第86話 侵略者

「ますたぁ!」


池で釣りをしていると、レイが後ろから抱きついてくる。最近は釣りが癒されるので機会が増えている。が、ちょくちょく他のメンバーに捕まる。サクラだけは直接部屋に来るが。


「おう、レイ、どうした?」


「ますたぁの家に遊びに行っていい?!」


来るのか?まあサクラの遊び相手にもなるか。


「別にいいぞ」


「わーぃ!」


と言ったやりとりがあった数日後、レイが遊びに来たのだけど・・・え、何この空気。何で無言。


「レイ、良く来てくれた。こんにちは。この娘がサクラ、よく一緒に遊んでいるあのサクラだ」


「レイさん、オフでは初めましてです。パパの娘の桜花です」


「こ・・・こんにちは・・・えと・・・レイ・・・です。娘・・・?既婚者・・・?」


「肯定です。娘です」


「ああ、サクラは身寄りがなかったのでね。養子に来て貰ったんだ」


「ずるい!」


ずるいって何。


「と、とりあえず奥に」


客間に通す。飲み物と菓子を持って客間に行くと、レイとサクラが話合っている。


「否定、私はパパの娘であり、ここが私の家です。一緒に暮らすのは当然です」


「じゃあ私も一緒にここで暮らす!」


「否定、レイがこの家に暮らす必然性はありません!」


「ずるい!」


「否定、ずるくないです。これは必然です」


・・・レイがこの家に?


「まてレイ。流石にこの家にレイも住むのはおかしい。レイにも家があるだろ?」


「何でサクラばっかり?!」


「サクラは俺の娘だからなあ」


「うう・・・じゃあ・・・私はますたぁのお嫁さんになる。これならいいでしょ!」


「ちょ?!」


えっと嫁って・・・そもそも付き合ってなくて・・・というか・・・いや可愛いけど・・・可愛いけどそうじゃなくて・・・そもそも二回りも離れてるから結婚とか無理で、


「否定、将来パパのお嫁さんになるのが娘である私の夢です。レイが入り込む余地はありません」


娘に言われたい台詞来たあ?!それもちょっと待て。


「まてまて、レイ、とにかく俺は結婚する気ないし、サクラも冗談はよせ」


「否定、私は本気です」


ああ、反抗期に入る前の娘ってこんな感じなんだよな。どうどう、とサクラの頭を撫でながら、


「とりあえずレイ。遊びに来るのは歓迎するけど、この家に住むのは無理だ。レイの家はどうした」


「1人暮らしだもん!」


おや。


「それは苦労しているようだねでも親がいて・・・」


「親はいないよ!」


いないのかあ・・・


「・・・じゃあ遊びに来る!通い妻する!」


ええ・・・わっ、レイがぎゅっと抱きついてくる。だからリアルでやられると困るって。慌てて引き離そうとするが、うるっとした目で見られる・・・う・・・


「ちょ・・・ちょっと出かけてくる!すまん、サクラお留守番頼む・・・!」


「肯定、任されました。侵略者の相手はしておきます」


「侵略者じゃない!通い妻!」


逃げるように家を後にした。情けない・・・どうすれば・・・誰かに相談・・・いや・・・相談できる人なんて・・・


トキに連絡を取ってみると、相談に乗ってくれるとの事だったので、御願いする事にした。


「やあ、シルビアさん。オフではお久しぶりだね」


「こんにちはトキ、早速頼って申し訳ない」


「いや、大丈夫。キミに頼られる事は嬉しいよ」


「それで内容なんだけど・・・女の子にプロポーズ?されて困っていて」


「女の子・・・?まあ、キミさえ良ければ受けてもいいのでは?まあ、いきなりプロポーズされても困るだろうし、まずは友達からとか、付き合うところからとか」


「既に友達ではあるのだけど」


「んー、となると、相手はレイかな?キミの交友関係やキミへの好意から推察するにそのあたりだ。他にも該当者はいるが、女の子、のカテゴリーではない。いい娘だと思うよ、付き合ったらいいんじゃないかな」


「結婚はこの年になってもう諦めているし、2回りも年齢が違う相手とは付き合う気はない」


「キミも面倒だな・・・そうなると・・・既に恋人がいるとかそういうのはどうかね。そういうのを頼める異性の友人は・・・居なさそうだね」


「居ないなあ・・・」


「六英雄に心当たりはあるのだが・・・残念ながら振りでは済まないだろうし、向こうには残酷だろうしね。キミにその気がある、本当に付き合うのなら喜んで仲介するのだが」


六英雄に?こっちには欠片も心当たりがないのだけど。


「キミに面識のない女性の知り合いもいるが・・・私の深い知り合いは大抵、若い子なのでね。レイに対して断る理由としては結構説得力が低い・・・」


悩むトキ。


「うーむ・・・難しいよな。まあ俺の問題だし、俺がしっかり言うしかないな。すまない、ありがとう」


「後は・・・私がキミの相手、という話にする手もあるな。正直、男女の機微には疎いし、大根役者となってしまうが」


「トキに・・・?それは確かに有り難い話だね」


「ふむ。キミが良いならそうしようか。僕をキミの恋人として紹介するがいい」


「じゃあ家に来てくれるか?今サクラが応対してくれている」


「・・・何故今サクラの名前が出てきたのかね?」


「サクラと一緒に住んでるからかな」


「??どういう事かね?何でサクラと一緒に住んでるのかね??・・・この前言ってた養子かね?」


「うむ」


「・・・まあ、レイが性急な行動に出たのは分かる気はするよ。正直、キミはレイと付き合ってもいいと思うがね。キミが拒否するなら仕方あるまい」


「すまないな、面倒をかけて」


「気にするな。言っただろう、キミの力になれるのは嬉しいのだよ」


トキを連れ立って、家に向かう。

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