わたしやっぱスナヲさん嫌いだな!!


大澤:そういえば、なんかわたしがしたい話ばっかりしちゃったんですけれど、スナヲさんのほうでなにか、わたしにしておきたい話とかあればなんでもどうぞ。


籠原:ん~、そうですね。大澤めぐみさんの小説作品にはものすごく執着心の強すぎる人物が敵キャラクターとして登場しやすい他方で、物語的には以前の粗筋をブン投げる豪快さがある。言い換えると、物語内容におけるネットリした執着心を振りほどくアイテムとしても物語形式が機能する。そういう面白さがあると私は思っています。なので大澤さんの小説の魅力をよりよく伝えるのは「ドン☆」のアレとかジェシカのアレとかだと考えていますね。


大澤:ピーキーな読者だ。


籠原:いや、『ジェシカエンジン』最高傑作でしょう。


大澤:商業だと初稿で怒られが発生するので、そこから怒られが止むまでチューニングする感じですね。


籠原:なので大澤さんが、めちゃくちゃ執着心の強い登場人物しか描かない小説をどう読むのかというのは気になります。それは阿部和重という作家です。『鏖』という短編も面白いですがやはり『シンセミア』がいちばんだと思います。


大澤:ほー(メモる)


籠原:もうひとつ紹介してみるなら、逆に脱線しかしやがらない作家をどう読むのかも興味があります。こちらは木下古栗という作家ですね。短編集『ポジティヴシンキングの末裔』も面白いのですが中編集『いい女VSいい女』も素晴らしい。『金を払うから素手で殴らせてくれないか』も良いですよ。


大澤:買ってみます。えっと、わりといい時間っぽいんでそろそろ畳みますけれども、他になんかあります?


籠原:あ、じゃあ事前に頂いていたレジメへの応答を引用しますけど。



 >大澤さんは性的保守主義のほうが現実的に強いと主張していますが、それは性的自由主義の側に不当に重い枷を課しているだけだと思います。いったん性的自由を謳歌したら二度と保守主義を参照してはならないし、複数の性的価値観をTPOと相手の属性に応じて使い分けてはならない――大澤さんはそう主張しているみたいですが、なぜ「ならぬ」のか私には分かりません。それって私が「そこまで人の性を忌避する保守的性愛観に従いたいなら、旦那様に付き従う良妻として生きるという保守的夫婦観にも従えよ。おいおいリベラリズムと保守主義を都合よく使い分けてんじゃねえぞおw」と大澤さんに言うようなもので、理不尽でしょ? ここまで長い応答を書きながら私が感じているのは、大澤さんと私とではそもそも自由や自立の定義が異なるということです。大澤さんは消極的自由より積極的自由を擁護したフロムの哲学みたいに、自発的なサディズム(=支配)やマゾヒズム(=服従)も認めていない。他方で私は積極的自由より消極的自由を擁護したバーリンの思想のように、自由意志の下で他者や共同体に帰属したり服従したりするのも個人の自由だと考えているわけですね。大澤さんはそうした服従状態は危険だと考えているように見えるのですが、私の考えではそんなことはないわけですね。むしろ危険な精神状態の人は解放状態であろうと服従状態であろうとロクなことをしないから結局は同じことだと考えているのです。



籠原:などと私は書いてみたのですが――ここまで対談を進めてみた実感として、大澤さんは貞操観念が強いのではなく、単に質の良い性的経験に乏しいだけないのではないかと思い始めていますね。ただしそんな風に何も知らないからこそ純粋な小説を描くことができるという側面があるかもしれないのだから読者にとっては難しいところですが。この意味で言えば実のところ大澤めぐみさん自身が実はある種のボーンセクシーイエスタデイだったのだという感じで「VS対談」の冒頭部に回帰できるのではないでしょうか。上手くまとまったぜイエイ。個人的にはそんな大澤さんがすげーすごいセックスをしたらどうなるのか気になります。なんていうか無責任で申し訳ないです。まあそんな感じです。


大澤:なんかムカつくな。わたしやっぱスナヲさん嫌いだな!



                   2018/9/17 文責:大澤めぐみ


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