第33話


 クリスマスイブの翌日、今日は12月25日。

 俺は夕方からバイトの為、バイト先までの道のりを歩いていた。

 昨日は、先輩がよろこんでくれて、本当に良かったと思いながら、俺はバイト先に向かっていた。

 腕には昨日貰った時計を付けている。


「さて、後は年末と正月もあること出し、頑張って稼ぎますか」


 俺はそんな独り言を言いながら、バイト先に向かった。

 クリスマスイブが終わっても、クリスマスというイベントが終わった訳では無い、

 昨日出来なかったクリスマスを今日やると言う人も多い。

 その為、俺のバイト先であるファーストフード店は……。


「はい、えっとチキンが12本ですね……え! ポテトも12個ですか?! 受け取りのお時間は………五分後!?」


 やっぱり大盛況なのである。

 クリスマス本番の昨日はもっと酷かったであろうが、今日も忙しい、皆常に指を動かし、無駄な動きを一切していない。


「お待たせ致しました!」


 俺も昨日休んでしまったと言う、申し訳なさから、今日は一生懸命に働く。

 夜の時間、店内も電話での注文もいつも以上に多く、スタッフをいつもの倍にして対応しても中々追いつかない状況だった。

 なんで、みんなこの店にこんなに来るのだろう?

 そんな事を考えては見るが、直ぐに考えている暇など無くなった。


「はい、かしこまりました!」


 疲れていても、笑顔を保ちつつ、俺は仕事に勤しむ。





「お、おわったぁ~……」


「お疲れ、お前はまだマシだよ。俺なんて昨日と今日シフトに入ったんだぜ?」


 同い年の小山が俺に声を掛けてくる。

 時刻は22時、俺たち二人が上がる時間だ。

 

「で、昨日はどうだったよ?」


「まぁ、普通だよ。映画見て、飯食って……みたいな」


「そう言うことじゃ無くてさ~、やっぱり夜は……」


「……まぁ……人並みには……」


「はぁ~! 羨ましいなおい! 俺も可愛い彼女欲しいわ!」


 小山は俺に向かってそう言ってくる。

 まぁ、確かに彼女のいない奴からしたら、そう思われるのも不思議では無い。

 確かに、実際彼女がいる事でプラスになる事も多くある。


「探せば良いだろ?」


「フリーターに出会いなんてあるわけ無いだろ?」


「合コンとかは?」


「俺がそんなのに呼んで貰えるリア充だと、本気思ってる?」


 そんな馬鹿な話しを休憩室でした後、俺は早々に店を出て家に帰ろうとしていた。

 その道中、俺はとある知り合いと偶然出会してしまった。

 いや、恐らく待ち伏せされたと言うべきだろう。

 

「ま、愛実ちゃん……こんなところでどうしたの?」


「先輩……」


 帰り道の途中で出会ったのは、俺より一時間ほど早くにシフトを上がった愛実ちゃんだった。

 愛実ちゃんは、俺を発見するとゆっくり近づいてきて、俺の数十センチ前で立ち止まり、俺の目を見て話し出した。


「昨日はお楽しみでしたか?」


「ま、まぁ……それなりに……」


 俺は愛実ちゃんから視線を外しながら、そう答える。

 すると、愛実ちゃんは急に俯いてしまった。


「………う……」


「え! ま、愛実ちゃん!? どうしたの? 泣いてるの??」


 突然泣き出してしまった愛実ちゃん、俺はどうしたら良いのかわからずアタフタしていた。 なんで泣き出したのだろう?

 まぁ、確かに俺はこの子を振っている訳で、心当たりがないわけでは無い。

 しかし、なんでこのタイミングで泣き出したのかがわからなかった。

 どうにかしようにも、俺はどうしたら良いかわからなかった。

 次第に雪も強くなり始め、このままでは風邪を引いてしまう。

 なので、俺はとりあえず……。


「……で、とりあえず家につれて来たと」


「……はい」


「私が居るのに?」


「……はい」


 俺は涙を流す愛実ちゃんを家につれて来てしまった。

 もちろん、家には先輩も居る。

 当然先輩は良い顔をしない訳で、今は頬を膨らませて、正座する俺の前に仁王立ちしている。

 だって仕方ないじゃん……外の雪凄いし……。

 愛実ちゃんは今、冷えた体を温めてもらおうと、お風呂に入ってもらっている。


「なんで、あの子連れて来るのよ! もしかして3……」

 

「絶対その先は言わないで下さい! そして、そんな願望は俺にはありませんから!」


 先輩が危ない言葉を口走りそうだったので、俺は慌てて先輩の言葉を遮る。

 いや、三人でとか無理だよ……先輩だけでも結構体力使うのに……。

 そんな話しをしていると、愛実ちゃんがお風呂から上がって来た。

 着替えは、とりあえず俺のスウェットを貸したのだが、大きかったようでブカブカだ。


「すいません……ご迷惑おかけして……」


「あ、いや大丈夫だよ、気にしな……」


「全く迷惑よ! 折角次郎君と今夜もって思ってたのに!」


「先輩……勘弁して下さい……」


 危機を感じてか、先輩は俺の腕にガシッとしがみつく。

 恐らく愛実ちゃんが、俺に変な事をしないようにという対策だろう。


「でも、先輩。今日の雪じゃ……」


「う……た、確かに帰るのは無理よね……」


 外は猛吹雪となっていた。

 俺の家の周辺にも、警報が鳴り、外出を極力控えるように注意を促された。


「愛実ちゃん、今日は泊まっていきなよ」


「え……良いんですか?」


「良いも悪いも、これじゃあ外を歩くのは危険だし……それに、家には先輩が居るから、色々と心配も要らないし」


「ま、まぁ……流石にこの雪の中を帰れなんて鬼畜な事は言わないけど……」


 先輩も俺の意見に同意してくれたらしい。

 愛実ちゃんは何度もお礼を言って、一泊する事になった。

 しかし、大変なのがこれからだった。


「先輩………」


「どうしたの?」


「少し寒気がするんです……隣に行ってもいいですか?」


「こたつにでも入ってなさいよ」


「おばさんには何も言ってません」


「おばっ! おばさん!?」


 三人で部屋に居ると、突然愛実ちゃんがそう言い出した。

 外に居て冷えたのだろう、俺は愛実ちゃんのお願いを聞き入れる事にした。


「良いよ、確かにこの部屋少し寒いしね」


「あ! なら私は逆側に……」


 右に先輩、左に愛実ちゃんが抱きつく形となり、俺は逆に暑くなってしまった。

 

「次郎君に変な事しないでよ、お子ちゃま」


「そっちこそ、高校生の前であからさまにイチャつかないで貰えます?」

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