第39話



「御子さん、早く行きますよ、新幹線のチケット持ちましたか?」


「大丈夫よ、子供じゃ無いんだから。さ、行きましょ」


 俺は御子さんが部屋から出るのを確認し、アパートの部屋に鍵を掛ける。

 二人で大きめのバックを持って、俺たちは駅に向かって歩き始める。

 

「お土産も買って行かなきゃいけませんね」


「良いわよ、そんなの持って行かなくて」


「そういう訳にも行きませんよ、俺は一応他人なんですから」


 俺がそう言うと、御子さんはニヤリと笑って、からかうように俺に言う。

 

「あら? 家族になりたいとか思わないのかしら?」


 完全に俺をからかいに来ている。

 俺はそう感じ、平然とした態度で先輩に答える。


「家族になりたいから、御子さんの両親に気に入られたいんです。だから手土産くらい持って行かないと」


「そ、そそそう……な、ななによ。私と結婚とか、したいと思う……わけ?」


「まぁ、御子さんが良ければですけど……嫌だって言うなら、諦めます」


「そ、そんな事言ってないでしょ!」


「じゃあ、御子さんは俺と結婚したいと?」


「そ、それは……」


 先輩は顔を赤くして、俺から視線を反らしてしまった。

 からかうつもりだったのだろうが、そうはいかない。

 俺だって先輩と生活を始めて一ヶ月以上経っているのだ、学習だってする。


「じゃあ、御子さんは俺とは遊びだってことですね」


「ちがっ! そうじゃ無いわよ!」


「じゃあ、どうなんですか?」


「うぅ………次郎君の馬鹿……」


「はいはい、冗談もこれくらいにしますか」


「覚えてなさいよぉ……」


 先輩は真っ赤な顔で頬を膨らませて俺を睨んで来る。

 正直、その顔は逆に可愛い。

 自然と手を繋ぎ始め、俺と先輩は駅に向かって歩いた。

 歩いて十数分、近くの駅に到着し、俺と先輩は電車に乗って、大きな駅に向かう。

 そして、ようやく新幹線に乗り、先輩と俺は席に座った。


「新幹線なんて久しぶりですよ」


「私もよ、酔わないと良いけど……」


「新幹線って酔うんですか?」


「さぁ? でも嫌じゃ無い、気持ち悪いまま三時間なんて」


「まぁ、確かにそうですね」


 俺と先輩は新幹線に乗り、先輩の実家のある町に向かう。

 日も落ち始め、外は綺麗な夜景が見えた。

 俺と先輩は、スマホを弄ったり、音楽を聞いたりして、目的地に着くまでの時間を潰した。 そして、約三時間後。


「あぁ……帰って来ちゃった……」


「へぇ……ここが御子さんの出身地ですか……」


 駅前は賑やかで、居酒屋の呼び込みの声や行き交う人の話し声が聞こえて、結構うるさかった。


「えっと……お父さんが迎えに来るって言ってたけど……」


「いきなり親父さんと会うのかぁ……緊張するなぁ~」


「大丈夫よ、うちのお父さんはそこまでうるさい人じゃないから」


「それなら良いんですが……」


「あ、見つけた! お父さーん!」


 先輩は父親の車を見つけたようで、手を振って声を上げる。

 しかし、おかしい。

 先輩が手を振っている先にある車は、車に詳しくない人でも、名前くらいは聞いたことのある高級車ばかりだ。

 まぁ、先輩の住んでいるアパートや先輩のお財布事情から、実家は結構な金持ちなのでは無いかと思っていたが、なんとも予想通りである。

 この調子だと、家の方も凄そうだ。

 俺と先輩は荷物を持って、シルバー車に近づいていく。

 ちなみに車種はベンツ。

 確か新車だと三千万位だったと思うが……。


「御子、良く帰ってきたな」


「私は帰る気なんて無かったわよ。あ、こっちは彼氏の岬次郎君」


「ど、どうも初めまして!」


 車の窓から顔を覗かせたのは、男前でダンディな男性。

 眉間にシワを寄せ、鋭い目つきで俺を見ている。

 いやいや、超警戒されてますやん!

 もの凄く怖そうじゃん!


「君が娘の……そうか……」


「は、はい! よ、よろしくお願いします!」


「まぁ、そう堅くならないでくれ……積もる話もあるだろう、早く家に行こう」


「は、はい!」


 こえーよ!

 なんで話してる間、ずっと眉間にシワ寄せてんだよ!

 娘に近づくなオーラがビンビンだよ!

 俺はとりあえず、後部座席に乗った。

 先輩は荷物を後部座席に置き、助手席に乗る。

 車が発進し、俺は全くリラックスが出来ないまま、ピーンと姿勢を伸ばして座っていた。


「御子、ちゃんとご飯は食べているのか?」


「あぁ、大丈夫。次郎君が毎日作ってくれるから」


「何? 君がか?」


「は、はい! お、お母様からお聞きかと思いますが、一応同棲させて貰っていますので!」


「そうか……御子、お前は岬君の手伝いをしているのか? 同棲と言うのは、お互いに協力して家事をしてだな……」


「もう、お父さんはうるさいなぁ~、ちゃんと手伝ってるよ」


「本当か? 岬君もあまり御子を甘やかさないで欲しい、家事くらい出来なくては、人間としてダメだからな」


「い、いえ。最近は御子さんも積極的に家事をして下さります。はい」


「そうか……それと、そんなに緊張しないでくれ、もしかしたら家族になるかもしれないだろ?」


 うわぁ……家族の部分を強調した上に、なんか黒いオーラがお父さんから出てる気がする……。

 ヤバいよ……完全に俺の事をお父さん歓迎してないよ……。

 だってずっと眉間にシワが寄ってるんだもん……。


「気まずい車内での会話を終えると、直ぐに先輩の実家に到着した。

 デカい、それが先輩の家を見た最初の感想だった。

 三階建ての大きな建物に、庭もある。

 そして、高級車が三台も止まっているガレージまである。


「さぁ、上がってくれ。ようこそ我が家へ」


「うわぁ……懐かしい気がする……て言うか、お父さんまた車変えたでしょ?」


 俺は先輩とお父さんの後に続いて、玄関の中に足を踏み入れる。

 玄関もこれまた広い。

 先輩のご両親は、一体何をやっている人なのだろうか?

 気になった俺は、先輩のお父さんとの距離を縮める為に質問してみる。


「あの…ご職業は何を……」


「一応、病院で医院長をやっているんだ。まぁ、大したものではないよ」


 大した事ありすぎだろ?!

 マジか! 医院長って奴か!

 後ろに先生方を引き連れて回診する人か!

 俺は先輩の家に来たばかりだと言うのに、なんだか凄く疲れてしまった。

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