヶ月と言われていたユウの怪我は一ヶ月早く完治ている。
これをウォルフはこう語っていた。
「吸血増強の影響だ」
ヴァンパイア改め、夢奏の行う吸血には二種類ある。眷属吸血と、吸血増強だ。眷属を作るために吸血する場合、人の血を限界まで吸血し、吸血鬼の血を置き換えることで成立する。一方、吸血増強とは吸血した血液をエネルギーに置き換えて返すことで、人体の増強を測った吸血である。この吸血増強で強まるのは筋肉などではなく、脊髄反射と代謝だ。つまり瞬発力を上げたり、怪我の治りを早くする機能が備わっている。
アグレッサーとの戦闘が終わった時、ユウが一切動けなくなったのは、怪我が一気に治り始めていたからだ。脳の八割が怪我の修復に回っていたため、他のことが疎かになる。そうなると喋ることが精一杯の身体となってしまう。
こうして怪我の治りを早くしたユウは、またアグレッサーとの戦いが待っている。
ウォルフを助けたことで、アグレッサーとの敵対関係が構築された今、それを避けることはできない。
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