結局のところ書いてみるまで分からない


秋永:小説を読むのはお好きですか? じつはあんまり読んでいない? でも、そういうひとが「6番線」のような精緻なプロットを組めるかな。


大澤:それほど好きってわけではないんですけれど、昔から本を読む習慣はあるかな~? あまり友達がいなかったので(爆笑)。あと、わたしものすごく寝つきが悪くて、寝る直前までなにか活字を読んでないと寝れない病なんですよ。だから、今でも寝る前はなにかを読んでいることが多いんですけど、でも、あまり新しい本は読まないです。面白いと寝れなくなっちゃうので。だから、もう何度も読んで、内容なんかほとんど暗記しちゃっているような本が最高で、淡々と目で文字を追っていると、スヤァ……って。


秋永:大澤さんの小説は、「おにぎりスタッバー」と「ひとくいマンイーター」は何か別の分野で脳をフル回転させてきたひとが「小説ってこんなものかな、ふむふむ」と思って書いてみたら、書けた……みたいな感触もあって。でも「ロクハル」は、とても定番の青春小説の造りになっているわけです。それが見様見真似でなく、エンタテイメントとしての構成が非常に板についていて巧みで、「なんなんだろうこのひと」って思ってた。


大澤:あれ、精緻なプロットとかないんですよ。こう、毎回語り部がかわる一話30000文字×4をプロローグとエピローグで挟もうっていう構成だけは決めてあって、あとはとりあえず書いていって、文字数が30000文字に到達したらそこで「はい終わり~」って感じで。


秋永:2話、3話、4話と、読者に明かされていなかった登場人物の内面が次々と描かれていくのも、「こうなった以上、次はこうなるのだろう」と、順番に考えていっただけということ?


大澤:書いてみるまでわたしもその子がどういう子なのか分からないんですよね。いっつも、キャラクターを事前に定めていないんです。見た目も名前も性格もまったくの謎な空の「わたし」がまず喋り始めて、そのまま書き進めていくと、書いているわたしにもだんだんその子の顔とか性格とかが見えてくる。状況を与えられて、それについてリアクションしているうちに、わたしにも「ああ、この子はこういう子だったのか」って分かってくる。「こういうキャラクターだからこう行動する」じゃなくて「こういう行動をしたから、この子はこういうキャラクターだったんだな」みたいに、書きながら把握していってます。


秋永:みなさま(?)ここですよ。「こういう行動をしたから、この子はこういうキャラクターだったんだな」と考える。これが、お人形でないキャラクタを描いていくために重要な柔軟性です。


大澤:読者が驚くのも当たり前っていうか、書いててわたしがビックリしますからね。え、お前そんなやつだったのって。秋永さんって、書く前にどのくらい決めてます? たとえば、話の筋とか、キャラクターとか。


秋永:プロットを提出するので、話の筋もキャラクターもだいたい決めます。決めた通りにはならないこともあるけれど。なので、基本的には「こういうキャラクターだからこう行動する」と考えて、本文を書いていくのですが……「こういう行動をしたから、この子はこういうキャラクターだったんだな」と、キャラクターが変わっていくときがある。そうなったら、話の筋のほうを修正するしかないですね。


大澤:やっぱり最終的には書いてみないことには分からないですよね。


秋永:はい。書いてみないとわからない。話は、ある程度までは作者の都合で修正できますけど、人物はダメ。でも、そういう「小説は生もの、書いてみないとわからない」というのを、すごくすごく真に受けて、本当に1行ずつ書きながら考えるひとがいるんですけれど、それではひとつの長い小説は完成しない。


大澤:「キャラクターが勝手に動く」とかも真に受ける人いますね。


秋永:それってアーティスティックで憧れる概念ですけど、自分が考えたものが勝手に動くはずがないじゃないですか。


大澤:ん~、勝手に動くというのは自律的に動くという意味ではなくて、レスポンスが悪いということなんですよね。指示しなくても勝手に動いてくれるんじゃなくて、指示した通りに動いてくれないんです。勝手に動いてくれる、ではなく、思ったように動かせない、が正しい。


秋永:クールな解釈だ。


大澤:でも、そう動いちゃったものはもう仕方がないから、対称療法てきに物語を前に進めていくしかないじゃないですか。


秋永:「こういう行動をしたから、この子はこういうキャラクターだったんだな」というのを、把握しきれていないまま、暴れ馬を鎮めるように書いている状態ということですよね。私はもうちょっとポジティヴに、意識的アンド無意識的に考えてきたことが、全部繋がって「正解」が見えている状態といいたいところがあります。


大澤:書いたものに対する諦めというのは重要ですよ。あ、なんか出てきた。でももう出てきちゃったし、みたいな。


秋永:諦め……。そこは「そこまで考えながら書いたものである以上、そうなった必然性が内包されているのだから、当初の構想に拘泥してキャラクターをたわめてはいけない」くらい言いましょうよ。


大澤:その「当初の構想」がないんです。なんていうのかな。構想っていうほどちゃんとしたものじゃなくて、ウォークラリーみたいな感じで、途中のチェックポイントと最終のゴールだけはあるんですけど、そこだけ決めたら、あとは自分も視点人物と一緒になってテクテク歩いていく感じで、なにが見えるかは行ってみないと自分でも分からないんです。世界を最初に構築して、その中をお散歩するんじゃなくて、真っ白の霧の中をお散歩してたらニョキニョキと景色が生えてくるみたいな。


秋永:みなさーん(?)上辺だけ真に受けて倣ってはいけませんよー。地図とコンパスは持ちましょう。それでも道に迷うんだから。

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