第89話 豹変


「珍しいね、キミが外に誘ってくれるなんて。と言うか、NLJOの中の方が綺麗な場所が多そうだけどね」


「前のデートがエスコートされっぱなしだったからな、今日は任せてくれ」


「有り難う、キミと一緒に歩けるだけで嬉しいよ」


トキがにこりと笑う。そっと手を繋いでくる。


水族館、レストランでランチ、映画館、カラオケ・・・それなりに調べて計画したが、やはりセンスには限界があると感じた。それでも楽しんでるように見えて・・・本当に愛おしい。


夕日の公園、一応綺麗さで定評のある場所。オリジナリティーはない。そんなぐだぐださ・・・それでも・・・


「解子さん・・・話がある」


「ん?何だい?」


「解子さん・・・俺と・・・結婚して欲しい」


指輪を差し出す。


「おや。・・・そうだね、僕も結婚を避けている訳ではないし、キミは非常に好ましい存在だ。この申し出は非常に嬉しいよ」


トキは微笑んで、指輪を受け取る。


「一応、僕達は婚約者として世間では通っているからね。婚約指輪ではなく、結婚指輪でも良かったのだけど。それともそのつもりだったのだろうか?今から結婚指輪を選ぶなら、後日一緒に行こう。式場は・・・」


淡々と手順の説明をするトキ。びっくりした、以上の感情は特にない。それでも言っておきたい。この愛しい人に。


「解子さん・・・そしてトキ・・・聞いて欲しい」


「何だい?結婚の話ならやぶさかではないのだけど?」


きょとん、とするトキ。


「これだけは言わせて欲しい。レイを遠ざける為の口実とかじゃない。誰でも言い訳じゃ無い。そして、お姉さん、フェルの代わりでもない。俺はフェルにそんな気持ちを抱いた事は一度もない。俺が好きなのは、結婚して欲しいのは、解子さん、貴方だ。貴方が、好きなんだ。俺が見ているのは、貴方だ」


そんな事は分かっているのだと思う。それでも、言っておきたかった。


「え・・・僕を・・・って・・・だって姉さんが・・・レイが・・・」


「俺が好きなのは解子さん、貴方だ」


ぎゅっと抱きしめる。そのまま黙るトキ・・・沈黙が痛い。


「と、とにかく、その話は受けるし、問題はないよ」


最後までぐだぐだだったけど・・・良かった。


「有り難う・・・行こうか」


手を差し出し、トキの手を取・・・


「ひゃっ」


手に触れた瞬間、トキが手を引っ込める。


「・・・トキ?」


「な、何かな?!」


力いっぱいこちらをじっと見るトキ・・・あれ・・・こっちから握手するのは無し?仕方ない、握手は諦めよう。


「トキ、行こうか」


「は、はいっ」


何時もより力強く言うと、しかしその後は無言になりうつむいて、後ろを付いてくる・・・あれ・・・何時もなら話題を色々振ってくれ、こちらが楽しく聞くというパターンが多いのだけど。・・・何か話題を・・・


「さっきのカラオケだけど」


「ひゃ、ひゃい!」


・・・?!・・・また沈黙。結局微妙な雰囲気のまま帰宅する事となった。

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