第45話
俺と御子さんは、神社の中に入りお参りをする列に並ぶ。
着物の女性も多く、そのどの女性の中でも御子さんは綺麗だった。
いや、彼氏のひいき目とかじゃ無く……。
「御子さん」
「何?」
「二人で歩くのも当たり前になりましたね」
「そうだね、急にどうしたの?」
「いや……御子さんと一緒にいるようになった時を思い出しまして……あのときは酷かった……」
「なんでよ!」
だって貴方、俺の事を男避けに使ってたじゃないですか……。
あの頃は大変だった、御子さんのせいで厄介な事ばかり押しつけられるし、大学の男共からは睨まれるし……。
まぁでも、そんな出会いがあって、今はこうして御子さんの隣に居るのだが。
「次郎君、順番来たよ」
「え?」
「もぉ、何ぼーっとしてるの? 早く前に進むよ」
「あ、はい」
俺は賽銭箱の前に進み、賽銭を入れて鈴を鳴らす。
がらがらと大きな音が鳴り、俺と御子さんは手を叩いてお参りをする。
こういう時に今年一年の願いを神様にお願いするらしいが……俺は何をお願いしよう?
そんな事を考えているうちに、タイムリミットが来てしまった。
後ろにも多くの人が並んでいる為、そこまでもたもたもしてられ無い。
俺は御子さんと列を離れた。
「何をお願いしたの?」
「え……いや、結局何も。考えてたら、終わってました」
「なによそれ、お参りに来た意味無いじゃない」
「あ、意味はありましたよ」
「何?」
「御子さんの綺麗な着物姿が見れたので」
「!! ……ばか」
そう言った瞬間、御子さんは顔を赤くして顔を伏せた。
こう言う顔も見れたし、初詣に来た意味は十分あった。
「御子さん、おみくじ引いて帰りますか」
「そ、そうね……今年は本格的に就活だし。今年の運を見て行きましょうか」
俺と御子さんはおみくじが売られている場所に向かい、一回づつ引く。
「えっと……あ! 大吉!」
「え、本当ですか? 俺は……げ!」
「どうしたの?」
「大凶……」
まさか大吉よりも入っていないと噂の大凶を引いてしまうとは………新年からついていない……。
「アハハ、凄いわね、大吉より出ないって言われてるのに」
「うわぁ……学問、十分に励め。待ち人、来ない……」
「まさに大凶ね……でも、待ち人は来なくて良いの! もう居るから」
「はいはい……恋愛は……上手くいかない」
「あら、それは大変」
「俺たち、別れるんですかね?」
「大丈夫よ、こんなのただの占いでしょ?」
「それもそうですね」
俺は大凶のおみくじを神社に結んでいき、神社を後にした。
御子さんは折角の大吉だからと、財布に一年入れておくらしい。
俺と御子さんは初詣をすませ、家路についていた。
「う~…着物も良いけど……胸がきっつい」
「あぁ、潰して着るんでしたっけ?」
「そうなの、だから少し苦しくって……誰かさんが揉むから、カップも一つ上がったし」
「お、俺のせいだけでは無いと思います!!」
「どうだか~、このおっぱい星人」
「違います!」
違う、断じて俺はおっぱい星人などでは無い!
……多分。
そんな事を自分に言い聞かせていると、御子さんの実家に帰ってきた。
「おぉ、おかえり。どうだった初詣は?」
「結構人が多かったです、それと大凶を引きました……」
「それは災難だったな、新年早々から」
御子さんが着替えをしている間、俺はお父さんとリビングでテレビを見ながら話しをしていた。
この人にも慣れたものだ、最初はあんなに警戒していたのに、今ではその警戒心は一切無い。
まぁ、相変わらず眉間にシワを寄せているが……。
「君は……御子が好きか?」
「え!?」
急にどうしたのだろう、お父さんは真面目な顔で俺にそう尋ねて来る。
なんだか雰囲気的に真面目に答えた方がよさそうな気がする。
「は、はい! あの……最初はアレだったんですけど……今はその……す、好きです!」
「……そうか……それを聞いて安心した。御子は本当にいい人を見つけたようだ」
「いや、俺なんて全然……」
「彼女の父親に、面と向かって娘さんが好きです。なんて言えるだけで、男としてはかなり
良い男だと思っている。大抵ははぐらかすからな、結婚の挨拶とかで無いかぎり」
「そ、そう言うものでしょうか?」
「そうとも……安心したよ……君になら御子を任せても良さそうだ……」
「い、いや……そんな結婚を許そうみたいな事を言われても……」
「君は御子と結婚してくれないのかい?」
「そもそも、御子さんがそれを望むかわかりませんし……」
御子さんは確かに今、俺と付き合っている。
しかし、これからの長い人生の中で御子さんが俺を人生のパートナーに選ぶかはわからない。
ただでさえ御子さんは綺麗だし、俺なんかでは釣り合いが取れない。
不安しか無かった。
いつか捨てられるのでは無いか、だから俺は割り切って考えた。
御子さんが俺から離れるまでは、御子さんを好きでいようと…。
そして御子さんが俺の他に心を許せる人が出来たら、俺は潔く身を引こうと……。
「岬君は自信が無いのか?」
「正直に言えば……御子さんは綺麗ですし……」
「ハハハ、そんな事か……なら安心すると良い、御子が彼氏を連れてきたのは、君が始めてだし、そもそも、君が現れるまでは、一生独身で居るとまで言っていたからな」
「そ、そうだったんですか?」
「あぁ、しかも御子があんなに懐いている人間は君が始めてだ」
「はぁ……そうなんですか?」
「だから、自信を持つと言い、君が嫌になら無ければ、恐らく御子は君に一生ついていくつもりなんじゃないかな?」
「そうだと、嬉しいですけど……」
「それに、娘さんを下さいと言われたら、私はよろこんで首を立てに振るぞ」
「軽すぎませんか?」
あぁ、なんか色々言われたけど、何となくわかった。
この人も俺と御子さんが結婚する事を望んでるんだ……。
奧さんと同じ考えでそう言ってるのかはわからないが……。
でも……そんな事を言われても、結婚なんて考えた事も無い。
結婚なんてもっと先の事だと思っていた。
「まぁ、大事なのは本人同士の気持ちだ。すまないね、どうも私は早く孫の顔が見たいらしい」
「そ、それはどっちにしても、自分が卒業するまで待って下さい」
そんな話しをしていると、着替えた御子さんがリビングに戻ってきた。
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