第34話
二人の女性に挟まれ、俺は気まずい雰囲気の中、二人の女性の間で小さくなっていた。
まぁ、本当なら部屋に入れるべきでは無いのかもしれないけど、この大雪の中で帰れとも言えないし……。
なんてことを悩んでいると、先輩がふと俺の方にもたれ掛かってきた。
「先輩、あの……」
「何?」
口調がいつも寄より強い。
確実に怒ってるなぁ……。
どうしよう……トイレ行きたいんだけど……。
なんてことを考えて居ると、今度は逆側の愛実ちゃんが俺の方にもたれ掛かってきた。
「愛実ちゃん?」
「スー……スー……」
「寝たふりやめようね」
愛実ちゃんは先輩に対抗してか、俺の方にもたれ掛かってきた。
寝たふりでやり過ごそうとする愛実ちゃんだが、そんな愛実ちゃんの頬を先輩がつねる。
「痛い痛い!! 何するのよ!」
「それはこっちの台詞よ! 次郎君に変な事しないでって言ったでしょ!」
「別にしてないでしょ! 独占欲強すぎなんじゃないですか?」
「別に普通よ!」
またしても言い争いを始める両者。
あぁ……トイレ行きたい……。
それからも二人の攻防は続いた。
飯を食うとなれば、どう座るかで揉めたり、風呂に入るとなれば、何故かどっちが俺と入るかで揉めたり……いや、一人で入りますよ?
そんなこんなが有り、家に居るはずなのに余計に疲れてしまった。
「はぁ……お願いだから、半日くらい仲良くしてよ……」
「「そんなの絶対無理!」」
「まぁ、そうだよね……」
自分で言っておいてなんだが、この二人は一応恋のライバルだ。
まぁ、第一印象からこの二人は印象最悪だったしな……。
愛実ちゃんを連れて来てしまった俺が悪いのだが、緊急時くらいは喧嘩をやめてほしい… …まぁ、俺が言えた事では無いのだろうけど……。
そして、いよいよ寝ようとなった現在……。
「あの………なんでこうなったんですか?」
俺は先輩と愛実ちゃんに挟まれて、床に布団を敷いて寝ている。
最初は先輩がいつものように、俺と寝ようとしていたのだが、それに愛実ちゃんが対抗し、愛実ちゃんまで俺と寝ると言い出す始末。
それ以降は、いつものように言い争いになり、結局こう言う形に落ち着いた。
「あの、俺が一人でロフトで寝ますので、二人でベッドを使って下さいよ」
「「この女と一緒に寝るなんて嫌」」
「そうですか……」
こういうときは息ぴったり何だよなぁ……。
俺はもう諦め、早く寝てしまおうと目を瞑る。
しかし、眠れる訳がない、右を向けば先輩、左を向けば愛実ちゃんが俺の腕にくっついて
寝ているのだ。
当然落ち着いて眠れる訳がない。
俺は必死に目を瞑って羊を数え始めるが、一向に眠気がやって来ない。
隣の二人は、早々と寝てしまったようだ。
「はぁ……この隙にベッドに移動するか……」
俺は二人が眠っているうちに、ベッドに移動しようとしたのだが、二人から両腕をガッチリとホールドされて、抜け出す事が出来ない。
「ダメか……」
無理やり抜け出して、二人を起こすのも悪いので、俺は我慢してそのまま眠りにつく。
やっと眠気がやってきた、そんな矢先だった。
愛実ちゃんの方が、何やら起き上がり始めた。
トイレだろうか?
などと考えながら、俺は目を瞑っていたのだが、愛実ちゃんは立ち上がらず、そのまま俺の体に覆い被さるように抱きついてきた。
「え?! ちょっ……何やってるの!」
俺は小声で愛実ちゃんにそう言う。
こんなところを先輩に見られたら大変だ。
早くどくように言おうとすると、愛実ちゃんは俺のお腹に顔を埋めたまま話し始めた。
「先輩……覚えてますか? 私と始めてあった時の事……」
「きゅ、きゅうに……どうしたの?」
先輩ほどでは無いが、愛実ちゃんも結構胸が大きい。
そんな子に抱きつかれたら、どんな男でも意識してしまう。
「私、始めて先輩に出会った時、絶対に好きにならなそうなタイプの人だなって思ってタンです」
「そ、そうなんだ……なんでも良いから早く退い……」
「でも、今はこんなに大好きなんです」
「その前に俺の話しも聞いてもらって良いかな?!」
俺の言葉を無視して、俺の体をがっしりと抱きしめる愛実ちゃん。
俺は隣の先輩が起きないかと、心配でしょうが無かった。
「クリスマス……本当は先輩と過ごしたかった……」
「愛実ちゃん……」
涙を流す愛実ちゃんに、俺は心を痛める。
しかし、コレばかりはどうしようもない。
俺には先輩が居る。
愛実ちゃんの思いに応える事は出来ない。
「ごめん……」
「良いんですよ……自分でもしつこい女だってわかってます……だから……今日で終わりにするつもりだったんです……」
「え……」
「今日、先輩にもう一回思いを伝えて、終わりにしようと思ったんです」
「だから、俺を待ってたのか……」
「はい……予想外にお泊まりまで出来ちゃいましたけど」
ニコッと笑ってそう言う愛実ちゃんの瞳からは、大粒の涙が溢れていた。
「ごめん、本当に……」
「先輩は謝る必要なんてないですよ。悪いのは私なんです……でも、先輩がもし嫌じゃ無ければ……これからも仲良くしてくれますか?」
不安そうに言う愛実ちゃん。
俺は笑顔で愛実ちゃんに言う。
「もちろんだよ」
そう言うと、愛実ちゃんは安心したのか、再びニコッと笑った。
「先輩、先に謝ります。ごめんなさい」
「え………」
愛実ちゃんはそう言うと、突然俺の顔に自分の顔を近づけてきた。
そして、俺の唇と自分の唇を重ねた。
何が起きたのか全くわからない俺は、数秒間の間放心状態になってしまった。
「……最後の私のわがままです。もう、先輩の事は諦めます」
そう言うと愛実ちゃんは、俺の方に背を向けて再び眠り始めた。
隣に先輩が居るというのに、なんて大胆な子なんだと思いながら、自分の唇を指で撫でた。
「おやすみ」
そう言って俺は、目を瞑って眠り始めた。
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