第35話 サクラ1

〔なーなー、マスター、御願いがあるんだけどー〕


最近日課になっている、大陸ダンジョンリトライの準備をしていると、サクラに呼び止められた。


〔んー?どうしたー?〕


〔実は今悩んでて・・・武器、大剣貰っただろ?強いし、スタイルにも合ってる気がするんだけど、なんかしっくり来ないんだよね。バーサーカーも思ったより何かこう、違う気がして。とりあえず武器に関して、相談にのって欲しいんだ〕


〔分かった。ダンジョンで色々試してみる、とかでいいかな?〕


〔それで御願いー〕


サクラと、武器屋で待ち合わせる。バーサーカーは、ウェポンマスターに近い職だ。ウェポンマスター程ではないが、ほとんどの武器を得意武器として扱える。


武器屋に向かうと、人だかりが出来ていた。


「貴様、商人の癖に客に武器を売らないとはどういう事だ!」


「何度言われてもあの武器は売れん。帰ってくれ」


「困ります・・・他のお客様の迷惑になるので・・・」


小さな女の子、恐らく武器屋の娘だろう。怯えながらも、怒鳴っている冒険者に言葉をかけている。冒険者の方もプレイヤーだな。あれ。


「どうした?何があった?」


サクラがすっとその騒ぎに割って入った。


「お前、しゃしゃり出てくるな。あの刀は俺が入手するんだ。イベント横取りはノーマナーだぞ」


ノーマナー、別名俺ルール。


「まあ、落ち着きなって。売れない、と言ってる物を買う事はできない。可愛そうに、その女の子怯えてるじゃないか。周りを見てみるがいい。貴方がどう周りに映っているか。決して好意的な目ではないはずだろう?」


「NPCの目等知ったことかあ!」


冒険者が叫ぶ。いや、大半はプレイヤーですよ?


「何の騒ぎだ!」


そこに武装した騎士の集団がやってきた。あれも全員プレイヤーだな。


「ち、騎士団の連中か。貴様、覚えてろよ」



冒険者は、サクラに悪態をつくと、足早に立ち去った。


「ほら、もう大丈夫だよ」


サクラが少女を慰めている。


「何があった?誰か事情を説明して欲しい」


リーダー格らしい騎士がそう言うと、周りが事情説明を始めた。武器屋で見慣れないレアアイテムを親父が虫干ししていて、それを見つけたプレイヤーが売るように迫っていたのだ。NPCにも、この国での人権がある。プレイヤーはその権利を侵害してはいけないし、侵害すれば国から裁かれる。恐らく騎士連中は、自警団で、治安維持を手伝っているのだろう。そういったロールプレイも、結構楽しいものだ。もっとも、悪人プレイヤーより強い実力が必要となる為、結構大変だ。


「事情は承知した。サクラさん、治安維持の協力感謝する。我々はこの世界が好きだ。我々プレイヤーによって、この世界の人々が被害を受けるのは、防がなければならない。今後も、その力で、みんなを助けて下さい」


騎士が手を差し出す。


「やー、難しい事は分からないけどさー。私はやりたいようにやるよ。可愛い女の子が困ってたらやっぱり見過ごせないさ」


サクラと騎士が握手を交わす。騎士連中が手を振って去って行った。他の見物者も解散する。


「改めてありがとうございました」


少女がぺこりと頭を下げる。


「構わないよ。それより、武器を見せて欲しい。色々試したいんだ」


「はい、分かりました」


少女がぱーっと顔を明るくする。シミター、アックス、スモールアックス、スピア、ランス、弓矢、ロングソード、ショートソード、ダガー・・・多種の武器を買い込む。親父が割り引きしようとしたが、サクラはそれを断り、正規の値段を払っていた。


買い物を終えたサクラがこっちに向かってくる。


〔お待たせマスター〕


〔お疲れ様。じゃあ、ちゃっちゃと行こうか〕


ダンジョンゲートを使用する為、ギルドアジトに向かって歩き出した。


ダンジョンゲート。施設レベルとアーティファクトの影響で、ダンジョン侵入時に基準レベルを数段階上下できるようになっている。また、基準レベルに対し制限を付けるかどうかも設定できるようになっている。これは便利だ。


尚、基準レベルの変更、と言っても大幅に変更できる訳ではないし、基準レベルを下げた場合はレアドロップ率が激減する。逆に基準レベルを上げた場合でも、レアドロップ率に変化はない。純粋にレベル上げ目的が強い。


今回はこの機能は利用しない。武器を試すだけなので、雑魚、かつ、出現数の多いダンジョンを選ぶ。無双。


<インスタンスダンジョンが作成されました>


《マスター、どの武器から試そう?》


《とりあえず全部試してみればいいんじゃないかな。気になった順に》


最初に試すのは・・・シミターか。熟練度の区分は大剣だ。熟練度も高いので、上手く扱えている。次に弓矢。慣れてない感がある。


《く・・・マスターがやってるような光ばばーって出ないぜ》


そりゃ出ないだろう。


《レベルが違うからなあ》


武器の。


その後も色々試して行く。アドバイス求められたり、使い方が違ってたら、使い方のアドバイスをする。


《うーん・・・アックス系とかバーサーカーっぽくていいと思ってたんだけど、しっくり来ないなあ・・・》


結局どの武器もしっくり来なかったらしい。鞭とかはバーサーカーに適正ないしなあ。


《マスター、今日はありがとうな!また試したくなったら色々教えてくれ!にしてもマスターは本当に色々な武器の使い方知ってるんだなあ》


《それがウェポンマスターだからな》


《マスター、多分職業とレベル偽装してるよなー》


サクラが半眼で言う。気のせいだろう。


《さて、出よう。入らない武器は武器屋で売るといいと思うぞ》


《そうだな。じゃあこのまま売りに行くよ》


そこまで付き合うか。2人で武器屋に向かい歩き出した。

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