第38話 レイ2

バタン!


扉が勢い良く開き、派手な鎧に身を包んだ騎士がかけて来る。いいなああれLRじゃないかなあ。


「シルビア殿おおお、お久しぶりですううううう!!!始めておられたのなら連絡下さい!!!」


うーむ、熱い。


「いやー、細々プレイが俺のプレイスタイルだからさー。あんたも知ってるだろう?六英雄と親しげに話してたら目立つし、周りに気を遣われたら自分のペースで楽しめないじゃん?」


「ぬぬぬ・・・だがこっそり連絡をくれても・・・」


「とりあえずさ、今回の事件、心当たりはある。人に聞かせたくないので、それっぽい部屋を用意してくれる?」


鍵付きチャットルームを使うので別にここでもいいのだが、雰囲気と言うものがある。


「了解した、こちらの部屋に」


アーサーについていく。先程の騎士もついてこようとしたので手で付いて来るなと示す。レイが遠慮しようとしたので、首根っこ掴んで来るように促す。


{はわ・・・シルビアさん、六英雄と知り合いだったのですね}


アーサーが訂正する。


{お嬢さん、六英雄じゃないよ。七英雄だ。もっとも、シルビア殿以外を英雄と呼んで良いかは分からんがね}


{みんながいなければ無理だった。生き残った7人全員が英雄、でいいと思うよ。それに、俺はこのゲームは遅れて参加したし、この世界では何もしていない。六英雄でいいと思う}


{むむ・・・やはり我々の手助けはしてもらえないか?}


{申し訳ないが、あれが特殊だったんだ。俺はマイペースに楽しませてもらう。何か情報を得たら提供する事もあると思う。情報に触れる機会は稀だと思うがね}


会話スキップしたい。


{とりあえず、今回の事件に関して情報を流す。それとお願いがある}


{お願い?}


{うむ。まず事件の顛末だが・・・武器屋のアイテムは、呪いのアイテムだった。店主は、呪いのアイテムだから人に売るのを拒んでたんだ}


{ふむ}


{で、被害者?が、武器屋からアイテムを盗んだ}


{盗みか・・・許されない事だ}


盗み、等犯罪を行うとカルマが溜まるが、即効性がある物でもないしなあ。


{で、アイテムを装備したプレイヤーが呪われ、意識を失ったと。その装備を失った事で、プレイヤーの意識が戻った}


{ふむ・・・この世界で、死は免れるようになっているが、呪いの武具等の影響は受けてしまうのか・・・}


{普通は大丈夫なのだろうけど・・・今回は特別でね。アイテムがLRだったんだ}


{LRアイテムだと?!むむむ・・・}


{しかも、アイテム説明に、装備すると呪われると明記してあった。LRのアイテムなんてまず存在しないし、アイテム説明には装備するなと明記してある。そして、通常の手段では手に入らないはずのアイテムだった。これらを合わせると、今回の件でこのゲームを危険視する必要はない、と俺は考えている}


{・・・確かに、その条件を満たすのは、今後起こりうるとは思えない。だが、呪いには気をつけるべきだな。病気は大丈夫だったのだが}


{それで御願いなんだが・・・この件に関しては調査を打ち切り、完全に手を引いて欲しい。事情は言えない}


{ふむ・・・貴方がそこまで言うのだ、何か事情があるのだろう。・・・出来ればその条件飲みたいのだが・・・}


アーサーが歯に物が詰まったような態度をとる。


{どうした?}


{うむ・・・実はな、俺は騎士団の実権からは手を引いていて、さっきの騎士に全件を譲っているのだ。今回のように、このゲームの危険性が危ぶまれた時だけ、一時的に指揮を執る事にしていた。事情を話さずに完全に手を引けと言っても納得すまい。奴だけに話す・・・と言うのも難しそうだ。奴は貴方の事を知らないし、ほぼ同格の騎士も何人かいる}


{うーむ・・・お前に話を通せばどうにかなると思ったのだが、困ったな}


{とりあえず、手を引くように御願いだけしてみるのはどうですか?}


レアが手を挙げて言う。


{分かった、とりあえず話してみるが・・・難しいとは思う・・・六英雄全員並べたら或いは}


{いや、他の奴には俺の事は黙ってて欲しい}


{何だと?!そんな事したら俺が殺されてしまう・・・}


{分かった、じゃあ、俺が始めてる事だけ伝えてくれればいい。それならいいだろう?}


{うむ・・・かたじけない。その事実だけでも伝えれば殺されはすまい。ともかく俺1人で説得だな・・・}


アーサーは重苦しそうに言うと、扉を開けて外に出た。騎士がやってくる。


「アーサー様、どうでした?」


「うむ・・・その事だが、事情は把握した。なので騎士団は全面的に今回の捜査は打ち切って欲しい。考えていた最悪の事態は、恐らく大丈夫だ」


「なっ。それでは他の者も・・・私も納得しません」


「いいじゃないですか、話せない物は話せないんです!」


レイが割って入る。


「な、何だお主は。今私はアーサー様と話しているのだ」


「そういうの良くないですよ。『決闘をしてでも聞き出す』ような雰囲気」


「決闘などせぬ、話し合いだ」


「『騎士』でも『決闘』は『怖い』のですか」


「何を言っている。怖い訳ではない。勿論、決闘により解決を図る事を恐れたりはせぬ」


「言いましたね!『決闘で勝利すれば今後この事件から騎士団は一切手を引く』と『騎士に二言はない』ですよね」


「当然だ。約束しよう」


・・・あれ?


「そこの広間なら場所があります。私が勝ったら約束を守って下さいね」


「うむ。・・・女性に向ける剣は持っていないのだが・・・やむを得ぬ」


・・・話についていけないけど、レイが勝てば解決する感じ?いやでも、この騎士滅茶苦茶強いぞ。多分レベル300超えてる。


「ぬう?モースは我が騎士団で序列2位、俺を除けば1位の使い手。勝つのは難しいと思うが・・・」


「俺が代わりに戦って良いかな?」


「貴方には私でも勝てますまい。ただまあ、あの少女には強い意志を感じる。今はまだ微弱だが、将来が楽しみだ」


レイと騎士、モースが向き合う。モースが剣を抜き・・・駆ける。レイが紙一重で躱すと、背中にトゥルークリティカルヒットを撃ち込む。前のめりに倒れかけるが、回転し、立ち上がる。再度レイに向かって駆ける、が、やはり避け、カウンターでトゥルークリティカルを叩き込む。3度、4度。


モースが剣を構え、少しずつ距離を詰める。レイの姿が・・・増える。モースが心眼を発動、影の一つに剣を・・・別の影、レイが動き、背中にトゥルークリティカルヒットを連打する。そして・・・騎士が動かなくなる。


「そこまで」


アーサーが言うと、治癒士が駆け寄り、モースの治療を行う。モースが目を覚ます。


「まさかこの私が敗れるとは。分かった、アーサー様の指示通り、騎士団はこの件から手を引くし、追求もせぬ」


「すまないな、モース。今後は私も、仕事を放り出したりせず、関わるようにしよう」


「ありがとうございます」


「では俺達はこれで失礼させて貰う。アーサー、またな。他の方も、この事はご内密に」


「『騎士は約束を守る』し、『騎士は秘密にすべき事は守り』ますよね」


騎士達が頷く。恐らく大丈夫だろう。


「それでは」


俺とレイは『パー』エモを出すと、騎士団を後にした。


《なあ、レイさん》


《な、何ですか?》


何故身構える。


《今朝言ってた、ダンサーの転職手伝うって何なんだ?》


《あ、はい。ダンサーが前提条件の職があると聞いてダンサーになろうと思ったのですが、転職リストに出てこないので、まずは踊りの熟練度上げないといけないのかと思いまして。踊りの衣装探したり、教えてくれる場所探したりするのを手伝って貰おうかと》


《ダンサーに熟練度とか条件にないぞ?剣士と商人のレベルマックスでなれる2次職だ》


《えええっ、ダンサーって二次職ですかああ?!》


《うむ。三次職、戦巫女とか剣姫とかの前提だな。踊りは役立つし、可愛いし、派生職も多い。悪い職ではない》


《はわわ・・・でも、目指してみます。踊り子の衣装は恥ずかしいけど・・・》


すっとこっちを見て。


《でも踊らないと熟練度上がらないので、また今度マスター見て下さい、ね?》

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