第2-7話「リンチ」




 住宅街の真上。そこでは人間の目には写らない生物たちの死闘が繰り広げられていた。死闘とはいうが、実質これはリンチと言っても過言ではない。

 一人のアグレッサー、ウォルフを囲い、三人のアグレッサーで攻撃を仕掛ける。初めは悪戦苦闘ながら、よく凌いでいたものだと褒めたものだった。しかし、それは攻撃を受けながらも反撃を忘れない。


「スネイルフルスタ!!」


 蛇の型を取るアグレッサーが尾を激しく振り回して、鞭のようにウォルフを襲う。対するウォルフは尾を掴み、蛇を振り回して投げ飛ばした。その先にいるキングに激突しそうになるが、既のところでその場を移動して避ける。


「邪魔だスネイブ!!」


 キングは蛇のアグレッサー、スネイブにそう告げた後、猛スピードでウォルフに向かって飛ぶ。手に生えている鋭く長い爪を向け、頭を目掛けて突き出した。そのスピードにウォルフは対応しきれず、身体を逸らすも肩にその爪を掠めてしまう。


「くっ……」


 こんな感じでウォルフは連携とも取れない三人の攻撃を所々で受けてしまう。身体はボロボロで、息も上がってきた。


「喰らえーっ!!」

「うぜぇ!!」

「うぐぅっ」


 背後から飛んでくる鼠の型を取る小さなアグレッサーがウォルフに向かって突進する。それをウォルフは軽く小突いて軌道を反らせる。


「モッドテメェ、いいご身分だな。誰に歯向かってるんだぁ、あぁ!?」

「あ、ごめんなさい……って、裏切り者のウォルフに言われたくないッチュ!!」


 モッドと呼ばれた鼠型のアグレッサーは、一瞬ウォルフの剣幕にビビって萎縮してしまう。しかし、近くにはキングやスネイブがいる。強いアグレッサーの影に隠れて大きな態度を取るのがモッドの性格だ。


「テメェ、ウォルフだろうが。ウォルフ

「あ、すみません……ウォルフさん……」


 だが結局負ける。


「貴様は邪魔だ!! 去れ、モッド!!」

「なっ、邪魔とはなんだよ!! キング!!」

「あ? 何呼び捨てにしてんだ、モッド」

「あ……、すみません、キング様……」


 つまりはこういう立ち位置だ。

 アグレッサーにも上下関係というのがあって、ヴァンパイアを筆頭にメリー、キングとスネイブ、一番下にモッドという立場がある。最も全てが自称で、その立ち位置で一番敗北したのがモッドだった。つまり一番弱い立場だということ。という認識をキングは持っていた。

 だからこそ、下にいる者がキング上にいる者に楯突くのは気に食わない。裏切り者としてモッドよりも下の立場になったウォルフなどを見れば有頂天の怒りを見せる。


「あ、キング!! ……様」

「んあ? ぐへっ」


 けれどそれはウォルフには関係ない。キングがどんな思惑を持っていようと、ウォルフは一匹狼を貫く。

 キングがモッドにガン垂れている隙に猛スピードで迫り、拳を作ってキングを殴り飛ばした。

 完全に隙を突かれたキングは力の法則に従って吹き飛び、コンクリートの道路に激突した。


「キングーー!! ……様」

「なんだ、アグレッサーってのはアホしかいねぇのか」

「アタシをそいつらと一緒にするんじゃないよ!!」


 キングとモッドのやり取りに呆れ返るウォルフの頭上から一人のアグレッサー、スレイブが浮かんでいた。

 スネイブはウォルフの上を取って、自分の化身である蛇を大量に呼び出して縄状にしてウォルフの辺りを囲い始める。

 蛇の包囲網が完成した。


「さぁウォルフ、逃げ場はないよ」

「こんなんでオレを縛れると思うか?」

「言っとくけど、この中にはエレクトがいるよ」

「……!!」


 ウォルフはここで初めて驚愕を表情に表す。

 エレクトとはアグレッサーの一人。止まった状態の実体を直視した者はいない。電流のような速度で移動するアグレッサーで、姿形をウォルフは知らない。もしこのエレクトが力を発揮すればウォルフは何万アンペアの電流が流れる。

 よく知られる電気の即死に関わる値はボルトではない。仮に人体に10万Vボルトを受けたとしても、実はピリッと来る程度の圧力しかない。普段感じている静電気ですら数万Vボルトで発生していることから、電圧の値では致死量を測ることは出来ない。

 人体が感電死する値は1Aアンペア。これだけの電流が流れるだけで、どれだけ電圧が低かろうと致死量となってしまう。つまり感電で死ぬ現象で一番重視しなければ行けないのは電圧ではなく電流の方なのだ。


 1Aアンペアでさえ人体は感電死してしまう。そんな電流をエレクトは何万Aアンペアの電流を自在に操ってしまう。

 アグレッサーといえども、これだけの電流を直に浴びてしまえば致命傷は免れないだろう。


「さぁ、ウォルフ。どうする?」

「なんだ、命乞いでも聞くってか」

「そうだね、アンタの態度次第じゃあアンタを無罪放免にすることも吝かではない」


 無理にウォルフは笑顔で余裕ぶっているが、内心では相当慌てている。人間よりは電流の耐性はある。とはいえやはり痛いものは痛い。それに即死はしないだろうが、長時間その電流を浴びると死ぬことに変わりはない。

 別にウォルフは誰にどう思われようとどうでもよいと本気で思う男だ。ここで命乞いをして情けない奴だと罵られようと、自分が生きれればそれで良いのだ。しかし、それは条件によって変わってくる。


「アンタと魂魄融合をした人間の居場所を吐きな」

「はっ、やだね」


 その質問にだけは答えられない。ウォルフは速攻で拒絶の意思を示した。

 スネイブはそれを予測しており、冷たい目でウォルフを見下していた。


「そうかい」


 スネイブがそう告げると、周りに漂う蛇の縄はどんどん凝縮していき、ついにはウォルフの身体に密着するようになった。そこから電流が流れ込んでくる。最初は微弱だったため、少しピリッとくる感覚だけで済んでいた。しかしリズムを取るように強くなったり、弱くなったりを繰り返してウォルフの身体を痺れさせていく。


「ウォルフ、ここで吐けば止めてやる。さあ、吐け」

「誰が吐くか」

「……エレクト」


 相当な痛みがウォルフを襲っているはずだ。普通の精神ならここで助かる選択肢を安易に取るはず。それなのにウォルフは頑なに情報を渡そうとはしない。

 そんな様子にイラつきを感じたスネイブはエレクトに指示する。言葉ではなく態度で。


「ぐわあぁぁ――――っ!!」


 強弱を繰り返していたのをエレクトにやめさせ、一気に電流を強めてウォルフを苦しめる。電流が外気に漏れ出て、ウォルフの身体中を目でわかるほどはっきりとした形で現れる。

 これを生身の人間が受ければ明らかに即死。アグレッサーのウォルフとてただでは済まない。


「さぁ、これ以上苦しみたくなかったら吐け!!」

「言う……かよ、ばぁか」


 強い電流を浴びながらウォルフはにやける。最期の意趣返しと言わんばかりのいやらしい笑みでスネイブを見つめる。これでスネイブは完全に怒り狂うだろう。顔を怒りで歪めるだろう。それを知っていながらウォルフは笑う。

 もうウォルフは自分の命を諦めていた。これでもしユウのことを話して生き残ったとしても、ウォルフには一生の後悔が残る。人類滅亡の計画を随順するため、魂魄融合をする人間など邪魔なだけ。たった一人時期をずらして殺しても問題は無い。だから確実にアグレッサーはユウを殺しに行く。その上、ウォルフはわかっていた。ここで正直に情報を渡しても自分は生き残れないことを。

 走馬灯というのだろう。ウォルフは思い浮かべる。この世界、全異空間の中で初めて出来た友達の姿を。随分冷たく接してきたとウォルフは思う。あいつの疑問を軽くあしらい、クソガキと言って罵った。あいつを利用しようと生活の邪魔だってした。けれど、ウォルフは楽しかった。初めて人間と話を出来て、はしゃいでしまった。外面には出さなかったが、ウォルフもユウと同じように感激していた。異世界人と話してわくわくするのは人間だけではない。ウォルフだってわくわくした。もっと地球のこと、人間のこと、英優雨という友達のことをもっと知りたかった。


(こりゃあ一匹狼の名も返上だな……、オレらしくもねぇ……)


 誰にも従わず、誰も従わせない。誰にも媚びず誰とも関わらない。それをウォルフは自分で破ってしまった。後悔はない。なぜなら楽しかったから。だからもう悔いはない。悔いはない。悔いはない。悔いはない。


 悔いは、ないのだ。


 だから、もういい。

 だから、もういいんだ。

 オレはこれで終わりだが、お前はそうじゃない。

 お前には未来がある。

 だから、お前は諦めることを知るべきだ。

 オレを助ける未来ではなく、自分が助かる未来を選ぶべきだ。

 オレを助けることは諦めるべきだ。


 だから、



「ウォルフ!!」



 来るんじゃねぇ。



「魂魄融合!!」


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