第87話 偽りの逢瀬
トキを連れ立って家に帰る。サクラには電話で今から帰る旨を伝えておく。
「お帰りなさいパパ」
家に帰るとサクラがぺたっと抱きついてくる。レイもまだいるようだ。トキを見てびっくりしたような顔をする。
「え・・・解子さん?」
「あれ、麗海?」
ん?知り合い?
トキがこっちの耳の傍で、ひそひそ話してくる。
「キミね・・・麗海・・・何か不満があるのかい?アイドル、ワン。今日本で、いや、世界で一番人気のアイドルだよ?凄く良い話だと思うがね?」
ナンバーワンアイドルってレイの事だったのかあ・・・
「そう言っても年齢が・・・」
「キミは本当に面倒臭いね」
呆れたように言うトキ。
「えっと、麗海。そっちはサクラちゃんだね。私がトキ、同じギルドのメンバーだよ」
「えええ?!トキって解子さん?!」
「既知。サクラです、よろしく御願いします」
「・・・何で知ってるのかね・・・この子は・・・」
「・・・解子さん!解子さんもますたぁを説得するの手伝って下さい!私もこの家に住む!私はますたぁのお嫁さんになる!」
「麗海・・・すまないが、それは出来ない。私とシルビアさんは、付き合っているのでね」
「嘘だ!」
ノータイム。
「いや・・・嘘では・・・ない・・・よ?」
「嘘だ!解子さんが恋愛感情を理解出来るとは思わないし、恋人ならここで本名で呼ばないのは変だ!解子さんがますたぁに抱く感情は、恋人じゃなくてお義兄さんって感じだと思うし!大方、私に押しかけられたますたぁが、年齢の関係で悩んで解子さんに相談して、恋人の振りして私に諦めさせようとかそういう話になったんだ!」
的確すぎた。
「みんな済まない・・・俺がはっきりすべきだな」
みんなに謝る。
「レイ、済まない。キミとは付き合えない。今まで通り、友人でいて欲しい」
「やだ!何時か振り向かせる!」
ノータイム。再びハグしようと寄ってくるが、トキが間に入って押し止める。
「待ちなさい、未婚の男女がそうそう身体接触すべきではない」
「サクラは?!」
ちらっと、俺の後ろに抱きついているサクラを見る。ぐいーっと引き離し。
「父娘の関係でもちょっと自重しなさい」
「えー?!」
レイはぷくーっと頬を膨らませると。
「・・・じゃあ、解子さんとますたぁが付き合ってる所を見せてくれたら諦める」
ああ、良くある展開の。
「分かった」
トキはそう言うと、すっとこちらに顔を近づけ・・・唇を重ね?!
俺は思考がフリーズして、レイとサクラも顔を真っ赤にし、目を大きく見開いて・・・顔色を一切変えずにトキが言う。
「どうだ、麗海、これで信じたか?」
な・・・なな・・・
きょとん、としてトキが耳打ちしてくる。
「どうした、シルビアさん。こんなのはただの粘膜の接触に過ぎない」
「いやだって・・・キス・・・」
「ん?嫌だったのか?それは申し訳ない。こちらはシルビアさん相手なら嫌ではないので実行したのだが。こういう事をするのは初めてなのでな、勝手が分からん」
「嫌では無いけど・・・いや、トキがいいのならそれで」
まだドキドキしている。サクラもレイも真っ赤だ。
「・・・それだけじゃ信じられない!ちゃんとデートしているところを見せて」
そうそう、これがよくある展開。
「む・・・そういう意味か。接吻より先を見せろと言われると困るが、デートなら特に問題はないぞ」
なんかトキとデートに出かけて、サクラとレイがそれを監視するらしい。
とりあえず耳打ちしておく。
「解子さん、俺の名前は朧月龍司だ」
「分かった、龍司さんだな」
うんうん、とトキが頷く。
デートはトキのプランに任せることにした。・・・お金もトキ持ちだ。本当に情けない。
腕を組むのはちょっと嬉しさと照れがある物の、基本的には楽しい時間だ。衣服を見ながら、トキの説明を受けたり、小物を見ながらトキの説明を受けたり。・・・俺聞いてるだけだな。ファッションの会社を経営している、というのは伊達ではなく、かなり詳しい。聞いていて楽しい。・・・なんか俺の服が増えて行くという現象も起きているけど。
サクラ、レイの2人とも、普通に近くにいるので、デートと監視組、と言うよりは、親子でお出かけと言った印象がある。それはランチの時も同じで、4人で楽しく食べた。午後から映画を見て、夕方の公園で休憩。まあ、ごく普通のデートだろう、多分。
トキが自慢げに、サクラとレイに言う。
「どうだ、納得したか?」
「うー・・・やっぱり自然な感じじゃない!私もあの家に住む!」
うーむ・・・レイは頑なだ。とは言え、朝のペースで攻められると非常に辛い。
「・・・分かった、じゃあ僕もあの家に住もう。それだけのスペースはあるだろう?桜花ちゃん、龍司さん、構わないか?」
確かに、トキに来て貰えれば安心だ。
「それは助かる」
「パパがいいならいい」
「分かった。じゃあよろしく頼むな」
「えええ・・・解子さんも・・・?」
何だかややこしい事になってきたなあ・・・
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