第41話 ユウタ1

《マスター、街まで来たは良いけど、場所が分からないですね》


ユウタと2人で街に来ている。プリーストのスキルの一部が、前提条件がクエスト達成らしく、クエスト内容がダンジョン踏破らしい。手伝いが認められているのは、立場が違う闇の仕事、盗賊の協力も必要となるコンセプト、だとか。セカンドに盗賊つければソロできるけど。


《ダンジョン内部なら自信あるけど、クエスト内容は分からないからね。とりあえず教会行ってみて、誰かに聞こうか》


《そうですね》


ん、何か騒がしい。プレイヤーとNPCがもめ、プレイヤーを他プレイヤーが押さえようとしてる。暴れてるやつは・・・前武器盗んでた奴か。


「うるせえ。これはゲームだぞ。俺を攻撃してみろよ、レッド認定されるのはお前だぜ」


街中でも、PKは可能だ。NPCにも危害を加えられる。その場合、カルマが溜まり、レッド認定されると犯罪者扱いされる。PKされてもした側にペナルティが発生しない、と言うかカルマが減るし、NPCに見つかれば捕まって牢屋の中だ。自害で脱出出来るけど。尚、NPCがNPCやプレイヤーを傷つけてもカルマはない。見つかったら捕まるけど。後、NPCは基本弱いので、プレイヤーにNPCが勝つ事は出来ない。


ノーマナー行為、それが大多数の人にとっても迷惑である場合でも、その程度では赤くもならない。今回は住民とのトラブル。食い逃げかも知れないし、万引きかも知れないし。ただの嫌がらせかも知れない。が、出来る対処は少ない。睡眠魔法かけても攻撃認定だしなあ。


数人のプレイヤーが、迷惑プレイヤーを羽交い締めにし、騎士団の方角に向かおうとする。あのくらいなら攻撃認定は回避される。が、


「どきやがれえええ」


回転、周りのプレイヤーを吹き飛ばした。普通にやると攻撃認定だが、振りほどく行為としてやれば攻撃認定は発生しない。自衛?


「皆さん、街中で危ないですよ」


ユウタが割って入った。面倒な。


「主よ、憐れみ給え」


ユウタの回復魔法が発動、吹き飛ばされた人が同時に、瞬時に回復する。


「神官様、その男が、食事代を払わず、そればかりか、うちの娘を突き飛ばしたのです」


食い逃げと暴行か。まあ誰か騎士団に通報してるだろう。程なく来るだろうから、来たら引き渡せば。


「犯罪はいけませんよ。我々プレイヤーが、この世界の皆さんに迷惑をかけることがあってはなりません」


「馬鹿が、これはゲームだぞ?!好きに楽しむのがいい。問題があるならBANでもするがいい。また別垢作ってやるわ」


このゲーム、GMへの通報と言うのはない。まあ、βテスト中なので、アカウント再取得は難しいと思うけど・・・と言うか、本気でBANしたなら多分二度と作れないけど。そもそもこのゲーム、何気に、キャラ削除も出来ないしな。


「この世界の皆さんにも、生活があります。怒りもするし、笑いもします。プレイヤーは、それをプレイしている人達がいます。このゲームは貴方だけの物ではないんです」


「そんなの知った事じゃないな。俺は自分のプレイを楽しむ。そこに他人は関係ないだろう。そう言うロールだ」


ロールプレイ、役割を演じる。ヒール、悪役を演じると言いたいのだろう。あれはあれで自分を律する必要もあるし、独自のルールに従うから、大変なのだけど。


こいつは、荒らし、だ。コミュニティーにやって来て、最低限守るべき事を守らない。止められても、聞かない。古くは、掲示版等で他参加者の誹謗中傷したり、卑猥な発言繰り返したり・・・他人が嫌がるのを見て楽しむ人種なのだ。そういう人物が1人紛れ込むだけで、楽しいコミュニティーがあっさり崩壊してしまう。本人はまた別の場所で同様の行為を繰り返す。基本的に、ユーザーレベルでの対処は難しい。


これらの荒らし行為、現在はクローズドβテスト、申込みを経てゲーム開始の流れとなるが、オープンβテスト、申込み即プレイ開始となると、一気に増えたりする。尚、冬や夏、特定の時期になると増えたりすることがあり、ああ夏だからなあ、って会話があったりもする。


正式サービスが始まっても、基本料金無料、とかだと、この手の人種は増える。ゲームが人気出れば出る程、増える。一応、初日から一定額の月額料金取ればある程度防げるが・・・今度は新規加入者が減るという闇。運営がしっかり荒らし行為をBANする場合でも、雨後の筍のようにポコポコ出るし・・・そもそも基準が難しいし、そう言うプレイヤーに限って声が大きいので、運営に文句をつけてくる。


ユウタと悪質プレイヤーが、話を続けている。あそこで悪質プレイヤーが付き合ってるのは、ああやって言い争うのが楽しいのだろう。と、男が急に去ろうとする。騎士団が到着したのだ。


「じゃあな、また美味い飯食わせてくれよ」


プレイヤーの名前、カルマの多寡は、プレイヤー同士では分かるのだが、NPCには分からない。変装されれば終わりだ。もっとも、プレイヤー同士でも、偽装スキルはあるのだけど。


ガッ


黒ずくめの女性が、悪質プレイヤーの腕を掴む。おや、あいつは。


「何だ姉ちゃん、お前も怪我したいのか?」


男が、女性の腕を振り解きつつ投げようとする。ユウタが止めようとして・・・女性の手は微動だにしない。


「少し待つ。騎士団来る。それまで」


「な、てめえ、何もんだああ?!」


流石にあの状況で微動だにしないのは、凄まじい力の差、レベル差があると言うこと。普通のプレイヤーではない。


「不要」


回答不要、の意味だ。まあ、一応監視を付けてたということか。本人がついてるのは予想外だが。留まってたので放置、来る前に逃げようとしたから止めた、のだろう。


「貴様ああ」


男が剣を抜き、女性に斬り掛かる。これは攻撃行為と認定されるので、


ドスッ


女性の手刀が、男を気絶させる。あれなら反撃となり、カルマは溜まらない。


騎士団が到着し、騎士が女性に礼を言う。女性がすっと消える。


《人のいない所に》


言うと、路地裏に向けて歩き出す。騎士達に注意を取られてたユウタが一瞬遅れるが、付いて来る。


《確かに、注目集めちゃってましたね。でも・・・本当に酷いなあ》


ユウタがちょっとむっとしているようだ。荒らしは、まともに遊んでる人達の心に、着実にしこりを残す。


《さっきの女性、凄かったですね。何の職でしょうか》


そろそろいいかな。


「職、と言うか、純粋にレベル差だな。闇王カゲ、六英雄の1人」


《あれが六英雄ですかぁ、初めて見ました。凄いですね・・・何でオープンチャですか?》


「シルビア殿、お久しぶりでござる。そちらの方はご友人?初めまして、カゲと言うでござる」


不意にユウタの後ろの影が濃くなり・・・カゲが現れる。


「わわわっ、は、初めまして。ユウタと言います」


「久しぶり、カゲ。監視を付けてたのは分かるけど、君本人が監視に動員されてるとは思わなかった。人材いない訳じゃ無いだろう?それ程重要な監視対象だったって事?」


カゲは首を振ると、


「いえ、あれは、付いていけば事件起こすだろう、と思ったので。事件が起きればシルビアさんが来るかと思ったのでござるよ」


え、何その認識。主人公体質じゃあるまいし。事件が起きる前に先回りで避けるが基本行動理念ですよ。


「その認識は多分間違ってるけど、会えたのは事実だね」


カゲは、ユウタの方を向いて、


「ユウタ殿、ご協力ありがとうございました。あの男は騎士団にて捕え、牢屋に入れたそうですよ」


「ありがとうございます。ああいったプレイヤーもいるのですね・・・」


「なのです・・・別にゲーム規約に違反している訳でもないので、この国の法に従って一定期間勾留するくらいしかできないでござる。後は、街の立ち入り資格剥奪とか。とは言え、普通にポタで入れてしまうし。死刑にするとセーブポイント戻るだけなので、結局勾留するしかないでござる」


カゲが溜息をつく。


「シルビア殿、何処か行くところでしたか?良ければ御一緒しても?」


うーむ・・・まあ、迷ってるのは確かだし、いいかな。


《よろしく〜》


ユウタが『挨拶』エモを出す。


《よろしくでござるよ》


カゲもエモを返す。


《プリーストのスキル取得のクエスト、の手伝いをしてたんだ。そもそも、受ける場所が分からなくてな》


《リザレクションでござるな。教会で受けられるでござる》


聖王がいなければ良いのだけど。


3人で教会に向かう。あまり注目は集めない。六英雄は、意外と顔が知られてない上、特にカゲは目立たない。


《ポラリスが会いたがってたでござるよ?》


《うーむ・・・また今度会いに行くよ》


《行かなさそうでござる》


く。


《ポラリス・・・さん、ってどなたですか?》


《六英雄の1人、魔導王ポラリスでござるな》


《六英雄!魔導王!凄いです・・・カゲさんもさっき凄かったですし》


《いやいや、我々はただのゲーム廃人集団でござる。あまり自慢にはならぬ。先程、ユウタ殿の回復魔法、見事でござった。聖王にも引けを取らないでござる》


聖王にも引けを取らないは言い過ぎだ。多分六英雄は全員1000を軽く超えてるだろう。偽装してそうだけど。

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