epilogue




 宇宙船を宇宙ステーションに不時着させることに成功したスターウルフは、宇宙ステーションの中で隠れるように変身を解いた。

 怪我は変身していても治っておらず、操られたタケシによって投げ飛ばされた痛みは未だに継続中だった。その中で宇宙ステーションに滞在する人間を探して右往左往。やっと見つけた人間は幸いにも日本人だった。

 現場の人間と協力して救助されたユウらは、ステーションの中に備え付けられた救護室で養生することになった。最も、人数が多いために床に布団を敷いたところで眠る者や、ソファーで眠る者もいた。


 怪我というよりも、ドッペルの洗脳の影響で気絶してるだけのもののほうが多いのが事実だ。実際に怪我をした原因が一人の男子生徒、郷谷ごうたに たけしだ。

 タケシは一番に目を覚まして、自分が何をやっていたのかを思い出して顔を青くした。

 早速目を覚ましたクラスメイト、教員に向かって謝罪し、説教を受けるというサイクルを受けたタケシの一番の悩みはやはりカリンである。


 現在、タケシはカリンに向かって土下座をしている。

 二番目に重症だったのがまさに彼女だ。

 宇宙に放り出されて内蔵に負担が出たのもそうだが、一番はタケシに掴まれた左腕だ。結局左腕の骨が折れていて、ギブスを付けて彼女は立っている。

 二人の間にただならぬ空気が流れる。

 沈黙を保たれているその場で、カリンは一つ発言する。


「……私も、少しこだわり過ぎたかもしれないわ」


 話題の意味がわからないタケシを含めたクラスメイト全員が首を傾げる。

 そんな彼らを尻目に、カリンは続ける。


「あなたは何者かに洗脳されて、一番望むことを全力で望んでいたそうよ」


 タケシの顔は歪む。目尻の熱いものを感じながら、カリンの言葉を聞き受ける。


「あなたは私のことを名前で呼びたかった……そうよね」


 タケシは黙って頷いた。


「……私も、あなたに苗字呼びを強要していた。もしかしたらそれは過剰だったのかもしれないわ」

「白河さん……」


 タケシの声はすでに涙声だ。それを聞いてもカリンは笑わずに続けて言う。


「郷谷。許すわ」

「……え?」

「呼び方なんて、些細なものだったのよ。だから、許す」


 カリンは言葉に一拍置いて言う。


「あなたの好きなように呼びなさい」


 結論、カリンは名前呼びを許した。

 これはクラスメイトの間で震撼させる事件である。

 カリンの苗字呼びの徹底は有名なもので、それを撤回されてる人間は幼馴染のユウだけだ。例外はない。はずだった。

 それをカリンは撤回した。名前呼びだろうがなんだろうが好きにしろと彼女は言っているのだ。


「白河さん……」

「まぁ私は名前では呼ばないけれど」

「えぇ……」


 急な塩対応に若干顔を引きつらせるタケシ。だがこれもカリンなのだと納得すると自然と笑みが零れる。

 それに釣られたのか、カリンも少しだけ笑みを浮かべる。しかし、咳をひとつ払って再び怒りの表情をして告げる。


「あなたはもう一人、謝らなければいけない人がいるわよね」

「う……」


 カリンが言っているのはこの中で一番の重症を負った人物。首を絞められ、思い切り投げ飛ばされた幼馴染、ユウのことだ。彼が一番酷い怪我をしていた。首を締め付けられ、尚且つ硬い壁に投げつけられた。打撲や骨折も複数ある。首は固定され、包帯で全身巻かれている。カリンの全治が二週間に比べ、ユウの全治は二ヶ月とされている。


「スターウルフ様から聞いたのだけど、あなたは欲望と憎しみを掻き立てられるように操られていたらしいのよ。だから私を捕まえたり、ユウを投げ飛ばしたりした。あなたの意思じゃないことはわかる。でも、結局あなたが望んでやったことに変わりはないのよ」

「……はい」

「まだユウは寝たままだけど、起きたら早めに謝りなさいね」

「……はい」


 カリンの説教を受けて項垂れるタケシ。しかし、一つ疑問に思ったタケシは怪訝な表情を見せる。


「あの、白河さん」

「何?」

「スターウルフ様ってなんですか?」

「スターウルフ様? ふふ、スターウルフ様はね……、うふふ……」


 スターウルフのことを問いかけたタケシ。すると、カリンは人が変わったかのようににやけ始める。顔を赤らめて、気持ちが悪いくらいの笑いを漏らしている。


「スターウルフ様はね、私の王子様なの」

「……は?」

「私、決めたわ。私、スターウルフ様のお嫁さんになるって」

「…………ええええぇぇ!?」


 カリンは自分の命を助け、さらにファーストキスを奪ったスターウルフに完全にベタ惚れしていた。

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