細かい球を拾いながら墜落せずにまだ浮いてるみたいな生き残りかた
大澤:どうも、本日はお時間をとって頂いてありがとうございます。
藤沢:いえいえ、こちらこそ空港に呼びつけてしまってすみません。あっこれ、六花亭の「ご容赦どらやき」。賞味期限が購入当日なので、今日中に召し上がってくださいね。あんこきらいだったらごめんなさい。
大澤:あ、あんこ大好きです。ありがとうございます。
藤沢:で、対談ですよね……わたしこういうの初めてで、どういうふうに始めたらいいのか……。
大澤:えっと、だいたいまずはわたしのほうからチヒロさんの紹介をさせてもらう流れなんですけれども、なんて紹介すればいいのかけっこう困っちゃうというか、なんでしょうね? 直近のお仕事はアリシーでやっていた「みそキュー! ~三十路は恋のキューピッド~」という漫画になるのかな? なので、わたしとしては漫画家さんという認識がつよいんですが、なんか編集者てきなこともやっていらっしゃるし、ワークショップとか講師とかもやってたり装丁とかデザインもやっていたり、イベントを企画していたりと、ほんとなんでもやっていて何屋さんなのか謎ですよね。何屋さんなんでしょうか?
藤沢:今のところ、漫画家・イラストレーター5割 / フリー編集・講師3割 / デザイナー3割(全部で11割?)でやっております。プロの器用貧乏です。何でもやっていて胡散臭さ極まりないですよね。わたし出版系の業界ゴロってすごくきらいなんですけど、いま自分がそんな感じになりつつありますよね。
大澤:いちおう漫画家・イラストレーターの比率が一番高いんですね。チヒロさんの経歴が謎に包まれているので、まずは今のそのマルチな感じに落ち着くまでの経緯をお伺いしたいなと。
藤沢: まずは大学時代に就活に失敗しまして、漫画の投稿を始めたんです。「別冊少女コミック」の月例賞に投稿して、1作目はAクラス賞かな、1万円もらいました。で、担当編集さんがついて。大学を出て1年くらいバイトしながら別コミに数作応募して芽が出なくて、翌年春頃から別の会社に持ち込みを始めて、同じ頃に小さい出版社に契約社員で入れてもらって、秋に秋田書店のヤング今はもうないレディース誌でデビューです。
大澤:出版社の契約社員というのは編集者としてということですか?
藤沢:最初は営業部で広告宣伝の仕事をしていて、3年くらい経ってYAレーベルの編集部に移ったんですよ。営業部にいた頃は9時5時で残業も無かったので、漫画も結構描かせてもらってました。60ページのとか。編集部に移ってからは、時間が不規則になったのと、自分が挿絵のイラストレーターさんにあれこれ注文つける癖に自分が漫画描く資格は無いんじゃないか……? という心境で、商業誌で描くことはほぼなくなりました。これは、いま思えば言い訳ですね……。ブランク10年くらい。
大澤:え、日本で明確なYAレーベルって数が少ないし、わたしめっちゃYA読むんでひょっとしたら分かっちゃうかも。ほんとはYA文芸やりたいんですよね。日本だとあんまりジャンルとして根付いてない感じですが。
藤沢:あ、でもめっちゃ老舗っていうか、すでに滅んでるレーベルで(ゴニョゴニョ)です。
大澤:あーね。YAレーベルっていうか、まだライトノベルって概念が確立していなかったが故のYAてきな。
藤沢: ヤングアダルトと呼んでみたり、ジュブナイルと呼んでみたり、私がそこにいた頃に「ライトノベル」という言葉が世の中で誕生したのは覚えてます。その後母体の新聞社を経て、エンタメ系の出版社で少女ラノベレーベルの立ち上げから参加して数年企画編集をしていました。秋永先生とはその時からのご縁ですね。東日本大震災のあった年に会社を辞めて、その後フリーで現在に至ります。漫画の仕事もそのあたりから再開しました。
大澤:じゃあ編集者歴も結構長いし、ほんとに編集者と作者の両わらじって感じなんですね。
藤沢:逆に「複業」っていまどきっぽい働き方に見えるようになりましたね。私の場合は、仕事を断らず、ただいちおう食べれているだけというか……。
大澤:こう、失礼に聞こえてしまうとアレなんですけど、わたし自身もそうなんですが受賞歴とか代表作みたいなのがまったくなくて、なんとなくこぼれ球を拾ってデビューして、そこから余り枠を埋める係でなんとか生き残ってるみたいな感じで。創作にたずさわって生きていくみたいな話だと、どうしても新人賞を受賞してヒットを飛ばしてみたいな話になりがちじゃないですか? でも、なんかそういう華々しい感じじゃなくても細かい球を拾いながら墜落せずにまだ浮いてるみたいな生き残りかたの話も、ある種の人にはコンテンツ価値があるんじゃないかなみたいな気がしていて。
藤沢:おっしゃるとおりで、華々しくなさすごいですよね。ただ、クリエイターに関しては単業で食べていける時代ではないようなので、私の小器用ぶりが誰かの参考になったらそれはうれしいです。
大澤:実はわたし、編集者の人ってあんまり喋ったことがなくて。いちおう作家なんですけど、わりと疎遠なタイプというか。まあ本は出すんで原稿をこうしていきましょうみたいな必要な話はしますけど、それもメールを何回か往復するくらいだし、編集者さんがどんなことを考えてどういう風にお仕事しているのかとか、今でもわりと謎のままで。
藤沢:大澤さんは、担当さんと電話で打ち合わせもしないですか?
大澤:電話での打ち合わせは時々ありますけど、基本的にはメールのほうが捗りますね。ものすごい注意力が散漫な喋るほうのオタクなので、顔を合わせて喋ると結局ものごとがなにひとつ進んでないみたいになりがちで、話を前に進めるのは文字ベースのほうがやりやすいです。情報密度はメールのほうが高いし、履歴も残るので確認しやすいですから。まだぼんわりとした企画段階とかなら電話で話をすることのほうが多いかな。そのあたりはノイズのほうが重要な段階ですし、ブレストてきなものは電話のほうが向きますね。
藤沢:ああ……電話NGのかたではなくて良かった。私は電話でブレストするほうなので「電話してくるヤツは仕事できない」というかたの前では萎縮しちゃうんですよ。ただ履歴は大事ですね、老いてくるとびっくりするくらい話したこと忘れるので……。
大澤:企画が通って、じゃあ実際に書いていきましょうっていう段階になると、だいたいまず「初稿は何日が締め切りです」っていうのがあって、それがけっこう長いスパンであるじゃないですか? で、初稿を送るまではもうとくになにもないので連絡をとることもなくて。初稿を送ると次は「こういう風に修正してください。二稿の締め切りは何日です」って返ってきて、また二稿を送るまではとくになにもないみたいな。他の作家さんがどうかを知らないので分からないんですけれど、比較的手間のかからないタイプなんじゃないかなと自分では思っていて。わたしは数字的には全然売れてないのでかなり厳しいんですけれども、そういう部分で便利に使ってもらえるようになれば細かい球を拾いやすかったりするのかなぁって。ほら、編集者さんってものすごく忙しそうじゃないですか。
藤沢:手間がかからないというか、手をかけなくても水準以上のモノが上がってくるという信頼感でしょうね。わたしも、困った時はこの方に頼ってしまうという作家さんはいらっしゃいました。ほんとなら、そういう作家さんを売れっ子にしたかったのですが……器用な方ほどヒットが出にくいという……私がいた当時の話ですけれど。いまはWEB出身の人気作家さんは器用な印象を受けますし。
大澤:わたしはヒット作を出せるような才能はないんですけれども体力はあるほうなので、面白くなるかどうかはやってみないと分かんないけど、まあ書けるのは書けると思いますよ? みたいな。
藤沢:編集部で月に何冊出したいという枠はありますし、半期とかごとの予算……もありますよね。信頼できる体力のある作家さんは、必要です。
大澤:このあいだまた新しい編集者の人と顔を合わせて、けっこう長い時間喋ってたんですけど、結局最終的には「じゃあ企画まとめてなんか送りますね」しかなかったので。お喋りしだすと本当にただのお喋りになりがちで、好きな本について喋れとか言われたらそりゃ無限に喋れちゃいますから。
藤沢:会って話す打ち合わせは、まさに顔とか顔色を見て話できる貴重な機会で、作家さんの好きなモノとか話題とかを知るために私は大事と思うし好きでした。なのでそれでよいかと。ある元担当作家さんとの初顔合わせでは、飲み放題の店を予約して最後には私が記憶をなくしたというエピソードが今でも語り草に……。そして後にその先生は、あたかもその時打ち合わせしたかのように、とくに話題になっていなかったプロットを提出してくださったという。うん、わたし仕事の出来る編集ではなかったんです!
大澤:わらう。わたしはそもそも飲むような時間帯に打ち合わせをしたことがないので。ほら、作家のランクを測るのにみたいな話で寿司が出るか出ないかみたいなのあるじゃないですか? 寿司食べたいですよね。
藤沢:いま寿司食べさせてくれる版元ってあるんですかね……? 重版のお祝いならあるかな? 新聞社のときは、上司が作家さんの接待や出版打ち上げに馬鹿みたいにお金を使ってるのを見てたので、じゃっかんその感覚でラノベレーベルに行ったら、「今後はランチ接待までにして下さい」って言われたことあります。寿司目指したいですね……。
大澤:ヒット作、出したいですね……。
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