読めない神小説より読めるKUSO小説(標語)


isako:読書体験からの影響ってどうですか? おれはけっこうあって、文体ごと引っ張られることも少なくない気がしてます。大澤先生でも、書いてる時期にハマってたコンテンツに物語が影響を受けたりするんでしょうか。


大澤:ミーハーなのですぐ影響を受けるというか、こだわりないので「えーなにそれいいなーやってみよー」っていうのはめちゃくちゃあるんですけど、そういうパク……まねっこっていうのはやっぱり表層的で、根っこのところっていうのは10代の頃に読み散らしまくった本たちのほうが効いてる感じしますね。


isako:若い頃の方が感受性が……とは言いませんが、ティーン時期の経験ってやっぱり根っこになりますよね。


大澤:isakoさんは『「文化」とは~』は、めちゃくちゃ硬質で重厚な文体ですけど、いまカクヨムで連載中の『しみちゃん、たべるたべりたべる。』はかなりポップですよね。文体に関しては、かなり変幻自在で、作品ごとに使い分けている感じ。



※『しみちゃん、たべるたべりたべる。』 - 幽霊を食べる美人の女子中学生「しみちゃん」とゴリ押しの経緯で付き合うことになった平凡な女子中学生「りょー」の軽快な語り口が特徴の、青春百合ホラー小説。


https://kakuyomu.jp/works/16816452219357979069



isako:『しみちゃん~』も『「文化」とは~』も、それぞれ書き始めの時期に読んでた小説に影響受けてやってます。長編のしみちゃんはかなり苦労している状況で……。長編を書き上がった片端ネットにあげるとどんどんクビが回らなくなります。


大澤:連載ってなにがアレって、もうアップしちゃった部分はどうしようもないっていうのがアレですよね。後で「あ~、あそこはこうしとけばよかった~」とか思っても、もうどうしようもないので。書いちゃった部分は書いちゃった部分として確定して、先に進めていくしかない。


isako:そうなんですよね。まさにそれです。長期的になってくると、生活とか書き味の変化とかでどんどん初期とは違う空気のものになっていっちゃうのもあって。その辺は書き手の技術の問題でもあるけど、なかなか。


大澤:そんな不変のスタイルなんか、そう易々とは手に入りませんからね。まとまり感を出したかったら、スタイルが変わっちゃう前に書き切ってしまうのが、一番楽かも。


isako:大澤先生は『おにぎりスタッバー』は割と短期間で完成されたそうですが、長編にはどのくらいの時間かけてるんでしょうか。


大澤:『おにぎりスタッバー』は1話はほぼ一日で、20時間くらいぶっ続けで書き上げて、その後はそれを三回繰り返して長編にした感じなので、初稿完成までの実際の作業時間は全部で100時間くらいですかね? でも全体の期間としては1年くらい掛かったと思います。ちまちま進めるよりは、頭の中で話がまとまるまでは一切手を動かさずに、いけると思ったら一気に書ききることが多いです。それはどっちかっていうと生活からの要請ですけど。仕事が忙しいので、年末とかGWとかお盆とかの長期休みのタイミングでワッと書くって感じで、日常的には創作しない感じのサイクルでやってました


isako:20時間ぶっ続け。なかなかその熱量に到達できるひとはいませんよね。おれはちまちま派なのでそういう集中力をすごく羨ましく思います。固定観念的ではありますが、花開く創作には、なにかしらそういう異常さみたいなあるのかもしれませんね。必死さというか、エネルギーというか。


大澤:『おにぎりスタッバー』は長編というより連作短編っぽい構成で、各話は一気に書き切っているので話ごとのまとまり感は結構あると思うんですけど、2話3話と話が進むにつれて、梓の語り口は変化していっちゃってるんですね。1話はなにしろ初めての小説なので、すごく浮き足立っているんですけど、それがだんだん落ち着いてくる。でも、わたしが手慣れたことによるその自然な変化が、梓がだんだん外界に目を向けられるようになってきたっていう変化とリンクしちゃってて、それはそれでまとまり感が出てる、みたいな。


isako:書き手の変化、文章の変化と、主人公の変化を重ねられたのはすごくいいですね。キャラクターの成長を描く意味で、説得力が増す。


大澤:isakoさんの『しみちゃん~』も、1話はわりと意図的にアクセル踏んでる感じですけど、2章に入ってからはなんか叙述が落ち着いてますよね。落ち着いてないけど、なんか浮き足立ってたのが肝が据わってきたみたいな感じで。文体の息切れかな? って感じもするけど、物語の中でりょーが変化してきてるっていうのもあって、わりと彼女自身の変化とリンクしてる感じがします。


isako:『しみちゃん』はなるべく1話の感じで走り続けたかったんですけど結局いつもの調子に戻っちゃいましたね。なんとか砕けた呼吸を取り戻そうとはしてるんですが。


大澤:狙ってやったわけじゃなくても、どういうサイクルで書いてたか、とかのメタてきな要素って、ダイレクトに作品の性質として出ますね。その頃どんな生活をしてたのか、誰と一緒にいて、なに食ってたのか、とか。だから完全に物語をコントロール下に置こうとするよりも、そういうメタ要素が物語に与える影響も、正も負も、それもまたよしみたいなかんじで、とにかく前に進めて物語を畳むのが正解かなぁって気がします。


isako:書き終えないことには何にも成りませんしね。終わらせるのは大事です。経験値にも書き手の信頼度にも影響してくると思う。とにかくしみちゃんは終わらせます、ちゃんと。


大澤:壺をこねだすとキリがないので。とにかく出す。出したら続きを書く。ってやってると、なにしろ終わるは終わる。小説はなによりも、終わるのが一番大事。


isako:ネタが熱いうちに出力してしまうのは大事ですよね。書き手自身がそれを面白いと思えてないと書くのもきついし。ライヴ感が生み出すエネルギーでしか走れない物語もある……。


大澤:だから初稿はとにかく気にせず終わらせて、まあこれはこれで面白いよね? みたいなところから、二稿で修正を始めればいいんじゃないかなって思ってます。時間を掛けたことで、時間を掛けただけ面白くなったっていう経験はしたことがない。


isako:というかエタるのが本当に悲しい。なんというか物語に対して申し訳ない。あくまで作り物なんだけど、自分がひっかきまわした彼らの人生を、自分があのまんまにほったらかしていると思うと、やっぱりなんだか悪いなと思う心があります。なら書けよという話ではあるんですが。


大澤:書きましょう、書きましょう。読みますよ。

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