スターウルフ

尾裂狐

prologue



 赤く点滅する室内。

 空気を揺らす警告音。

 空間を揺らす衝撃。

 場に漂う黒い煙。


 この場に揃った全ての要素が、絶望の一途を辿っていた。


「どうなっているんだ、これは!!」

「どこだ!! どこが故障した!?」

「故障ではない!! 何者かに襲撃されている!!」


 同じ装いに身を包む多国籍の人間たちは、この絶望的な状況の中で焦燥に浸っている。

 皆が皆、生きることを諦めなかった。わかっていることなのに、諦められなかった。彼らには帰りを待つ家族、恋人、配偶者、友人、上司、部下。全ての関係者の顔を思い浮かべながら絶望の中の僅かな光を求め続けていた。

 その中でただ一人、冷静に辺りを見渡した。


「皆、聞け」


 大きな声ではなかった。むしろ小さく呟くような、そんな声であったと言える。

 焦燥に包まれ、掻き消されるはずのその声は、なぜかその場の人間全ての耳に届いていた。

 全員が立ち止まり、静まり返ったのを見渡した男は、ただ一言告げた。


「覚悟はしてきたはずだ」


 その言葉に、全員が固唾を飲む。

 中には握り拳を作って震えるもの。涙を目に浮かべて俯くもの。ただ唖然と絶望してるもの。そして、男の言葉を最後まで聞き届けようとするもの。それぞれの反応を見せる中、男は続けた。


「こうなる可能性を、俺たちはわかっていたはずだ」


 耐えきれず、一人の男が嗚咽を漏らした。目から涙を流し、膝を付いて泣き出す。

 耐えきれず、一人の男の握り拳から血が流れ出す。

 しかし、静寂だけは守られた。

 この場に響く音はうるさく鳴り響く警告音だけ。


「ならば、やるべきことはわかるな」


 それぞれが涙を流しながら頷いた。全員の意志が統一された瞬間だった。

 誰もがその一点の目的に向かって走り出した。


 それは同時に、


「母さん、お元気ですか」


「善子さんすみません、私は」


「太一、俺はお前に」


 それは同時に、諦められなかったことを諦めることを意味していた。



優雨ゆう。オレの宝物の優雨。強く生きるんだ。忘れるな。父ちゃんは、最後まで戦った」



 その日、一つの艦隊が塵となって消え去った。

 ひとつのレコードデータを残して。

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