第25話

「そんな話し今はどうでも良いのよ、とにかくあんたら二人は私のサークルに入るの! 決定!」


「いやいや、そんな強引に……」


「そうっすよ先輩、俺らはまだ入るなんて一言も言ってないっす」


 強引に入会させようとする片岡先輩に、俺達は口をそろえて断ろうとする。

 こんな事をするサークルが、まともな訳がない。


「片岡、強引なのはどうかと思うぞ?」


「そうよねぇ~、流石にこんな事しても、この子達入らないでしょ?」


「そうですよ、はぁ~片岡先輩はなんでこうも考え無しなんだか……」


 片岡先輩以外の先輩方も俺達の意見に同意してくれている。

 どうやら、おかしいのはサークルでは無く、片岡と言う先輩だけのようだ……。


「あの、じゃあ俺ら帰っても良いっすか?」


 そう言ったのは博男だった。

 確かに、この雰囲気ならここから帰れそうだ。

 しかし、片岡先輩もそう簡単に帰してはくれない。

 

「ま、待ちなさい! じゃ、じゃあ仕方ないわ! ここは、私と一回混浴で……」


「「さようなら」」


「ちょっと! 私が体を張ろうって言ってるのに、その態度は何なのよ! フシャー!」


「片岡先輩! 落ち着いて下さい! 先輩が変な事を言うからですよ!」


「じゃあ、お姉さんも一緒でどう?」


「由島(ゆしま)先輩も馬鹿な事を言わないで下さい!」


「なら……俺も……」


「関口(せきぐち)先輩まで何言ってるんですか! 俺とアンタは男でしょ!」


 先輩のボケに、先ほどの普通の先輩がツッコミを入れる。

 なるほど、このサークルでまともな人はあの人だけのようだ。

 しかも、この人だけ他の先輩達を呼び捨てじゃないって事は、この人は二年生か?

 などとを思いながら、帰れずにいると、突然部屋のドアが開いた。


「騒がしいわね、どうかしたの?」


「おぉぉ! 良いところに来たわねミーちゃん!!」


 入ってきた人は、長いロングヘヤーの綺麗な女性だった。

 綺麗。まさにその一言が似合う女性だと、俺はこのとき思った。

 整った顔立ちに、ほっそりして長い手足。

 この場に居る女性のレベルは凄く高いが、この人はその中でも飛び抜けている気がした。


「その呼び方はやめて下さい。猫の名前みたいで嫌なんです」


「まぁまぁ、そう言わないでよ~御子ちゃん」


 片岡先輩は、その綺麗な女性をそう呼んだ。

 恐らく名前だろう。

 どこかで見た事あるような気がすると、俺は思いながら、その御子先輩の顔をどこで見たのか思い出そうとする。

 すると、隣の博男が御子先輩に言った。


「あ! 確かこの人って去年のミス涼清」


「博男、知ってるのか?」


「あぁ、学校説明会で貰ったパンフレットに載ってた」


 そうだ、確かにパンフレットに載っていた。

 それで俺は、この人を見たことがあったのだ。

 確かに、そこら辺のアイドルや女優よりも可愛いのではないかと思ってしまうほどの美貌だ、ミスコンで優勝していてもおかしくない。


「この子達は?」


「ふっふっふ……紹介しよう! 入会希望者だ!」


「「違います」」


 本当にこの片岡と言う先輩は人の話を聞いているのか?

 そろそろ本当に帰りたくなってきた俺と博男。

 

「あら、貴方たち本当に入らないの? うちのサークル、入会希望者多くて、毎年大変で、毎年部長が決めた人だけって事になったのよ。だから、結構レアよ?」


「結構ですよ。自分の入るサークルは自分で決めます」


「だよな? 俺もこいつと同意見っす。美人な先輩方」


「お前はナチュラルに美人とか良く言えるよな……」


「そうか?」


 俺が博男のそんな、恥ずかしげの無いところに感心を抱いていると、またしても片岡先輩が騒ぎ出す。


「あぁぁ! もう! だってあんたらくらいしか居ないのよ! 女子をエロい目で見なくて、一緒に温泉に行っても問題起こさなそうな新入生って!」


「入会希望者の面接したら、大変でしたもんね……」


「そうよね~、男のほうはみ~んな御子ちゃんとお近づきになりたい一心って感じだったし~」


「逆に女子は、関口さん狙いの女の子が来てましたもんね……」


 面接なんて事もやるのか……本当に希望者は多いんだな……。

 まぁ、確かに見た目の良い人が多いしな……中身は変だけど……。


「もう良いじゃ無い! どうせ入るサークル決めてないんでしょ?」


「まぁ……そうですけど……」


「だったら良いじゃ無い! うちは楽しいわよ~、温泉旅行行ったり、その辺のスーパー銭湯行ったり」


「そんなん言われてもなぁ~」


「何よ! こんな美女に囲まれたサークルの何が不満ってわけ!」


「先輩、多分美人は自分を美人と言いません……」


 確かに普通に勧誘されて居たら、入ったかもしれな。

 しかし、初対面の人間にいきなりホモ野郎と言ってくる人が部長のサークルだ。

 正直不安しか感じない。


「はぁ……しょうがねぇ……俺は良いですよ」


「はぁ?! 急にどうしたんだよ、博男!」


「いや、なんか良いかなって。これだけ必死に勧誘してくれてるし……」


「お前なぁ……」


「それに、風呂に入れるのは良いじゃん」


「まぁ、確かに温泉ってとこは良いと思うが……」


 まさかの事態だ、味方だと思っていた博男がその気になってしまった。

 まぁ、確かに入るサークルが決まっている訳では無いが……。


「でも、俺らをホモ呼ばわりした人が部長だぞ? それに拉致して連れてきたり、色々と問題ありそうだろ……」


「う~ん、でもなんか悪い人達って感じしなくね?」


「ま、まぁ確かに……どっちかって言うと……」


 変人。

 そう言おうとしたが、俺は咄嗟のところで言葉を飲み込む。

 しかし、少し話した位でどんな人物かを判断なんて出来ないしな……。

 お試しで入って、ダメなら抜けさせてもらうか…。

 俺はそう考え、博男と共にこの温泉サークルに入った。

 このときの片岡先輩は本当に嬉しそうな顔だった。


「じゃあ、お礼に私と混浴を……」


「「それは結構です」」


「あんたら……まさか本当にホモ……」


「取り消しますよ、入会の件」

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