第3-12話「VSマーメイド」




 ユウから離れたウォルフは島の至る所を覗いていた。浜辺や別荘の中、人口林などとあらゆる所をじぶんのめで観察していた。これもユウの訓練の適切な場所を探るためだ。

 そんな中で周りの風景と一線を画す扉を発見。興味本位で扉を開放し、島の内部に侵入する。

 水道管や鉄パイプの入り組んだ底の深い空間。それを見てウォルフは思った。スターウルフは狭いところでの戦闘をしたことがないなと。

 初めてスターウルフとなった宇宙船でも、ドッペルとは戦闘らしい戦闘をしていない。もしあのときドッペルと戦っていれば狭いところでの戦闘の難しさをユウに理解させられただろう。

その一件はただユウかスターウルフに変身するだけでおわってしまった。これだけでも大きな収穫だった。しかし、これからも戦うことがわかっていたならそういった戦闘も経験させておかなくてはならない。そういう意味ではここは訓練にはうってつけの場所だ。


「ここがいいな」


 そう言ってウォルフは内部の探索を始めた。まずは底がどれだけ深いものなのだろうとウォルフは内部を降下していく。人間なら足場を伝って何十分も階段やはしごを上り下りしなければいけないところを、ウォルフは空を飛ぶ能力のおかげで一気に底までたどり着ける。

 孤島を断面的に見てみると台形のような形になっている。島の表面から底に向かうにつれ、空間は緩やかに広がっていく。底にはほぼ何も無い空間があって、例えるなら野球場と同等の広さがある。

 底は鉄板ではなく岩盤が広がっている。底は海の流れにも耐えうる丈夫な柱が島を支えている。流されないように波を逃がす大きな穴が底に作られていた。つまりその海水にもぐって進めば海面に出られるという構造なのだ。

 その底の海面の上には複雑に絡み合った鉄橋が伸びている。


「生身でやるのは危険だな」


 確かに生身を鍛えることも重要だが、この場所で訓練するにはリスクが高すぎる。ユウとウォルフが魂魄融合してスターウルフになった状態で訓練することにも意味はある。そうしてどんな状況でも対応、生き残れる戦士にする必要がユウにはある。


 ユウには目的ができた。父親である英 敦の真実を知ること。どうして異世界に興味を持ったのか。どうやって異空間に入ることが出来たのか。異空間では何があったのか。アグレッサーとの関わりがどこまであるのか。

 異空間に入るには、少なくとも異世界人、アグレッサーとの協力は必要不可欠であるとウォルフは思う。それを告げた上で、ユウはアグレッサーと向き合うことになった。

 しかし、夢奏の言葉を信じるなら、次に彼女と対峙したら戦いになるだろう。そうなったとき、ユウが弱いままでは敦のことを聞くまでもなくやられてしまう。

 ウォルフはユウに協力をすることを決めた。ならユウが知りたいと思うことが、全力でやりたいと思うことがあるなら手助けをする。それが友人として覚悟を決めたウォルフの本心だ。


 そのための訓練だ。ユウには強くなってもらい、夢奏と戦っても生き残れるくらいにならなければならない。しかし、夢奏は強い。今のスターウルフと夢奏が戦えば敗北を喫するだろう。しかし、魂魄融合の力を百パーセント発揮するにはユウの力が必要不可欠だ。

 そしてどんな状況で夢奏と戦うことになるのかわからない。以前のように、複数のアグレッサーを相手に戦うことになるかもしれない。一体一で戦うかもしれない。それが地上なのか、地下なのか。外なのか建物の中か。あらゆる状況で戦えるようになっておかなければならない。


「しかし、どうやって訓練するか……」


 だが、ユウはまだ子供だ。自分で強くなるための訓練メニューを構築できるほどの知識、経験がない。その分を戦闘経験のあるウォルフがカバーする。訓練の内容もウォルフが試行錯誤しながら考える役目だ。普段なら面倒がってやらないことをやってるなと感慨に耽る。

 そんなことを思いながら再び探索に戻るウォルフ。不意に第六感に引っかかるものがあったために動きが停止した。

 アグレッサーには、アグレッサー同士が近くにいた場合、その存在を感知できる。誰がどこにいるのか。もし戦っているならそれもわかるようになっている。それは本能のようなもので、アグレッサーであれば初めから備わっているものだ。

 その能力を使って、ウォルフはアグレッサーが近づいてきているのがわかった。


「こいつぁ……、マナティか……?」


 この孤島に来る前にそいつがいることを感知していた。しかし、ウォルフが知るマナティというアグレッサーはこちらから手出ししなければ関わってこないものだと思っていた。あちらから出向いてくるとは思わなかったのだ。

 しかし、現在こちらに向かってきているアグレッサーがマナティだ。


「何の用だ、マナティ」


 水面に上がってきた一人のアグレッサー。顔を出したと同時にウォルフは問いかける。その姿はまさに人魚。青い髪の碧眼の女性の姿で、下半身が尾ひれになっている。腕には鰭が生えていて、手は鉤爪がついている。人の身体とはいえ、海で生活するのに相応しい形をしていた。

 マナティと呼ばれるアグレッサーはウォルフの問いかけに答えを口にしない。ただ水を手に吸い上げ、ウォルフに投げつけた。水はウォルフの頭を僅かに外して背後の鉄パイプに当たった。すると鉄パイプは大きな音を建てて崩れてしまう。もしこれがウォルフに当たればただでは済まない。即死することはなくとも、大きなダメージを負ってしまうのは間違いない。


「テメェ、どういうつもりだ!!」


 好戦的なマナティにウォルフは怒声を上げる。こちらから手を出さなければ関わってこないと思っていたから尚更気持ちが篭っている。

 しかし、やはりマナティは答えることなく水面から飛び出した。その勢いは空中を飛び越え、ウォルフの首元を掴みつつ、尚も止まらない。そのままウォルフを鉄パイプに激突させ、押し込むように力を込めてきた。


「ぐっ……」


 戦う気のなかったウォルフは完全に意表を突かれてしまった。普段であれば軽く避けるところをモロに食らってしまう。その体制のまま固定されたウォルフに、マナティは言う。


「ここから出ていけ」


 それはウォルフがここに滞在することを拒絶する言葉だった。こことはどこか。この人工島か、それとも地球全体のことを差しているのか。

 判断のつかない状況で、マナティがウォルフの首を掴む力を強める。出ていかなければこのまま絞め殺すという意思表示なのだろう。しかし、それを甘んじて受けるウォルフではない。

 ウォルフは自らの爪を背後の鉄パイプを切断する。すると鉄パイプに押し込む形で固定されていたマナティの腕の力に緩みが生じた。即座にマナティに蹴り入れてその場から離脱するウォルフ。すぐに距離を取って臨戦態勢を整えた。


 ユウとは違い、ウォルフは少し好戦的だ。ユウならここで一度話し合いを求めようと交渉に出るだろう。しかし、ウォルフであればここで話し合いが出来る場面ではないことを知っている。問答無用で攻撃を仕掛けてきたということは、相手に話し合いに応じる気がないことを意味している。

 後手に回れば先程の繰り返しだ。もし話し合いを試みようとしてもこちらが拘束されているのでは状況は不利だ。出来るならウォルフがマナティを拘束する形で話をしたいところだ。

 そう判断したウォルフの行動は早い。早速猛スピードでマナティに迫るウォルフ。右腕を前方に伸ばしてマナティの首を狙う。それを読んでいたのか、マナティも同じような速度でウォルフに向かって飛び出した。その姿はまるで空中を泳ぐ魚のように優雅だ。

 マナティはウォルフの手を取り、そのまま力の法則を利用して後方に投げ飛ばそうと体制をとった。ウォルフの後方に身を置いてそのまま離そうとしたのだ。

 もしそのままならウォルフはまた鉄筋に激突して動きを鈍らせてしまう。しかし、そうはならなかった。マナティの手が離れそうになったのを無理やり握り返したのだ。そうすることでそのままウォルフだけが鉄橋に向かうところをマナティも巻き込むことに成功した。


「おらぁっ!!」


 ウォルフはその勢いのまま突き進み、マナティの腕を両手で掴んだ。マナティの身を上段から振り下ろすことで鉄橋に押し込むのだ。

 大きな音をその場で起こして鉄筋の激突の威力を物語る。マナティの両手を鉄橋に押し込んで身動きが取れないように体制をとったウォルフ。上から見上げることで優勢を保った。


「戦い慣れてねぇテメェがオレに勝てる道理があるかコラ、マナティ」


 一匹狼で生き残ったウォルフ。戦いもそれなりにこなしてきた。対するマナティはそこまで戦闘能力が高いとはいえない。一対一の状況でウォルフと対峙すれば確実に勝機はない。しかし、ある条件下ならそれに値しない。

 ウォルフに両手を封じられ、足も人間のものではなく魚の尾ひれ。尾ひれを振り回しても拘束の脱出は成功しない。普通であればここで観念して降参乃至はそれに準ずることになるはずだ。


 だが、忘れてはならないのはマナティはアグレッサーであること。アグレッサーは地球生物と違い、指一本でも動かせれば能力を使うことは難しいことではない。

 例えばウォルフなら口が空いていれば噛み付くことができるし、キングなら力で無理矢理拘束を解くことも可能だ。そしてマナティなら水があればそれは叶う。

 人魚として伝説を残すほど、水の中では力を持つ存在。それがマナティだ。空中や地上で戦うのはあまり得意な方ではないが、水中や水が接触していればキングやスネイプ以上に強くなる。例えその水の量が一雫であったとしてもだ。

 手のひらを滴る水滴。それを指先で弾いた。それは弾丸のように空間を切り裂き、ウォルフを襲う。手を離さざるを得なかったウォルフは再びマナティと距離を取る。


 ウォルフとマナティの攻防は続く。戦闘経験ではウォルフの方が上でも、地の利でマナティが一歩抜きん出ている。それでも互角に戦えているのは二人とも憑依も魂魄融合もしていないからであるのが如実に現れていた。

 ウォルフは慣れない地形で上手く立ち回れていると言っていい。それでも地の利は相手にある。どんどん追い詰められ、逃げるように上昇する。それを追ってマナティは手にある僅かな水滴を針のように投げ飛ばす。その威力は鉄パイプが軽く凹むほどだ。

 そんなこんなで入口付近まで追い詰められたウォルフ。不意に聞きなれた人の声を耳にして軽く動揺を見せた。


「説明してる暇はないんだ、早く地上に戻るよ!!」


 鉄橋の上を歩く二人の人間の姿がそこにはあった。ユウとカリンの二人。何らかの理由でこの中に来たはいいが、ウォルフとマナティの戦闘の気配を察知したユウが避難を試みているようだ。

 ちらりと視線を向けたウォルフ。本来ならユウと合流して協力を仰ぐところだが、側にカリンがいるのではまともに話ができる状況ではない。


 そんな二人の人間に気を取られたウォルフに生じた隙。マナティはそこを突いて水滴の銃弾を複数作り出し、ウォルフに向かって打ち出した。

 虚をつかれたウォルフは対応が遅れてしまう。咄嗟にいくつかの銃弾を避けるが、そうすると背後にある鉄橋の裂ける音が空気を揺らす。ちょうどユウらの立っている鉄橋であった。

 裂かれた鉄橋からカリンを守りながら落ちそうになるユウの姿を確認する。もしまた避けてしまえば銃弾の嵐が彼らに向かってしまう。

 ウォルフは銃弾を避けるのをやめ、二人の人間を庇う形で嵐を身に受けるのだった。


「ぐぅっ……」


 ウォルフの身体はいくつも穴が空いている。浮力を失っていき、どんどん落下していく。もうすぐ気を失いかねない中で、なんとかユウだけでも助けないとと薄い目を開けて視線を向ける。しかし、すでに鉄橋は崩壊していて、とても人の立てる状況にはない。そしてユウも例外ではなくカリンを抱えながら落ちていた。

 それを視界に入れながらウォルフも気を失ってしまった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スターウルフ 尾裂狐 @osakiyudai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ