第2話「ウォルフ」



 ユウとウォルフ。二人の運命の出会いは、不思議な空間の中で行われた。

 一方は気づいたらそこにいて、もう一方は無理矢理連れてこられた挙句、放置されている。

 二人ともこの場所に見覚えはなく、どうやって来たのかもわからず、当然帰り方もわからない。

 ウォルフにとって、これは由々しき事態であった。


「で、ここはどこなんだ。ハナブサユウ」

「……さあ」


 本当ならユウも慌てるべき展開のはずだ。しかし、不思議とユウには焦燥感はない。むしろここに来るのはいつも通りであるかのような振る舞いだ。

 ウォルフからはユウがただ惚けているようにしか見えず、不快感を覚えた。しかし、ユウからしてみれば本当にここのことを知らないのだからどうしようもない。

 ここで一つ、互いで情報を整理した方が良いと判断してウォルフは、改めて語る。


「オレは何者かに縛られ、無理矢理ここに連れてこられた。テメェはどうだ」

「……え?」

「だから、テメェはここにどうやって来たかと聞いてんだよ」


 やはり惚けている。自分が言ったことを聞き流し、悪びれることなく首を傾げるユウを見て、ウォルフは若干のイラつきを覚えた。ここで暴れ倒してやりたいところだが、情報収集が優先事項のため、怒りを飲み込んで言葉を紡ぐ。

 ようやくウォルフの聞いていることがわかったのか、考える素振りを見せた後、途切れ途切れの記憶を口にする。


「えっと……、確か母さんを見送って……」


 そこからまた記憶の渦をかき回して、必要な情報をかき集めていく。


「それで……、あー、えっと……」


やはり惚けているのか、記憶の混濁が激しくなっている。つい今し方の出来事なのに、ユウはそれを完全に忘れてしまっている。

 要領を得ない話を聞かされ、急かしたい気持ちがウォルフの中でできる。しかし、急かしても意味が無い。情報が聞き出せないのでは元も子もない。


「カアサンとやらを見送ったお前は、その後何をしたんだ?」


 怒りを鎮めながらウォルフはユウの記憶の紐を解いていく。それに呼応するように、ユウの記憶ははっきりしていく、


「で、ボクは部屋に戻って……、寝たなぁ」

「寝たのか」

「寝たよ」


 とてつもなく眠くなっちゃってさ。と加えて言う。

 それで合点が行ったのか、ウォルフは状況の理解を深めていく。


「そうか、テメェ、人間だな」

「うん。見ればわかるじゃない」

「わかんねぇよ」


 ユウはウォルフの言っていることがわからなかった。自分は人間で、二本の足で立って、腕があって、頭がある。それだけで自分が人間であることは疑いようのないもののはずだ。ならウォルフは人間を見たことがないのだろうか。いや、ウォルフは人間を知っていたからそれはない。

 そもそもウォルフは何者なのだろう。見たところ、人間の形をしていない。炎のようなものが浮いているだけで、他に人影が見当たらない。


「テメェ、自分の手がどこにあるか探してみろ」


 ウォルフの言葉に疑問を持つユウ。言われた通り、自分の手がある場所に視線を移す。なんなら腕を上げて目の前に掌を持ってこようとした。

しかし、そこにはあるはずの手が存在していなかった。

 今のウォルフと同じく、炎のようなものにユウはなっていた。


「えっ、え……、えぇぇ?」


 衝撃的か光景のはずだ。気が付いたら知らぬ場所にいて、感覚では手足は存在していて、直立しているはずなのに、見た目は炎の塊のようなものになっている。そしてウォルフと名乗る謎の炎も現れてユウは動揺しないはずがない。

 しかし、ユウは動揺することがなかった。いや、これでもユウにとっては動揺している。だがその動きに活気がないのだ。


「まぁつまり、こういうことだ」


 ウォルフはこほんと息を整え、大きく息を吸い込む。



「起きやがれぇぇぇ!!」






 目が覚めると、すでに部屋は薄暗く染まっていた。時計を確認したら18時を過ぎていた。

 本来なら暗さに驚いて電気をつける所だが、少しだけそのままじっとしてみる。

 妙な夢を見た気がする。

 何も無い空間にウォルフと名乗る炎の塊がいて、自分も炎の塊になっていた。

 ふと飛び起き、自分の身体を見渡す。腕があり、足があり、身体があり、服を着ている。少しだけほっとした。


「起きたかよ」


 不意にそんな声が聞こえる。

 誰もいない部屋であったはずだったために、その声にユウは目を丸くした。

 辺りを見渡して、電気がついてないのに気がつく。電気スイッチの元に飛びつくように歩み寄った。薄暗かった部屋に灯りがつくことで、ようやく辺りの状況が視認できるようになる。

 ユウが寝ていたベッドの上に、何やら不思議なものが浮いていた。

 夢の中で見た炎の塊のように見えるが、形がくっきりと取られてる。顔や身体が分かるくらいにはなっていた。その容姿はどう見ても犬のような形をしているが、どこか不定形でもあって、不思議な形をしている。


「君は……?」

「ウォルフだ。テメェがハナブサユウだな。」

「え、えぇ!? だって、あれは夢の中の!!」

「いちいち驚くな。騒ごうとすんな。めんどくせぇなぁ……」


 目を丸くして驚いて驚くユウを心底面倒くさそうに、人間の動作で例えるなら寝転がって小指で耳の中を掻く動作をしそうな声でバッサリと切る。


「で、でも、どういうことなの?」

「さあな。オレにもわからん」


 当事者であるはずのウォルフに状況の説明を求めたが、彼自身呑み込めてない部分があるようだ。


「そういえば無理矢理連れてこられたって言ってたっけ?」

「そういうことだ。さっきまでここがどこだか知らなかったんだがな。テメェが人間っつうことならここは地球なんだろう」

「えっと、つまり君は宇宙人ってこと?」

「それは違う。オレはこの世界の宇宙では生きてねぇからな」


 ユウはウォルフの次の言葉で、人類の進歩の第一歩を踏み出すことになる。



「異世界人だ」



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