番外編02

「次郎君」


「なんですか? そんな怖い顔して」


「うるさいわね、私は一言文句を言いたいのよ!」


「文句って、誰にです?」


「作者よ! 作者!」


「いや、何故!?」


 とある日の夕方、御子さんが何やら訳の分からないことを言い始めた。

 この世界の創造主に何を言いたいのだろうか?


「なによ! 『後輩は積極的』って!! 私がわき役じゃいない!!」


「いや、あれはスピンオフ作品ですから、御子さんはわき役ですよ」


「ふーん……」


「な、なんですか? その目は」


 御子さんは俺のことをジト目でジーっと見た後、スマホを操作して俺に見せつけてきた。

 スマホにはあの有名小説投稿サイト『カクヨム』が表示されており、ページは丁度『後輩は積極的』の画面だった。


「次郎君、随分愛実ちゃんと楽しんでたのね……プール行ったり、お化け屋敷で抱き着いたり……」


「そ、それは……てか! 何しれっとカクヨムのページを開いてるんですか!! ダメでしょ! 俺達がそれをやったらダメでしょ!」


「そんな事は今はどうでも良いのよ! 問題はなんで私がわき役かって事よ!」


「だから! 御子さんは本編のヒロインで! スピンオフは愛実ちゃんがヒロインなんです!!」


「なんでよ! どうせだったら、あんな負け犬小娘のスピンオフじゃなくて、私と次郎君の出会いの物語を作りなさいよ!!」


「仕方ないでしょ? 作者が書いちゃったんですから」


「むぅー! あれを読んでるとイライラするのよ! 次郎君は私の彼氏……いや、旦那でしょ!?」


「た、確かにそうですけど、あれは過去の話ですし……」


「だったら、私と次郎君の結婚後のストーリーも書きなさいって話よ! ほら! 二人で初めてホテルに行った回とか!」


「そんなん話にされても困るわ!!」


 今日の御子さんは色々とぶっちゃけ過ぎだ。

 きっと、本編が終了してから暇だったのもあるのだろう。

 

「なんで作者は正当な続編を書かないのよ! 正月が終わって、まだまだ大学生活は続くのよ!」


「ま、まぁ確かにそうですけど……作者にだって色々事情が……」


「そんなのどうでも良いのよ!」


「理不尽な……」


 今日の御子さんはとことん作者を攻撃してくるな……。

 御子さんはそう言うと、再びスマホに目を落とし、眉間にシワを寄せると思いっきりスマホを布団に叩きつけて、俺の方に寄ってきた。


「え!? ちょっ! 御子さん!?」


「ムカつく」


「な、何がですか?」


「次郎君が他の女とイチャイチャしてたと思うと、無性に腹が立つの! 良いから脱ぐ!」


「なんでいきなり!?」


 御子はそう言うと、俺の太ももの上にまたがり、頬に両手を添えてくる。


「だって……次郎君は私だけのものだもん……」


「そ、そういう可愛い事は……その……急に言わないでください……」


 潤んだ瞳で頬を赤く染め、御子さんは至近距離で俺の目を見つめてくる。

 俺はそんな御子さんの体を優しく抱きしめ、耳事でささやく。


「大丈夫です、俺は何があっても御子さんのものです」


「……本当に?」


「本当です」


「じゃあ……キスしよ」


「はいはい」


 そう言って俺は御子さんの唇に自分の唇を重ねる。

 御子さんは俺の頭に手を回し、がっちりと掴んで離そうとしない。

 数回キスを繰り返したところで、御子さんは満足そうに腕を離し、俺の方に向き直った。


「本当に私以外に振り向かない?」


「今証明したでしょ?」


「もし『石川愛実ルート』とかのストーリーが出来ても?」


「いや……あの……それは、その世界線の俺に聞いてください」


 御子さんにそう言うと、不安になったのか、御子さんは俺をベットの方に押し倒し、服を無理矢理脱がせてきた。

 少なくとも俺は御子さんが大事だ。

 この世で一番と言っても良い。

 しかし、別な世界の俺はどうなのだろうか?

 もしかしたら、愛実ちゃんを選んだ俺も居たのだろうか?

 そんな事を考えている間に、御子さんは俺の上半身を脱がせ終え、下半身に手を伸ばしていた。


「御子さん! 駄目ですって! 今日はゴムが……」


「どうせ結婚するんだから良いでしょ? ほら、さっさと脱ぎなさい!


「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


 










「へっくし!!」


「どうしました? 先輩?」


「いや、風邪かな? それより、もう先輩はやめてくれよ愛実」


「あぁ、つい……次郎さんって、なんだか呼び慣れなくて」


「付き合って一年だぞ? そろそろ慣れてくれよ」


「だって、先輩は先輩だもーん。うふふ~今日のデートは何処に連れてってくれるんですか?」


「そうだなぁ……」








 いろいろな世界、色々なストーリー。

 私はこれからも書き続けるだろう。

 この身が壊れる、その日まで……。

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