宇宙遠足

第8話「遠足」




「これで白河しらかわさんの内申が上がりますね!」

「ええ、これで安心よ」


 カリンとしても内申が上がることは第一の目的だったが、ユウが登校しようと後ろを歩く姿を見て安心している気持ちもある。やはり幼馴染、友達が引きこもる現状を良しとしてないのも彼女の正直な気持ちなのだ。

 何度も後ろを振り返って付いてきていることを確認している。だがそれを面白く思わない少年がいることも事実だ。


「でも白河さんよ、はなぶさの家から出てくるの妙に遅かったじゃねえか。何をしてたんだ?」

「そんなことアナタに関係ないじゃない。それより早く行かないと遅刻するわよ」


 タケシの不満を他所にカリンは冷たくあしらう。彼女は自分に好意を抱いてる、もしくは抱いてそうな男子に対して冷たくあしらうようにしている。そうすることで恋が冷めるか萎えるかしてもらうようにしているのだ。カリンはタケシに好意を寄せられてるのに気付いていたのだ。


 そんな彼女らの後ろを付いて歩くユウとウォルフ。ユウの周りをうろちょろ動いて、どれだけウォルフに自由があるのか検証しているのだ。


「どうやらこっちの世界ではそこまで制限はねぇみてえだな」

「じゃあどうするの?」

「異世界を飛べねぇのは変わらねぇ。その指輪か関係してると言っていいだろう」

「これが?」


 ユウは右手中指に嵌められた指輪を見る。いつ見てもいいデザインであるとは言えず、常に着けていかなくてはいけないのかと内心で嘆いている。


「もしそれを着けたテメェが呼べばどこにいてもオレはテメェの前に現れなきゃいけねぇくせぇ」

「それってどういうこと? この指輪がなにか関係してるの?」

「そいつはオレの本体だ」


 そう言われ、ユウは思わずウォルフに向けていた視線を指輪に移す。そしてウォルフと指輪を何度も往復して見直している。


「えっ、えぇ!? でも君って魂だけの存在なんじゃないの?」

「どういう原理だか、オレにもわからんがな。それが出来るのもあいつしかいない」

「またそれか……、あいつってなんなの?」

「本来ならめんどくせぇから答えねぇ質問なんだがな、こいつぁテメェにも関係した話になるから答えてやる。が、今は確証が足りねぇ。色々確かめにぶらついて来るぜ。外が暗くなったら戻る」


 そう言い残してウォルフはその場から飛び去っていく。あっという間に離れていき、すぐに見えなくなってしまった。


「速……」

「さっきから何独り言言ってるの、ユウ。遅刻するわよ」

「わ、わかってるよぉ!!」


 ウォルフとの会話に集中するために少しだけカリンらと距離を取っていたユウ。少しだけ早足になって彼女らの後を追う。その隣で苦虫を噛み潰したような顔をするタケシに気付きながら。



====



「それではこれから遠足のプリントを回します」


 授業の大半が終わり、最後の一時限目を残す。現在の時刻は14時。

 教団の上に立つ女性教員が、クラスメイトの人数分のプリントを全員に回して詳細を説明する。


「明後日の遠足では、皆さん初の宇宙に飛び立ちます」


 現代から二百数年経った今では、宇宙旅行などを当たり前のように行っている。風情を求めて田舎や山、海などに行くこともあるが、宇宙が選択肢に入るようになった。極めつけに、遠足で月に行くまでに世の中は発展している。最も、誰でも宇宙旅行に行ける訳では無い。複雑な資格は必要ないが、どうしても年齢制限や身長制限が掛かってしまうのだ。遊園地のジェットコースターのような認識でまず間違いない。


「今までボクが身長制限にハマってて宇宙に行けませんでしたけど、遂に、遂に地球を飛び立てるようになったのですね!!」


 興奮して席を立ち上がるデンタ。彼は体格が小さめなため、様々な制限が掛かっていた。しかし、先日行われていた身体測定で、遂に規定の身長に届いたのだ。あの時は歓喜したなぁとデンタは感極まる。


「まぁ私は既に何度か月に行っていたけど」

「白河さんと一緒にしないでください!! ボクらみたいな一般人はそう頻繁に旅行をしないものなんです!!」

「ちなみにこの中で宇宙に行ったことのある子はいる?」


 カリンの問いかけでしんとする生徒達。確かに宇宙旅行が一般化したとはいえ、金が掛かる行事であることに変わりはない。逆に言えば金さえ払えば誰でも宇宙旅行ができるのだが、普通の一般家庭が気軽に行ける場所ではないのだ。


「そう、じゃあ宇宙に行ったことがあるのは私とユウだけか」

「え、ちょっと待ってくれよ白河さん!! なんで英が宇宙に行ったのを知ってるんだよ!!」

「私と一緒に行ったことがあるからよ」


  そう言うと、クラスの男女が騒然とする。それの意味するものは三つあり、『ついにあの白河さんに彼氏が!?』という黄色い声援が一つ。『英の野郎……、オレのカリンを……っ』というタケシが一つ。『あっ、やばっ、タケシ君が怒ってる……、これは触らぬなんとやらです』というデンタが一つ。それに唯一加わらないユウはやはり、眠りについたままだ。

 カリンは自分に対する好意には敏感だが、自分から発するものに対しては鈍感だ。カリンはモテる。カリンは可愛い。カリンは美人。そんなオーラを放っていることを彼女自身は知らず、クラスの噂の一種に『白河さんは誰が好きなんだろう』というものがあることすら知らずに過ごしている。

特に『白河さんと英くんの関係とは如何に』という誤解を招く行動をカリンはいくつもやらかしている。彼女自身は幼馴染ともだちを思って行動しているつもりなのだ。しかし、それはクラスメイトにとってはカリンがユウに対してアプローチを行っているように映る。カリンは美少女でモテるから、当然ユウはそれに応えるはずだという先入観もある。それがカリンの父親にも及んでいる。彼女の悩みを生み出す結果となったのだ。


「なら、先生。初めて宇宙に行く子が多いので、行ったことのある人……、つまり私とユウがまとめ役になるのが一番いいと思います」

「え、あぁ、そういうことね」


 何故かいきなり喋り始めたカリンを唖然と見続けていた教員は、さらに何故か生徒と共に『白河さんは英君のことが好きなのね』と感心する始末だ。

 だが、これはカリンの作戦だ。ユウを何か責任のある役職を与えることで、登校せざるを得ない状況を作り出したのだ。当の本人がもし起きていれば反論して作戦が台無しになっていたが、ユウは深い夢の中だ。


 こうしてユウは知らぬ間に『遠足実行委員(カリン命名)』という名の仕事を押し付けられるのであった。

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