第36話 サクラ2

「お姉さん、助けて下さい」


武器屋に行くと、先程の少女が、泣きながら駆け寄ってきた。


「どうした?」


サクラが片膝をつくと、少女をあやすように語りかける。


「お父さんの武器が・・・盗まれてしまったんです・・・お父さん凄い落ち込んでて・・・助けてあげて欲しいです!お礼は・・・満足にできないけど・・・でも、御願いします!」


やー、ちゃんと報酬は払うべきだとは思うが。まあ、名声が上がると良い事が起きたりするので、悪い話ではない。


「分かった。さっきもめていた武器かい?お父さんに話を聞かせて貰うよ」


少女に連れられたサクラについて、武器屋に入る。休業の看板が出され、親父さんが・・・怯えていた。


「・・・カエデ・・・そちらの方は・・・さっきの・・・?」


「店主、何があったか聞かせて欲しい。良ければ私が力になろう」


「・・・いえ、危険です、逃げて下さい」


親父が震えながら言う。逃げろ?


「どういう事だ?・・・盗んだのは先程の男で、私が報復で狙われる、そう言うことか?」


サクラが安心させるように言う。


「大丈夫だ。あの男が来ても、簡単に返り討ちにできる。強いからな、マスターは」


「そこで俺?!」


いきなりの巻き込み。


「・・・・違うんです・・・」


親父が、怯えながらも、語り始めた。


あの武器の名は、妖刀正宗。LRのレアリティを持ち、かつてその武器を使った者は国を敵に回しても戦えたと言う。だが、幾人もの達人、産み出された悲劇、奪い合い・・・やがてその刀は妖刀となり、装備した瞬間殺人鬼と化してしまう。その際にステータスも大幅に増加するらしく、被害がどこまで広がるか想像も出来ないらしい。


男はサクラに強い敵意を抱いていた為、サクラを狙う可能性がある。その為、逃げて欲しい、と。


「それは分かったが・・・何か奴から逃げられるのに役立つアイテムはないか?奴の居場所が分からないのでは、奇襲に怯えなければならぬ」


サクラが困ったように言うと、店主が宝石を取り出した。


「これは正宗を封印するのに使っていた宝玉です。これを差し上げるので、光が強くなったらすぐに逃げて下さい。念じれば、方角もだいたい分かるはずです」


「ありがとう、このお礼はまた今度させて貰う」


サクラがにっこり笑う。てっきり取り返すとか言い出すかと思ったけど、逃げる事にしたらしい。まあ、今のレベルじゃ無理そうだし、サクラが逃げ切る限り被害も出ないかも知れないし。うん、悪くない判断だ。


店を出ると、サクラが早速宝玉に念を込めた。


《マスター、あっちだ、急ごう》


《えっ》


《えっじゃない、被害が出る前に男を押さえないと・・・まさかマスター、私が本当に逃げる為に探知アイテム貰ったと思ってるのか?ああ言えば探知アイテムが出てくるかと思ったから言っただけだぞ?》


《・・・え、ああ、勿論気づいてたさ、さあ、向かおうじゃないか》


サクラが『ジト目』エモを出す。・・・く。


サクラと2人で反応のある方角に向かう。廃屋の奥に、目をランランと光らせた武者が立っている。先程の男のなれの果てだろう。リアルのあいつどうなってるんだろー。


《先手必勝!》


サクラが男に切り込む。武者はその動きを躱すと、サクラの腹に向かって刀を振る。サクラは無理矢理のバックステップを発動し、何とか躱す。抜き胴。あの刀ならさくっと切られてた可能性がある。危ない。


《こいつ・・・強い・・・》


「殺す・・・殺す・・・殺す・・・殺すうううう!」


武者の攻撃を、受け止め、いなしたり、躱したり・・・防戦一方だ。


《くらえ!》


指弾で爆薬を飛ばす。武者がのけぞる。その隙に背後を取り、鎧ごと背中を切り裂く。


「斬る斬る斬る斬る斬るぅ!!」


素早く向き直ると、息つく暇もない連撃をサクラに浴びせる。


「はっ!」


サクラの威圧。殺気を込め、相手の動きを鈍らせたり、逃亡させたりするスキルだが・・・接敵戦闘中に効果は低いし、正気を失っている相手には効かな・・・あ、怯んだ。


《終わりだ》


サクラの一撃が、武者の首を斬り飛ばした。


体が消えていく。セーブポイントに戻ったのだろう。その場には、刀が残された。刀の刀身を、鞘が覆っていく。


《サクラ、宝玉を》


俺が言うと、サクラが宝玉を近づけ・・・鞘にはまり、刀から出ていた禍々しい気が収まった。


《お疲れ様》


俺何もしなかったなー。とは言え、牽制で撃っただけでも敵一撃な雰囲気だったしなあ・・・


《ああ、マスターもお疲れ様》


何もしてないって。


2人で、武器屋に戻る。刀を返すと店主は大変驚き、喜んだ。


「ありがとうございます・・・本当に何と言ってお礼とお詫びを申し上げればいいか・・・」


店主はじっと刀を見つめ、すっとサクラにその刀を差し出す。お礼のつもり、と言う訳か。でも危ないような。


「すみません、虫の良い話ではありますが、御願いがあります。この武器を預かり、そのうち破壊しては頂けないでしょうか。この武器は余りにも危険です。しかし、私にはこの武器を破壊する手段はありません。昔教会に処分を依頼したそうですが、その時も修道士の1人が魅入られてしまい、惨事となったそうです。貴方なら・・・何時かこの武器を破壊、もしくは封印できる、そんな確信があるのです」


サクラが武器を受け取る。


すっと嬉しそうにこっちに情報を見せてくる。


妖刀正宗[LR]

 幾多の悲劇を経て妖刀と化した刀。

 装備すると人格が破壊され、修羅となる。

 気力を注ぎ込む事で、斬撃の速度、威力、切断力を向上させる事ができる。

 周囲のマナの力で再生する。

 新たな力を得る。

 固有スキル:呪力障壁、呪力刃


呪いの武器、か。装備した事無いんだよなあ。説明に書いてあるからみんな警戒して装備しない。NPCなら騙されるだろうけど、プレイヤーであれはお粗末だよなあ。


「ここに家宝の宝刀があります。御願いを引き受けてくれるなら、これを差し上げます」


美しい蒼の宝石剣を出す。URっぽい価値を感じる。あれは強いな。


サクラはにっこり微笑むと、正宗を・・・抜いた。封印がぽろりと落ちる。


ちょ?!


「お姉ちゃん?!!」

「戦士様?!!」

「サクラ?!」


サクラはその刀をじっと見ると、満足して鞘に戻した。


「美しい・・・ん、どーした?悪い、聞いてなかった。この刀くれるんだろ?」


サクラが小首を傾げる。


「何ともないのか?」


「別に何ともないぜー?」


サクラは店主と少女を見て、


「ありがとう。正宗は貰っていくよ。あ、お金必要なら言ってくれ。すぐには払えないけど・・・つけておいてくれたら少しずつ返すから」


・・・うーむ、抜いてた間普通に禍々しい気を感じたのだが。正宗に選ばれたのだろうか。


「お金は結構です・・・まさか、正宗を使っても大丈夫な方が現れるとは。正宗もきっと喜んでいるでしょう。ありがとうございます」


家宝の宝刀はそっと箱にしまっている。追加で渡そうとしても受け取らない、と分かっているのだろう。


2人で武器屋を後にする。


《なーマスター。この武器凄くしっくりする。私が求めていた武器は刀だったらしい》


サクラが嬉しそうだ。


《なるほど、刀か。本来の仕様にはない武器で、武器スキルもないが・・・あっても不思議じゃないな》


《後、エクストラジョブ、ってのが解放されたらしい。サムライだってさ》


《そのジョブも聞いた事がないな。そのジョブなら刀の武器スキルもありそうだな》


《うん、あった。私はこのサムライを極めてみるよ》


サクラがにっこり微笑む。


《マスタ、今日はありがと》

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