第2-8話「武器」




 現在ユウは空中を飛行中だ。自分の力で歩いてウォルフを探そうとしたところ、怪我と発熱のせいで思うように動けずに転んでしまう。カッコつけて出掛けようとしたユウに呆れ返ったヴァンパイアが手助けを申し出た。ヴァンパイアに抱えてもらいながらユウは移動することになった。

 小さな少女に軽々と持ち上げられたところを見て、彼女がアグレッサーであることを改めて認識させられる。


「ところでヴァンパイア。結局のところ、ボクに色々教えてくれるのはなんで?」

「お主が敦の息子じゃからな」

「お父さんとは……、仲が良かったの?」

「さて、どうじゃろうな」


 ヴァンパイアには本音を語る気はないらしい。だけどこれだけはわかる。ヴァンパイアにユウを害する気はないということが。もしここでユウを落とせば簡単にスターウルフは絶命する。それをしないのは、ヴァンパイアがユウの味方をしてくれてるからではないだろうか。ユウはそう考えるようにしている。


「主よ、これからお主を最低限動けるようにしておいてやる」

「回復するってこと?」

「そんな便利機能は人体にはない。そうではなく、痛みや熱を忘れられるようにしてやるということじゃ。無論、後がキツくなること請け合いじゃが。やるか?」

「やる」


 これと決めたらユウは一直線に走る。こうすると決めたら何がなんでもやる。今までは決めるにしても何をどうすれば良いのかわからずに右往左往していた。しかし、友達ウォルフを助けると決めたユウは決断が早い。迷う仕草を一切見せつけない。そんなユウを見つめてヴァンパイアは微笑んだあとすぐに表情を引き締める。


「チクッとするぞ」


 ヴァンパイアはユウを抱きかかえるような体制を取り、首筋に顔を当てる。大きく口を開け、犬歯を剥き出しにした。ユウからは見ることの出来ない光景で、いきなり密着させられたとしか思えない状況。そこから言われた通り、チクリとした感触が首から感じられた。ヴァンパイアがユウの首筋に犬歯を通したのだ。僅かに漏れ出す血液。それをヴァンパイアは啜って喉を鳴らす。まさにヴァンパイア。吸血をしているのだ。

 不思議とユウは力が湧き出すのを感じた。血液をヴァンパイアに上げることで、代わりにエネルギーを貰っているのだ。


「これで、少しはマシになったじゃろう」

「……もしかしてボクが眷属になったりするの?」


 吸血鬼に血を吸われると眷属になる。そういうお伽噺をユウは知っていた。まさかアグレッサーであるヴァンパイアが同じことをするとは思わなかった。名前が同じなだけだとユウは思っていたのだ。だが、やっていることは完全に吸血鬼。お伽噺と同じ展開になっている。


「そんな量は吸っておらん。血液を代償に、ワシの力をちょいと分けただけじゃ。これで歩いて話すくらいはまともに出来るじゃろうよ」

「ボクが吸血鬼になるとかじゃないの?」

「ワシがその気になればなれるかもしれんぞ。なんじゃ、なりたいのか?」


 ユウはヴァンパイアに抱えられながら必死に頭を横に振る。吸血鬼といえば、日光に浴びると死ぬ、人の血を啜らないと死ぬ、悪役といったイメージしかユウにはない。自分がそれになるのは御免だ。


「心配せんでも、吸血鬼になどなりゃせん。ワシがさせんわ」

「なら安心だけど……、ところでさ、君ってなんで吸血鬼になったの?」

「それはワシが主に何故人間なのか聞いてるようなものじゃぞ」

「つまり吸血鬼、ヴァンパイアって種族の名前なんだよね?」

「そうじゃ。それがどうした」


 ヴァンパイアにしては珍しい首を傾げる仕草を見せる。終着点の見えない会話は久方ぶりだ。少し目新しくて懐かしくて、何か心温まるのを感じていた。


「じゃあさ、君に名前つけていい?」

「……ワシに名前か」

「もしかしてある?」

「……ないの」


 ヴァンパイアは目を丸くして言う。ユウに付けられた名前をヴァンパイアは大層気に入る。だから彼女は言わない。ユウに付けられた名前がであることを。



====



「魂魄融合!!」


 ヴァンパイアの力を借りて身体が動くようになったユウはウォルフを発見した直後に魂魄融合を果たす。

 危ないところでウォルフはユウに救われる。あと一分遅れていたら本当に死んでいたかもしれない瀬戸際の登場。思わず差し伸べられた手を掴んでしまった。


『何しにきやがった……、クソガキ』

「黙って。今は目の前のことに集中して」


 ユウを問い質そうとするも、悪い状況であることに代わりはない。エレクトを含んだ蛇縄は健在。殴り飛ばされたキングも身体を擦りながら囲んでくる。


「貴様がウォルフと魂魄融合を果たした人間というわけか」

「そうだよ」


 スターウルフとなったユウ。それを囲むアグレッサー。一人で相手取るにはまだ経験が足りない。実力も足りない。ウォルフは逃げの一手を考える。


『ユウ、足をジェット機にして逃げるんだ』

「わかってる」


 ユウは早速ブーツをジェット機に変えた。一気に飛び出せるようにエネルギーを溜める。


「させないよ、エレクト!!」


 その様子を見ていたスネイブは蛇縄に潜むエレクトに指示を出す。スネイブの指示に呼応するように蛇縄は動き出す。スターウルフとの距離を詰めて、ウォルフにしたように周りを囲う。

 しかし、既に十分なエネルギーを溜めたスターウルフは一気に射出する。縄に縛られる前にその場を抜け出し、上空にいるスネイブに接近する。

 その速さはマッハ3。マッハ1を時速に換算すると1200km。戦闘機F15を速度で表記するとマッハ2.5。これを軽く越すその速度はアグレッサー達を置き去りにする。


 エレクトを除いて。


 エレクトの身体はいわば電流だ。電流の速さは光速。これを時速で換算すると10億8000km。マッハを軽く凌駕している。しかし、それは生身になっている状態だ。現在のエレクトは蛇に帯電している。取り憑いている。その身を光速で移動するはできない。

 それでもエレクトの方が速かった。

 他のアグレッサーを置き去りにしたスターウルフの前にエレクトは現れる、立ち塞がった。


「ウォルフ!!」

『構わねぇ、そのまま突っ切れ!!』


 ユウの呼び掛けでどのようにするか判断を任されたウォルフ。先程まで自分を苦しめたエレクト。電流を直に浴びることの危険性をウォルフは理解していた。それでも、そのまま突っ切れるという確信がウォルフにはあった。

 グローブに嵌められた長い爪。それをスターウルフは構え、前に立ち塞がる蛇を目掛けて突き出した。


『あんだけの電流を放ったんだ、もうエネルギー切れだろ!!』


 一気に何万Aもの電流を放出したばかり。さらに、マッハ3のスターウルフに追いつくほどの速度でここまで移動することでさらに自らのエネルギーを消費したエレクト。また同じことをするにはエネルギーを溜める必要がある。そんな時間をスターウルフは与えない。

 スターウルフの爪が蛇の胴体に接触する。少しだけチクッとする痛みはあったが、痺れるほどの威力はない。そのまま爪を振り下ろしてスターウルフはエレクトの取り憑く蛇を引き裂いた。


「エレクト!!」

「くそぅっ!!」


 その結末を目にしたスネイブは驚愕し、キングは怒り狂って飛び出した。このまま飛び続けるだけでもアグレッサーからの追っ手を振り切れるだろう。しかし、スターウルフのエネルギーも無限ではない。どこかで追いつかれてしまう。そうなれば一環の終わり。


「ウォルフ、あれをやろう!!」

『ぶっつけだぞ』

「大丈夫!!」


 ユウはジェット機での移動をやめて身体をアグレッサーのいる方向に向ける。

 あの時に変形させた武器を連想し、グローブは形態が変わっていく。


 その手は大きく太い筒の形になり、先をアグレッサー達に向けた。


「吹っ飛べ!!」


 筒から溜まったエネルギーを放出する。それはまさに光弾銃レーザーガンだった。


 住宅街の何も無い空中に閃光が舞う。

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