第2-5話「選択」
「それでお主はこれからどうするつもりじゃ」
アマゾンの奥深く、羊羹から少し離れた位置で、ヴァンパイアは突然現れたウォルフにそう問いかける。
時は遡り、未だスターウルフが誕生していなかった頃の話。
地球に鳳凰の意思によって縛られることとなったウォルフが第一に頼ったのが、アグレッサーの中で一番長寿で知識も豊富なヴァンパイアである。
アグレッサーはウォルフを見ただけで疑惑の目で見つめるため、まともに話が通じない。しかし、ヴァンパイアだけはウォルフをなんの偏見もなく接してくれる。ウォルフがヴァンパイアを信用する一つの理由だ。
「さっさと異空間に戻って一人を謳歌する」
「どうやってじゃ」
「それをテメェに聞いてんだよ」
「……どこまでの覚悟があるかの」
ウォルフが頼りにしているヴァンパイアだが、どこか答えを渋っているように見える。彼女はアグレッサーのためならどのような状況でも、どのような立場でも
だが、ヴァンパイアから出た第一声がウォルフの確認するものだった。
「どういう意味だ」
ヴァンパイアがわざわざこんな遠まわしな言い方をする時は大抵究極の二択を迫られていることを意味する。それはウォルフのこれからの人生を左右するような。選択を間違えれば全てが瓦解する。そんな二択をヴァンパイアは簡単に提示してくるからタチが悪い。しかし、そんな二択という選択肢を与えてくれるだけまだマシだ。アグレッサーの神とされる龍王などは選択を与えることなく我を通すところがある。敵は敵。味方は部下。少しの判断で龍王は勝手に自己完結するところがある。それに比べればウォルフは龍王よりもヴァンパイアのほうが神に向いてるのではと思えて仕方が無い。
「鳳凰がお主をここに連れてきたのはまぁ、事実じゃろう。そしてウォルフがワシを頼りに来ることを鳳凰は計算して行動しておる」
「なんだ、鳳凰ってのは頭いいのか」
アグレッサーの目的は鳳凰の討伐である。しかし、実際に鳳凰の姿を知る者はいない。龍王とヴァンパイアを除いて。ヴァンパイアは唯一龍王と交信を許可されており、さらに噂では鳳凰のことを知り尽くしてると言われている。アグレッサーにとってまさに、ヴァンパイアとは頭領足り得る所以であり、切り札でもあるのだ。
「いや、あやつは頭が良いのではない。全てを知っているのじゃ」
「全知全能ってやつか。不気味なやつだ」
「それとはちと違うがの。まぁそういうことでいいわ。
でじゃ、お主を鳳凰はここに連れてきた。それ即ち、鳳凰は知っておるのじゃよ。ワシらが何をなそうとしておるのか」
「……!!」
自らを殺しにくる者を知っていて放置するものはいない。それは鳳凰とて例外ではない。
自分を殺しに来ようとするアグレッサーに対し、鳳凰は一手を投じた。
「お主が選択しなければいけないのはそこじゃ」
アグレッサーに与するか、裏切るか。そうしなければ、ウォルフは永遠にこの地に縛られるだろう。
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思うのはそんな会話をした後のウォルフのセリフ。その日を思い浮かべて、ヴァンパイアは住宅街の屋根に立っていた。見つめる先はウォルフを縛り付けている少年、英 優雨の自室だ。
本来ならウォルフがそう選択したのであれば、深く干渉しない主義のヴァンパイア。しかし、ウォルフにはウォルフの選択があるように、ヴァンパイアにはヴァンパイアの選択がある。これは彼女にしかわからない選択。領域。他のアグレッサーでも、龍王でさえヴァンパイアの考えを理解するものはいない。
「お主は優しすぎるのじゃ」
それは誰を思ってか。かつて交流のあった友人か、それともユウの元を去ろうとすふウォルフのことか。それとも両方か。
「さて、邪魔をさせてもらうぞ」
ヴァンパイアは跳躍する。見つめる先、英 優雨の部屋を目指して。
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