裏切りのウォルフ
第2-4話「裏切り」
あれから時間は経ち、ユウは自室にて変身を解いていた。
実はあれから学校の方で少しだけ騒ぎになったそうだ。考えてみれば当然のことで、人気のないところでユウが使っていた車椅子が発見されたのだ。しかし周りには当人はいない。もしかして車椅子から落ちてどこかで這っているのではと学校中を教員は探し回ったそうだ。カリンも捜索に参加して、必死に学校中を走り回っていた。その連絡は母親である日和の元にも来ていたようで、学校に赴いて事情を聞いた後で家で連絡を待ったそうだ。
本来のユウならその考えに至っていたのだが、昼間に会ったヴァンパイアの話の衝撃が大きすぎて放心状態で家に戻ってきていた。ベッドの中で横になって負っていた怪我の痛みに耐えながら呆然としている。
日和もなんとなくユウの部屋を覗いたら当人が既に帰っていることに驚いて、事情を問い質したが、ユウは放心しながら「車椅子が煩わしかったから歩いて帰ってきた」と供述する。まだ歩けるほど怪我が回復しているわけではないので日和の尋問はしばらく続いたが、何も喋らなくなったユウを見て回答を求めるのを諦めた日和はユウの部屋を退室する。
その後、学校にユウの無事を連絡する。もちろんというか、カリンもその連絡を受け取った後、飛ぶようにユウの部屋を訪れる。カリンも日和と同じようにユウを問い質したが、放心状態のユウに異常を感じて身を引いてしまう。
ベッドに横たわってから数時間、ユウは動かず、眠らず、ただ呆然と時を過ごしていた。深夜になっても寝付くことはなく、ただただ放心していた。
「寝ねぇのか」
そんな状況に嫌気を指したウォルフは囁くように問いかける。いつもの粗雑さはあったが、どこかユウを気遣っているようにも聞こえる声音だ。
ウォルフの声が発端に、ユウは痛む上半身を起こして視線を向けた。暗いのに、ユウはウォルフの居場所がどこかをわかっていた。
「ウォルフも侵略者なの?」
ただユウはそれだけが気掛かりだった。友人だと思っていたウォルフは実は侵略者で、ユウや他の人間を殺すために地球に来たのだ。なんて話になっては洒落にならない。ユウは騙されていたということになるのだから。
問われたウォルフはただユウを見つめる。
「どうだろうな」
返ってくる答えはいつもと変わらない。ウォルフは自分のことを語ろうとはせず、聞いたところではぐらかされる。いつもならば仕方ないと流すユウだったが、今はそうはいかない。
「こっちは真面目に聞いてんだよ!! つっ……」
思わず怒鳴ってしまうユウだったが、同時に骨の軋む音が聞こえて身体中に痛みが走る。それでも構わずユウはウォルフに視線を送る。睨みつけるといっても過言ではない。
「傷が拡がるぞ。骨をいくつかやられてんだろ」
「今はウォルフのことを聞いてんの」
「知らん。さっさと寝ろ、クソガキ」
ウォルフはそう言い残すと僅かに空いている窓の隙間から飛び立って、どこかへ去ってしまう。ユウは疑惑の念を抱いてしまう。何か後ろめたいことがあるからウォルフは何も言わないんだ……と。
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翌日、ユウはいつの間にか眠っていたことに気づくことから一日は始まる。
随分と身体が重く感じる。いや、それは身体中に怪我を負っているから当然なのだが、それ以外に虚無感で身体が硬直しているようだ。
ふと右手に視線を向ける。中指にハメられた狼の型を取った無骨な指輪。これをウォルフは自分の肉体だと言った。指輪をつけてウォルフを呼べばここに来ざるを得ないとウォルフは言っていた。昨日の話を聞くならこの指輪は絶好のアイテムであると言える。しかし、その力を使うことをはばかられる。
「起きた?」
不意に届く誰かの声。ベッドの横に椅子を置いて座っている人物に気付いた。
「カリン?」
白河カリンだった。
「アンタ熱があるんだから大人しく寝てなさい」
「熱……?」
そう言われて、ユウは頭に何かが密着していることに気づく。熱冷まシートが貼られていたのだ。
「……どうりで身体が重いわけだ」
「怪我をしてるくせに無茶するからよ」
ユウはここで疑問に思う。なぜカリンがここにいるのだろう。
今日は金曜日。普通に学校があり、外の明るさからして既に昼頃にはなっているだろう。そう思って時計を見ると十三時になっていた。
「……カリン、学校は?」
「アンタの看病を理由に休んだわよ」
本来なら日和が看病するために仕事を休むつもりだったらしい。だが、そこにカリンがユウを迎えに現れ、熱を出していたことが発覚する。自分が看病するとカリンは名乗り出たことで、日和はカリンにユウを任せて仕事に行ったのだそうだ。
「全く、私の皆勤賞が台無しになったわよ。ホント、感謝してよね」
「ボクなんか放って行けばよかったじゃない」
「……本気で言ってんの?」
カリンの目が鋭くなったように見えた。怒ってるのだろうか。ユウはそう思ったが、カリンが怒る理由が見当たらない。
そんな彼女でも、流石に病人の前では怒る気にもなれないらしく、大きく溜息を吐いて、落ち着いた調子で言う。
「あのさ、あまり日和さんを心配させちゃダメよ」
返す言葉がなかった。
スターウルフになってまだ日は浅い。そんなに戦っているわけではないが、もしアグレッサーという侵略者と戦う羽目になったら、ユウは日和に迷惑を掛けずにいれるだろうか。最も、そのスターウルフになるために必要なウォルフのことすら味方なのか判断を渋るものになる。
…………心配、掛けるだろうな。
それをユウは心の中で呟く。流石にこれを口にしてカリンに聞かせるわけにも行かない。
ユウはただ静かに窓の外を眺める。どんなに裏切られようと一緒にいたいと思わせる異世界人、ウォルフの帰りを期待するかのように。
「私にも心配させないでよ…………」
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