卵しかないよ?


藤沢:最近思うんですが、作家のかたたちは、編集をまず疑ってかかるんでしょうか。ツイッターなどで「使えない編集のせいで酷い目に遭った話」が拡散されやすいからそうなってるのかな。


大澤:わたしは今のところ本になったものに関しては編集ガチャもイラストレーターガチャも全部100億点で変な編集者って遭遇した経験がないので、母数があまり多くないからアテにはならないんですけど、でもあのへんの話はぜんぶ眉つばで見てますね~。逆に、アマチュア創作大賞をやっているので変なアマチュア創作家はたくさん見てきましたけど。たんに受け手のインターネットリテラシーの差ではないでしょうか。インターネットにはインタネットリテラシーが低い個体のほうが多いですし。つまり支配的ということです。


藤沢:大澤さんの著書の造本、どれもとてもいいと思います。編集も、みんな基本的にはいい仕事をしたいと思ってるはずなので、あのへんの話はあんまり信じないで、構えずに邪気無く胸襟開いていってほしいなぁ、担当してくれるという編集に出会えた人は。わたしはそうするようにしています。わたしは作家と編集、両方の怠惰も喜びも知っていて、結局はお互いピュアさと真心をなくさないでいい仕事したいよねってところから、あまり進んでいないです。


大澤:あとは作家性にも依るんだと思いますが、あの、わたしの本を何冊か読んでると分かると思うんですけど、わたし自分の作品にそこまで思い入れないんですよね。なくはないんですけれども、結局は勢いでガーッ! と書いているところがあるので。なんかほら、ひとつの作品世界が自分自身とつよく結びついちゃってるみたいなタイプの物書きさんも多いじゃないですか? ああいうタイプではないな~って。一球入魂~! みたいなタイプだと、それがコケたときのショックも大きいのかもしれません。わたしは小説書くってどっちかっていうと「え? なに急にきたの? なんもないよ、なくはないけど。冷蔵庫のありものでいい?」みたいな感じでチャチャッと作る感じなので、いらないならいらないで別にええかみたいなところはあります。


藤沢:私も「卵しかないよ?」って感じで描くほうです。でも思い入れないんですね、自作に。いつかコイツを書いて世にバーンと!送り出してやろう!という構想はひとつもないですか?


大澤:思いついたらだいたいもう書いて出してますからね……、堪え性がないので。なので新たに本を出すときは毎回無から「なんかこい……!!」って感じです。書いてると降りてきたりするので、それを信じて書くみたいな。枠組みありきで文庫一冊なら文庫一冊の規模で、一万字程度の短編なら一万字の規模でって考えるので、仮に「全10冊のシリーズやりましょう!」みたいな話がくれば考えるかもしれませんが、今のところあんまり大きな構想はないですね。常に無です。無からひねり出す。


藤沢:でもジャンル? 読者層? として、YA文芸で書かれたいというのはあるんですね。


大澤:好きな本がだいたいYA文芸ってカテゴライズされるようなものに偏っているので。片川優子さんとか梨屋アリエさんとかが好きです。でも「これをやりたい」よりは「なんでもやってみたい」のタイプです。好奇心旺盛な徘徊ゴリラなので。たまにウンコを投げて襲い掛かります。


藤沢:すごい。バイタリティすごい。ただ、ゴリラを引き合いにだす作家さんがたが、なんのメタファーでゴリラを扱っているのかがまだ私わからなくてすみません。


大澤:秋永さんもゴリラ概念に捉われていましたけどマッチしない人にはあまり良い影響を及ぼさないっぽいですね。皮膚感覚みたいなものなのでゴリラで通じる人はとくになんの疑問もなくゴリラを受け入れられるみたいです。


藤沢:ゴリラの血が流れてる人にはすんなり受け入れられるんですね。ゴリラ……ポックリボーイさんてブロガー? インフルエンサー? の人の繰り出すゴリラ概念がわたし好きなんですが、全然関係ないですね……。


大澤:「どんな筋の話を書くか」というのは「どう書くか」に比べると興味が低いです。どっちかっていうと「どう書くか」の興味のほうが強い。でも編集の人が気にするのって「どんな筋の話を書くか」のほうなので、そこはどんな要請がきてもあまりバッティングしないというか。要望があるならその要望を、すくなくとも額面上は満たしながら、どう文章で遊ぼうかなみたいな感じで。「句読点も挟まずに場面転換する」とか「主語を使わずに書く」とか、そういう文字記述の新境地みたいなのにはすごく興味がある。発明したいです。


藤沢:「おにスタ」で体験できる、シーン転換を同じ文でやってのけるの、座って本を読んでいるだけなのに、ぴょーんと飛んだ体感があってわたしは嬉しかったです。「おにぎりスタッバー」勧めて読んだ学生は「あれはずるい……」と言っていました。「じゃあきみならどうする?」と。職人の世界みたいな話になってきましたね……。


大澤:「どう書くか」みたいな話だと、みそキュー!のミサオの特殊能力の矢印あるじゃないですか? あれが漫画表現じゃなくて、本当にああいう風にミサオにも見えているっていう、そういうのも結構「あーね!」ってなって好きなんですよ。ちっちゃい文字で書いてあって見落とすとか。


藤沢:ああ……。当初はですね、ミサオのチート能力は「処女と童貞の服だけ透けて(全裸に)見える」というのを考えてたんですけど、担当さんに全力で止められて、話し合いの結果あの矢印が生まれたんですよね。結果的によかったです。


大澤:わりと昔の少女漫画ってああいう自由な表現多かったですよね。古臭いけど上から石がガーンッ!って落ちてくるとか、コマ割りにメタに干渉したりとか。ああいう自由なのをシーケンシャルな文字表現だけでやりたいんですよね。ラノベってとくに実写的じゃなくてキャラクターが極端にカリカチャライズされてたりとか、漫画っぽいところがあるので、現実じゃなくて、漫画表現とか映像表現に特有なアレを文字でも再現するみたいなのとマッチするっていうか。


藤沢:おお、やっていただきたい……。異世界もの小説の「ステータス表示」ばっかりじゃなくて、みんな開発しよう!(←もう古いのかな?) あ、あと話それますけれど、別の対談で拝見したんですが、「笑う大天使」お好きなんですね。わたしも川原泉が神です……。


大澤:川原泉は神です。漫画なのにすごくテキスト! な感じすごく好きなんですよ。なんかたぶん、漫画表現が洗練されてきたってことなんでしょうけれど、わりと近年は型にはまってきちゃった感じありますよね。


藤沢:あのネームの長さ。無駄に身につく知識。最近の少女漫画は、テーマが重かったりしてもネームの運びはふわっとしたものが多くて、だからアニメ化よりも実写化が多いというか向いてる説を私は持ってるのですが、そう考えると川原泉の漫画ってラノベだったのかも。いや、どうだろう。


大澤:挿絵とテキストの比率がそのままテキストに寄っていくとラノベかなぁ? でも、漫画ってテキストがシーケンシャルでなくてフラグメントの集合体って感じで、どこにどのテキストを配置するかみたいなのもあるから、どれだけテキスト比率が増えてもやっぱり小説っていう一本線とはちょっと次元じたいが違う気もする。えっと、わたしは「みそキュー! ~三十路は恋のキューピッド~」がものすごく好きで、あの開幕ロケットスタートな感じとかザックリとしたヒロイン像とか全体的な情報量! な画面とか、完全にわたし好みで、褒め言葉になるかわかりませんが興味が近そうだなーって思って


藤沢:ありがとうございます! 「みそキュー!」更新ごとにいいねやリツイートしてくださって、励みになりました。興味が近そうと言っていただけるのもすごく光栄です。


大澤:たぶん媒体てきな制限とか自分のリソースの問題もあるんでしょうけれど、普通にもっと続いてくれても全然よかったなって。


藤沢:ご想像通りな部分もあるんですが、あれは1回4ページという制限のなかで、なるべく詰め込んでつくったモノです。なので、構図とか絵でみせる部分は二の次……というのもあって、メディアに合わせたらああなったという。けれど描いている間、作業はつらかったけどとても楽しかったです。「みそキュー!」は久しぶりのオリジナル漫画の仕事だったので、ほめていただけるのはホントにうれしいです。


大澤:なんか今後、ストーリー漫画をやっていく話とかはあるんですか?


藤沢:いま、新しいストーリー漫画の仕事は仕込み中なので、続報をお待ちいただければと。


大澤:いいですね! 細かい球を拾って墜落せずにまだ浮いてるみたいな生き残りかたをしつつ一発ホームランを目指していきましょう!


藤沢:細かい仕事も含めてなんでもやっていきます。 ♡生き残りたい! ♢生き残りたい! よろしくお願いいたします!!




            2018/12/14 文責:大澤めぐみ

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