第83話 追跡者
珍しく残業。基本的に俺の仕事は、残業はないのだが・・・たまたま事情が重なって、残業が発生。勿論残業代等出ない。
通勤は片道1時間、それなりの距離だ。だが、会社と距離を置きたい、というのがあるので、これでいい。通勤手当は出るし。
もう日は暮れている。ふと、該当の所に女の子がいるのが見えた。小学生くらいの娘だろうか。近所で見ない娘だ。と言っても、近所の人の顔を覚えてるほど社交性はないのだけど。親はどうしたのだろう。
ブブッ
通知が来る。先程からサクラと、会話を交わしている。スマホゲームだから、こういったコミュニケーションツールとしても便利だ。通勤も退屈しない。スマホ状態でのプレイなので、狩りとかはしないけど。
〔それでさー、新作のポテチが美味しくてさー〕
〔昨日買った天使の雫味、だったか?俺は基本うす塩しか食べないからな〕
チャットに返事を返す。冒険はしないのだ。うす塩が一番。
ブブッ
返事を終えてスマホをしまったところでまた返事が来る。
〔えー、ますたぁも冒険しようぜ!〕
〔ポテチはうす塩、それ以外は認めない〕
実際には、時々他の味も買うのだが。結局うす塩が一番という結論になる。
ん?街灯の所にいた女の子がこっちに近寄ってきてるぞ。後ろを確認するが特に誰もいない。道を空けるか・・・何でこっち来る?!
ぎゅむ
背中に抱きついてきた?!ちょ、事案?!
「き、キミ、一体何を」
「ますたぁ、捕獲しました」
・・・?!
「な、何の事かね?!」
女の子が手を離し、前に回り込むと、きょとんとして聞く。
「確認する。貴方はマスター、正しい?」
何これ?!何か契約した感じの・・・?
「いや・・・ちょっと何の事だか」
女の子はスマホを取り出すと、何か操作して、
ブブッ
スマホが震える。またサクラかな。それどころじゃない。
ブブブブブブッ
連続で震える。く・・・女の子もスマホ触ってるしちょっとだけ。
〔なーなー〕
〔ますたぁだろー?〕
〔絶対そうだろー?〕
〔なー〕
サクラから・・・まさか?!
「まさか・・・サクラ・・・?」
「肯定です、マスター」
・・・どういう状況?!
「えと・・・サクラ・・・これは一体・・・?」
「回答します。マスターが他のメンバーと会ったりしている事、普段の電車が遅れてるーといった発言、天気の話題。そういったのを総合した結果、最寄り駅を割り出しました。後はここで待ち、会話を続け、メッセージを送ったタイミングでスマホを確認する人を探し出すだけです」
・・・そう言えばここ数日、不自然に会話してきてたなあ。夕方になると。
「ふむ・・・そうやって特定して会いに来てくれた・・・という形かな」
怖さ半分、嬉しさ半分、微妙な感じだ。あ、その手の趣味はないし、抱きつかれたからラッキーとかそう言う嬉しさじゃないからね。
「肯定です。貴方の養子になる為に来ました」
「どういう事?!」
「マスターは、ギルドメンバーの御願いを色々聞いてあげているのを把握しています。なら、私の頼みをきっと引き受けてくれると信じ、行動に起こしました」
えええ・・・
「いや、養子とかそう簡単な話ではないし、そもそも親御さんとかは?」
「親はもう居ません。タワーのアルカナを授かる身の上、尋常じゃないですよ?」
あれはリアルの不幸がトリガーなのか・・・
「・・・しかし、親戚とか・・・」
「私の遺産目当ての親戚、そのまま施設に入れる事を検討する連中です。このままでは、私は、親の残してくれた遺産を奪われ、施設に隔離されてしまいます。私には、成人の庇護が必要なのです」
・・・複雑な事情らしい。
「しかし・・・とにかく今親権がある人が居るわけだし・・・」
「現在、私の親権所持者は居ません。当局にお金を渡して、猶予を貰っています。でもそれもそろそろ限界なのです」
サクラががしっと俺にすがりつくと、
「御願いです、マスター。私を貴方の娘にして下さい!」
ええ・・・と・・・
「・・・分かった、手続きとか分からないけど、調べて見るよ」
「有り難うございます!」
ぱーっと顔を明るくして笑顔になるサクラ。不安だったのだろう。まだ小さな娘だしな。まあこれも何かの縁、こんな人生も悪くないかも知れない。
次の日には手続きが完了していた。書類とか手続きとか根回しとか全部終わっていて、後は本人の承諾だけだったらしい。とりあえず近くの4LDKのマンションをサクラが借り、そこに引っ越す形になった。平行して近くの土地を買って家を建設中らしい。待って、手続きの手際良さもそうだし、財力も恐ろしいし行動力もおかしくない?!
まあ、娘が出来た。というか親として情けなさ過ぎる気がする。
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