第81話 待ち人来ず

年齢は40オーバー、自由が効く代わりにびっくりするような安月給。趣味はゲームくらいで、ソシャゲにも手を出していないので生活には困っていない。そもそもここしばらくは無料のNLJOしかやってないしな。


彼女がいた事もなければ、当然今も独身。親とも死別して、親戚もいない。家は賃貸マンションで1DK、車等ない。


正直、俺と会っても仕方ないとは思うのだけど。多分、六英雄達はよほど凄い人物だったのだろう。それと同じくらいの事を俺に期待していて、俺が何かを解決できると思っているのだ。残念ながら、それはない。俺はリアルでは、ただの冴えないおっさんなのだ。ゲームの中の俺と、リアルの俺は・・・差が大きい。寝なくて良いけど。


あー駄目だ、すげー会いたくない。ばっくれたい気もするけど、一度会って幻滅されれば、もう会おうとは言われないと思う。・・・会って幻滅した結果、ゲームでも疎遠になるとかあったらやだなあ・・・まあ、それでみんなが離れても、ソロに戻ろう。女性キャラが離れても、エレノアやユウタなら残ってくれるかも知れないし。


待ち合わせの場所で、トキを探す。服装は伝えてあるし、近くに同じ服装の人はいないから、恐らく俺の事は分かるはずだけど。というか冴えないおっさんに気づいて立ち去ってくれたとかでもいいよ。で、用事が出来たからってキャンセルのメッセージが届くとか。


「すみません、貴方がシルビアさんですか?」


整った服装の男性・・・女性・・・?が立っている。声からすると女性のようだ。


「はい、俺がシルビアです。貴方はトキさん?」


「はい、僕がトキです。初めまして」


ぺこり、と挨拶するトキ。


「あ、僕の事は、加賀音解子と呼んで下さい。本名です」


「あ、うん、俺は」


「シルビアさんの方は、本名は別に伏せていても大丈夫ですよ。僕の場合、これから向かう場所で、本名の方で通っているので。トキ、では通じないのです。・・・それより・・・」


ちょっと目を細める。


「すみません、約束の場所に行く前に、ちょっと僕の店に寄って貰えますか。その格好はちょっと・・・」


申し訳なさそうに言う。ひょっとして服装的にアレな感じで・・・?どこに連れて行く予定だったのか。というかトキ、いや、解子の店?


結構綺麗な店に入る。店員が一斉に礼をするが、手で制し、口早に指示を出す。俺はそのまま店員に拉致られ・・・あっという間に小綺麗な格好にされる。うわ、俺お洒落。


「ご無礼申し訳ありません、その服は差し上げます」


トキがぺこぺこする。


「いえ、こちらこそ、服ありがとうございます。気が利かず申し訳ありませんでした」


というかちらっと見えたけど、この上着だけで俺の給料何ヶ月分っていう。怖い。お金払うとか口が裂けても言えない。


そのまま店員を運転手代わりに、大きなビルに着く。トキの先導でVIPルームに着いた。


うお・・・入った瞬間分かった。全員、凄いカリスマを感じる。かなりの大物達なのだろう。全員強面だ。


「遅い、遅刻するとはどういう事かね、解子くん。キミが時間を作ってくれと言って我々を集めたのだろう」


「すみません。そして、お集まり頂き、耳を貸して下さる件、本当にありがとうございます」


「構わない。だが、早く本題に入って欲しい。また、例のゲームの件だろう?申し訳ないが、あれは覆せないよ。女神様との話もあるし、キミの意見を聞いてやりたい気持ちは大きいのだがね。とは言え、すぐに危険指定して人を遠ざける訳にもいかない。そんな事をして女神の不興を買ってはえらい事だからね」


ねちねち、言う老紳士。偉そう。そしてオーラに押し潰されそうで俺泣きそう。


「そちらの男性は誰かね?秘書かな?この場には相応しくないので、遠慮して貰えないかね?」


後ろの方に座っている老人が、こちらを見て言う。そうです。相応しくないです。去ります。


「で、ですよね、申し訳ありませ」


退出しようとしたのを、トキが肩を掴む。


「皆様、この方が、NLJOの危険指定に関して、考え直して欲しいそうです」


いや、俺が影響大きいのゲームの中だけだからね?俺の名前出してびびるの、六英雄とかだけだからね?


「いや、そう言われてもだね」


困惑するように言う老紳士。


「この、シルビアさんが」


はい、空気凍った。相手も知らない名前が出てきて、どう反応していいか分からないのだ。


ザッ


全員土下座あああ?!


「すみませんでしたあああああああああ」


全員の声が唱和する。どういう事?!


「ちょ、確かに俺はシルビアだけど」


「おおおおおお!」


涙を流して顔を上げる老紳士。ええええ?!内1人がかけよってきて、泣きながら手を握ってくる。どういう反応?!


その後は、話がとんとん拍子に進んだ。というか、トキの言うことをみんなひたすら首を縦に振っていた感じ。


用事はあっさり終わり、帰宅。送ってくれるとの事で、自宅まで送って貰う。


「一体何がどうなっているのか・・・俺の噂が一人歩きしたりしているのですか?」


トキに訪ねると、トキがきょとん、として言う。


「どういう事だい?」


続ける。


「それにしても、今日は有り難う。本当はこう言うことはしたくなかったのだけど・・・どうしても僕達だけでは首を縦に振らせることが出来なかったのだよ」


「いや、それは良いけど・・・何で俺が行くとああいう状況になったのかが分からない。俺はリアルではただのしょぼくれたおっさん、社会的地位も一切ないんだけど」


トキがびっくりしたような顔をした後、呆れたような顔をする。


「シルビアさん。キミ・・・自分の立場を理解してない・・・のかい・・・?」


いや、だから、ただのおっさんですよ・・・?


「キミは人類を滅亡から救った英雄なのだよ?あの反応は当然だろう?」


・・・そういう見方もあるのかー。


「本当は当時に探し出して、最高の地位と名誉、無限の財産を与えたい所だったのだけど・・・女神様からキミに関する調査や干渉は一切禁じられていてね。泣く泣く諦めたのだよ。六英雄は全員、かなりの謝礼や援助を受け・・・僕も何故かついでにおこぼれを預かっている。もっとも、その後本人の才覚で、みんなそれなりに成功しているがね。僕自身も、姉と共同企画していたファッション系の会社を設立、軌道に乗って、今ではちょっとした立場だ。一部の人しか知られていないけど、その一部の人にとってキミは絶対的な存在なんだ。今からでも言えば、使い切れない額の財産や、社会的地位。望むなら若い綺麗どころも揃えて貰えると思うよ」


えええ・・・


「俺は平和な日常を送れればそれでいいよ」


「そう言うと思ったから、女神様は不干渉を命じたのだろうね。今日の事でも、キミの事は追跡はしない。そこは安心していい」


トキはポリポリ頬を掻きながら、


「本来、僕のように、キミに干渉するのは人類には許されていないのだが・・・一応キミの友人として認められているのだと思う。こうやってキミに助力を願う事ができたのは」


トキはにこりと笑って言う。


「何にせよ、何か困った事があれば僕に連絡して欲しい。今日の件で借りがあるし。それに姉の件があるので、キミの事は兄のように思っていたのだよ」

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