第15話「スターウルフ」




 覚えているのは幼馴染と遠足の宇宙空間で喧嘩したこと。

 覚えているのはクラスメイトの郷谷ごうたにが私の腕を掴んできて痛かったこと。

 覚えているのは謎の男の子が私を助けてくれてこと。

 覚えているのは謎の男の子が何かと会話していたこと。


 覚えているのは投げ出された宇宙の中で初めての…………。



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 宇宙空間に生身で投げ出された人間の死因には諸説がある。

 曰く血液が沸騰してしまったこと。

 曰く身体中が瞬間凍結してしまったこと。

 曰く身体が爆発してしまったこと。

 しかし、それは全て都市伝説デマであることがわかっている。

 人間が宇宙空間で生きていける訳では無いのは変わらないが、宇宙に出た瞬間に死亡するわけではない。

 水分は真空に晒すと、沸点は低くなる。これは地上の気圧が低くなると沸点が低くなるのだという。平地の沸点は100℃。富士山の頂上では約80℃になる。そして水を真空に晒した状態の沸点は0℃なのだ。それが真空状態の宇宙で『血液が沸騰する』と言われる所以なのだが、血液には一定の圧力があるため、沸騰することはないのだ。

 宇宙空間は非常に寒い。そのために瞬間凍結の話が上がっている。しかし、宇宙は真空状態だ。真空パックと同じ原理で、高い断熱性を備えている。さらに体温を下げるのは水分が気化する時に起こる気化熱に限定されている。そのため、宇宙に放り出された瞬間に凍り付くことはまずありえない。

 爆発とは圧力の急激な発生、もしくは瞬間的な解放した結果がそれに当たる。しかし人間の身体には、爆発を起こすほどの圧力がない。

 それぞれの諸説に対して、これだけの理論で否定できる根拠がある。


 では宇宙空間での一番の死因とは何か。


 宇宙空間は真空状態であると言われている。つまり空気がない世界であるというのは常識と言っても良いレベルの話だ。

 つまり宇宙空間での死因は窒息であることが判明している。


 ユウはその事を朧気ながら知っていた。

 咄嗟にユウは宇宙空間に飛び出した時にどうしようかと頭を混乱させた。

 宇宙船から放り出されたカリンをすぐに抱きとめることができたのは僥倖だったと言っていい。しかし、呼吸ができていない。どうしよう。

 そう考えたのは一瞬だった。

 咄嗟に思いついたやり方で、ユウはカリンの窒息を免れるのだ。


『テメェは今、オレと魂魄融合したことで超人化している。宇宙に出ても呼吸し放題。空気をテメェは自分で作り出せるんだぜ』


 そう聞いたユウは、カリンに空気を直接送りこむ方法を実行した。カリンの唇に自分の唇を押し当て、そのまま空気を送り込んでいるのだ。キスをすることに躊躇いはなかった。人命救助に人工呼吸をするのと同じ感覚だった。


『あの火の玉からの光線はオレが防いでおいてやるから、とっととどこか地上に降りろ』


 火の玉。それは太陽だ。

 太陽からは熱、紫外線、放射線などが放出されており、生身でそれに晒されると一瞬で焼かれる。しかし、ウォルフの協力で身体から放たれた酸素で小さなオゾン層をユウらの周りで構築された。

 長時間この場にいるのは不味い。カリンに空気を送りながら辺りに視線を泳がせる。

 一番近くの惑星、人間が存在できる空間のある場所を探す。それが宇宙ステーションである。

 しかし、今のユウらは宇宙の中でふわふわと浮かんでいるだけ。推進力はない。頭を悩ませるユウに、ウォルフは言う。


『イメージだ。ユウ』


 イメージ。ユウは頭の中で反復して考える。しかし何のイメージか分からなかったために混乱する。


『宇宙で動くのに必要なものをイメージしろ』


 すぐさまウォルフから補足説明を受ける。

 宇宙で動くのに必要なもの。ユウのイメージはジェット機である。


『それを足に設置している自分を思い浮かべろ』


 ユウは思い浮かべる。昔のアニメの、足にジェット機を付けて空を飛ぶキャラクターを自分に置き換えて想像する。

 すると、ユウの身につける分厚いブーツの形状が変化する。それはまさにユウが想像したもの。ジェット機だ。


『さぁ、またイメージだ。ジェット機そいつで移動する自分のイメージを』


 ユウは思い浮かべる。ジェット機から炎を放って前進するイメージを。

 すると、ユウの身につけているジェット機から炎が放たれる。ユウらはそのまま足の向きとは逆の方向に向かって進んでいく。

 上手く足の向きを変えて、ユウらは宇宙ステーションに向かって移動する。

 未だにユウとカリンの唇はくっついたままだ。



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 宇宙ステーションに到着したことで、ようやくユウはカリンから唇を離す。

 カリンは僅かに意識を保っていたようで、自分がキスしていたことを理解していた。


「ふぅ、これで安心だね」

『他に人間はいねぇのか?』

「いるはずなんだけど……、それより宇宙船を何とかしないと」


 ユウは早速自分らが入ってきた場所から出発しようとした。しかし、次の言葉で呼び止められる。


「あの……」


 カリンだ。


「あなたは……誰……?」


 今まで聞いたことないほど弱々しい声だ。救命知識のないユウには、この状態が正常でないことしかわからない。どうすれば彼女を助けられるのかわからない。ここにいる人間のことを信じてカリンを任せるしかない。

 今はカリンの質問だ。ユウが何者か。ホントの名前を答える訳にはいかない。だからここで咄嗟に考えた変身中の名前を告げた。


「スター『ウルフ』ウォー……」


 ユウが咄嗟にスターウォーズと名乗ろうとしたのだが、途中でウォルフがウルフと口にする。


「スター……ウルフ……さん?」


 ウォーという発音は聞こえていなかったようで、カリンはスターウルフと確認を取る。


「いや、あぁ、まぁいいや」

『スターウルフだぜ』

「何勝手に付けてんの」

『テメェ、オレの名前を付けねぇつもりだっただろ』


 ユウは多少納得の行かない名前だったが、どうでも良くなったため、スターウルフで妥協した。

 そうしてユウは気を失うカリンを尻目に、宇宙船の方に飛んでいく。




 ここに誕生したのは、スターウルフという名のヒーローであった。



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