第二章 侵略者
2nd prologue
スターウルフが誕生して数日がたったある日のこと。
アマゾンの奥深く、人が立ち寄らない不気味な場所に、不自然に建てられた立派な羊羹がそこにはあった。
そこではアグレッサーと呼ばれる異世界人が集い、《あのお方》のための活動を勤しんでいる。
「ウォルフが裏切った……?」
蛇の形をしたアグレッサーが、頭を抱えるように思案する。
ウォルフといえば一匹狼として知られている。そのため、誰にも協力しない。依存しない。従わない。従わせない。そういったイメージで今日まで生きてきた。
しかし、この一報で全てが覆される。
「ホントなのか」
その一報を知らせに来た一人のアグレッサーに、蛇は確認のために問いかける。
羊羹に現れた一人のアグレッサーは見えない表情で不気味な笑みを浮かべて言う。
「あぁ、本当さ」
彼の話によると、やはりウォルフはドッペルと敵対し、人間と魂魄融合したことでスターウルフとなったことをこの場の全員に告げられる。
しかし反応は多種多様で、頭を抱えて悩む者、やはり裏切ったかと憤る者、まさかあの人がと悲観するもの。そして、私には関係ないもんと人形と遊ぶ人形。
「ねーねー」
メリーと呼ばれていた人形は近くにいたアグレッサー、ドグシーをグイグイ引っ張って問いかける。
「バンバンはどこー?」
ドグシーはメリーが自分に話しかけるなど珍しいこともあるものだと思っていた。問いかける内容を聞く限り、当人は質問にさえ答えられれば誰でもいいのだ。
人形遊びをする人形。一見一番弱そうな響きだが、彼女にはこの場の誰も逆らえない。普段は子供のようなあどけなさを持つアグレッサーだが、キレると一番やばいのも彼女だ。アグレッサーの中で彼女を叱れるものといえばただ一人、メリーが『バンバン』と呼ぶアグレッサー、ヴァンパイアのみ。
「そういえばヴァンパイアはどうしたんすか?」
「そういえば帰ってないな……」
今まで頭の片隅に追いやっていた事実を確認する。ヴァンパイアが一日以上ここを空けておくことはありえないから、当然どこかにいるものだとドグシーは思っていた。それは問われた蛇も同じ様だ。
しかし、ヴァンパイアはウォルフと出たきり戻ってきていない。
「ヴァンパイアは何か考えがあるのだろうか……」
ウォルフは一度来訪しただけで疑念の目を向けられ、一人の報告で完全に裏切り者として断定するほど信用のおけない存在だ。しかし、ヴァンパイアが相手なら話は違う。彼女は彼らにとってリーダーのような存在だ。メリーは完全にヴァンパイアに懐いているし、蛇やドグシーだってヴァンパイアのことは頼りにしている。他のアグレッサーにとっても同じような存在で君臨するヴァンパイアの不在というのは精神的に与える重圧が大きい。特に準リーダーを自称する蛇にとっては顕著だ。
「ヴァンパイアなんてもう関係ねぇ!!」
ただ一人を除いて。
蛇の呟きを完全に否定する形で発言したのはウォルフと犬猿の仲で知られるアグレッサー、キングだ。
「オレがウォルフをぶっ殺しにいく!! ついでにヴァンパイアの野郎を探してやる!!」
「ちょっと待ってください!! ボクが兄貴を説得しますから、どうか穏便に……」
「そもそもオレがここで大人しくしてるのがおかしかったのだ!! オレは行くからな!!」
そう言いながらキングは羊羹のエントランスから飛び出した。目的地は日本。
キングが出ていったのを発端に、アグレッサーが羊羹から飛び出していく。
中でほくそ笑むドッペルを除いて。
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