アグレッサー

第2-1話「魂魄融合」




 鬱蒼と生い茂る森林が立ち込める山奥。そこに場に馴染めない身なりをした少女が大樹の枝に立って地上を見下ろしている。

 その少女は黒いドレスの白いフリルでふんだんに装飾されたゴスロリを身につけている。一見動くのに適さない服装で少女は枝から枝に飛び移ったりして機敏に動き回る。彼女の見つめる先にいるのは青い狼の型をしたヘルメットを被る少年だ。

 彼は学校をサボって能力確認のために森に訪れていた。ウォルフの指示の元、様々な能力を解禁させていく。

 この様子を静かに見守る少女、彼女もまたアグレッサーであった。


「……そろそろ騒がしくなるかの」


 見た目とは相反する言葉遣いをする少女。彼女はヴァンパイア。アグレッサーの中で実質リーダー、まとめ役に徹していた。しかし、ウォルフの一件が状況を一変させた。

 アマゾンに建設されていた羊羹を留守にすることがどのような結果に繋がるのかを彼女は理解していた。ある意味それが狙いだったとも言えないこともない。

 彼女が憂いているのはアグレッサーと、目の前の少年との騒乱の日々を思ってのことだった。


「いいんじゃな、これで」


 ヴァンパイアは今は居ぬ何者かに問い掛ける。

 返答はない。それをわかっている彼女は生い茂る森林の葉で覆われている天井の隙間から見える空一点に目掛けて視線を送る。まるで天国にいる何者かを想っているかのように。


はなぶさ あつしよ」




====




 英 優雨ゆう。彼は準不登校児である。週に一、二度の登校頻度だったのが、今週は四度登校している。ちなみにその四度は全てさせられている登校である。

 ウォルフ以外のアグレッサーと初めて接触したのが一昨日の出来事。初めて変身し、スターウルフと名乗ったのも記憶に新しい。昨日包帯で全身を覆われた車椅子の状態で、無理矢理させられている四度目の登校。幼馴染の白河しらかわ カリンに車椅子を押されながら無理矢理学校に連れてこられたのだ。


 正直怪我で不自由な身体なのだから休みたいと思うユウだったが、『アンタは休みすぎだからなんとか来なさい! 保健室直行してもいいから』と説得という名の命令をされた。カリンの命令はユウには拒否権がない。いや、あるはずなのだが、最終的には物理的に連れ出されることになる。どうやらどうしても中学受験をカリンの父親、白河 千無せんむに許可してほしいようだ。

 そうして登校するユウ。カリンだけではなく、計山けいやま 電大でんた郷谷ごうたに たけしと共に登校する。ここでひとつの変化を目の当たりにする。デンタに限っては変わらず小柄で丁寧な言葉遣いだが、タケシに関しては本当に違和感しかなかった。というのも、言葉遣いの粗雑さ、大柄で大雑把という性格は変わらないのに、ユウに対する人当たりを一変させたのだ。


 先日の宇宙遠足での一件、タケシから土下座で謝罪されたとき、ユウは考える素振りを見せる間もなく許してしまう。むしろ居心地が悪いからと土下座をやめさせたくらいだ。

 タケシはこんなに早く許してくれるとは思っていなかったらしい。カリンのような、むしろそれ以上の説教を覚悟していたため、かなり拍子抜けしたらしい。

 そのせいか、以前はユウを見る度に苦々しい表情で睨みつけていたタケシの態度が一変する。

 朝の挨拶では肩を叩いて「おはよう」と笑顔を向ける。ちょっと高い段差があったとき、率先してユウの車椅子を助ける。以前までのタケシであれば、カリンからお願い命令されないと助けず、助けても嫌そうな顔をしていたはずだった。しかし、今では気持ち悪いくらいの笑顔を見せている。

 タケシがここまで豹変したのには確かにユウからすぐに許しを得たことも関係している。しかし、もっと大きな理由が別に存在していた。それが今の彼女、カリンだ。


 あの日以来、カリンはことある事に上機嫌になり、妄想の渦に自らの意思を飲み込ませる。


「あぁ、スターウルフ様、今何処に……」


 今のカリンは完全に変身したユウの姿、スターウルフにベタ惚れしてしまっている。頻繁にスターウルフのことを思い出して懸想していた。これをタケシは面白く思わない反面、振られた(と思っている)ユウに同情の意味で態度を軟化させたのだ。

 これはタケシのみに留まらず、カリンに対して想いを抱く男子にも話しかけられるようになり、女子からは『捨てられたんだ』という同情の目で見られていた。


「どうでもいいからさっさと魂魄融合できる場所に行こうぜ」


 そんな現状をユウは理解出来ずに頭を傾げてると、常に共に過ごしているウォルフが急かすように言う。怪我で包帯だらけになっているユウだが、魂魄融合を使っている間は怪我の影響を受けず、影響を与えることもないのだそうだ。つまりスターウルフの状態では死なない限り、どんな怪我をしても英 優雨という人間の肉体には何ら影響はないということだ。

 だからウォルフは言っていた。スターウルフとしての能力を教えたいからどこかで訓練する時間を作れと。

 もちろんユウは朝から休むつもりでいたため、朝食を食べた後は早速魂魄融合をしようと部屋に戻ろうとしたところにカリンの登場。無理矢理登校の流れになった。


「周りに誰もいないよね」


 登校して朝礼をしてからユウは早速車椅子を一人で動かして人気のない場所に移動した。ウォルフに周りの確認をお願いした後で早速行う。


「さぁ行こうぜ!! ユウ!!」

「うん、魂魄融合だよ、ウォルフ」


 そうして魂魄融合を果たしたユウは学校から抜け出し、山に向かう。そこが一番訓練に丁度いいからなのだそうだ。

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