少女小説というものについて
大澤:えっと、あんまりいないとは思うんですけれど、いちおう一般の方が読んでも意味が分かるようなコンテンツには仕上げたいと思うので、まずは秋永さんの紹介をさせて頂きますね。
秋永さんは、最近のお仕事だと創元SF文庫の「年刊日本SF傑作選」に収録されていたり、あとカクヨムのほうで公開されているのもわりと一般向けの作風なので、ひょっとすると「少女小説家」という風に認識していない人もいるんじゃないかと思うんですけど、もともとは2009年に「眠り王子と幻書の乙女」でビーズログ文庫からデビューされて、その後も「眠り王子」シリーズ、「ワンド オブ フォーチュン」という乙女ゲーのノベライズ、「怪物館の管理人」と、主には少女向けライトノベルを書かれている作家さんです。
でも、なんかこういう「少女小説」「少女向けライトノベル」っていうものに疎いというか、そもそも認識してすらいない人がわりと多そうなんですよね。感触ですけど。
秋永:それは本当にそうですね。「少女向けライトノベル」というと、まず9割がた、折原みとさんや花井愛子さんに代表される80年代のティーンズ文庫、BL(ボーイズラブ)、TL(ティーンズラブ)のどれかを想像されます。レジェンド作家でも、藤本ひとみさん、若木未生さんなどを思い浮かべてくだされば、かなり現在のイメージに近いけれど……21世紀に入ってからの「少女向けライトノベル」を明確にイメージできるひとには、あまり出会ったことがありません。
大澤:なんかよく「最近のライトノベルは~」とか「いやいや最近のライトノベルも~」みたいなアレをツイで喧々諤々やってるじゃないですか? でも、ああいうときも「いやいや最近のライトノベルだって~」って言っている側の人ですら「少女向けライトノベル」というカテゴリーは完全に意識から欠落してるんですよね。そもそも認識されていないっぽい。
秋永:「このライトノベルがすごい!」などのランキングにも挙がらない。
大澤:でもたぶん、市場規模としては男性向けに匹敵するぐらいあると思うんですよね。ちゃんと数字を調べたわけではないんですが、本屋さんで書棚に占める割合もわりと大きいですし。
秋永:はい。ティーンズラブも含めれば、レーベルもすごく多いです。逆に少年向けで官能描写を含むライトノベルのレーベルは少ないのかな。美少女文庫くらい?
大澤:なんかこう、オタクの歴史を知るものみたいな顔をしたがる人っているじゃないですか。岡田斗司(ごにょごにょ)とか、東浩(ごにょごにょ)とか。ああいう、オタク史みたいなのを語る人たちの認識からも、完全に抜け落ちているんですよね、少女向けカテゴリー。
秋永:なぜなのか。
大澤;わたしはオタク史みたいなところに還元するのすら矮小化だと思っていて、漫画でも小説でもなんでもいいんですけれど、創作全般における一番の裾野って学年に3人くらいはいる中学生三つ編み眼鏡女子たちのコミュニティだと思うんです。こう、各地のそういう中学生三つ編み眼鏡女子たちの創作コミュニティーが順当に成長してグレート合体したものがコミケとかの黎明期でも非常に大きな役割を果たしてきたはずなんですけれど、なぜか正史には載りませんよね。
秋永:たぶん、その「なぜ?」を訊きたくて私を呼んでくださったのでしょうけれど、恥ずかしながら、私も不思議に思っています。
大澤:そういう「闇のガールパワー(?)」みたいなのを、正しくオタク史? てきなところに位置づける仕事は誰かがするべきなんじゃないかなみたいな、曖昧な問題意識みたいなのは昔からわりとあるんですよ。もやっとする。
秋永:マンガだと、もちろん少年向けのほうがずっと勢いはありますけど、少女マンガの存在を完全に無視する人は少ないですよね。
大澤:うーん、どうでしょう? わたしは少女マンガもそういう「オタク史観」てきな問題において、正当な評価を受けているとは思っていないんですけれど。
秋永:現在の少女マンガのトレンドを追いかけていないひとでも、大島弓子さんとか萩尾望都さんとかは「必修科目」として読んでいるじゃありませんか。でも少女向けライトノベルを……それは「炎の蜃気楼」でも「マリア様がみてる」でも「彩雲国物語」でもいいんだけど……必修科目として抑えておこうという感覚は、とても薄いような。
大澤:大島弓子さんとか萩尾望都さんをカウントしてしまうと、少女小説も偉大なる主上を輩出していますので話がすこしズレるような気がしなくもないです。あとマリみては比較的押さえられているのでは? いや、分かんないんですけど。
秋永:「マリみて」は男子が萌えることで大ヒットした、本当に特例ですね。「十二国記」も、ジャンルの垣根を超えていった、ほとんど唯一の特例です。
大澤:偉大なる作家はどのレーベルから出そうが偉大みたいな救いのない結論に到達してしまいそうな予感がしますね……。話を戻しましょう。えっと、なんだっけ?
秋永:少女向けカテゴリーは顧みられることが少ない。なぜなのか。という話。
大澤:そう。それです。あ、ほら。オタクの歴史を知るもの。サブカルに理解ある僕様ちゃんはエロゲーも真面目にヒヒョーしちゃうぞ~、みたいなのはあるけれど、わたしが知る限りではアンジェリークが与えたインパクトをオタク史上のどこかに位置づけた人ってたぶんいないんですよね
秋永:乙女ゲーのマイルストーンだ。
大澤: マンガでも、小説でも、ゲームでも、少女向けってなんかそういう「オタク史」みたいなのから抜け落ちているなぁって、これ二回目だっけ?
秋永:はい。
大澤:話が戻ってきたということで。
秋永:女子のオタクは男子向けの作品をバリバリ受け取るけど、男子のオタクが女子作品を……というケースは少ないかもしれないですね。
大澤:書店だと少女向けカテゴリーってすべてがひとつの列にまとめられていることが多くて、なんかあの独特のキラキラ空間がある種の結界みたいに作用しちゃっているのかな? とは思うんです。別に男子禁制ってわけじゃないんですけれど、男の人には見えていても認識できないみたいな。認識できていたとしても「謎のキラキラ空間」みたいな。十把一絡げで「キラキラしてるやつ」って思われちゃってる。でも、少女向けライトノベルって実はわりと多様ですよね。さっきも言いましたけど、偉大なる主上の出世作であるゴーストハントも、もともとはティーンズハート文庫ですし。
秋永:多様なんです。ハイ・ファンタジーも、ヒストリカルも、SFも、ホラーも、現代ものも、いろいろある。
大澤:ある程度のお約束はありますけれど、基本的には恋愛小説でないといけないみたいなのとか。でも、意外とそこが主たるトピックでないものも多いんですよね。たとえば、秋永さんの「怪物館の管理人」の話をしますけど、あれも乙女ゲーてきな逆ハーレムものに見せかけておいて、そこは飽くまで「お約束」で、物語てきな一番の大オチはステリア(※主人公の同性の友人)との友情ですし。
秋永:「怪物館」は……もちろん「逆ハーレム」的なおもしろさを志向したのですけど……あまりそうはならなかったかもしれません。
大澤:そこはやっぱり、コンセプトとテーマとかメッセージ性っていうのはまた別ですから。
秋永:「ライトノベルってみんな同じ話」みたいに言われがちですけど、それはトレンドしか見ていないからで、それぞれの作家に、それぞれの切実なテーマがあって、それが作品の主軸でないときもあるけれど、「お約束」のお話の中にもぜったいに滲んできます。
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