ハンマーと昆布だし


大澤:わたしもすぐお説教おじさん化してしまうんですけれども、お説教も気持ちいからダメなんですよね。気持ちよくお説教して「あ~気持ちいい~」だと、またひとりよがりなものになってしまう。やっぱり人って卵みたいに外側に殻があって、その殻に向かってどんな言葉を投げかけても無駄なんですよ。殻の内側に柔らかいところがあるので、伝えたいことがあるなら、どうにかそれをそこまで届けないといけなくて。わたしはもう外からガンガンハンマーで叩いて殻をブチ破って、その内側の柔らかいところにもハンマーをブチ込んで「どうだ! まいったか! まいったか!?」みたいな野蛮なやり方しかできないんですけれど、藤のさんは、そこものすごく上手ですよね。なんていうか、別に殻を破らない。殻の外からじわーんと浸透させて中まで届かせるみたいな。昆布だしみたいに。


藤の:昆布だし。


大澤:スミカは昆布だし。


藤の:うーん、お説教かあ。お説教の気持ち良さ、あまりわからないかもしれない。わたし、少年漫画によくある、ヒロインや敵をある程度殴った後に「ほにゃほにゃだろうが!」「ほにゃほにゃだろ!?」みたいないい感じのことを言って、それで敵、ヒロインの心を打つみたいな流れが大っ嫌いなんですよ。


大澤:DVメソッドですよね。


藤の:そんなんでよく人の心を変えられると思ったよな!? みたいな。だからキャラの気持ちを変えたいって思ってないです。気持ちは自分から変わってほしい……。そのために「お察し力」が強いキャラクターになってしまうのもどうかと思うから、変わるためのエピソードはたくさん用意しておきたい。


大澤:「せんせいのお人形」はそこは本当にすごくて、スミカ、冒頭のキャラと最新のキャラを比べると「スミカ!?」ってなるくらい全然ちがう子なんだけれど、その変化に無理がないんですよね。モーフィングみたいにスーッと変わっていっている。


藤の:未熟ゆえに謎の「お察し力」を発揮させてしまうこともありましたが。


大澤:象徴的な出来事があって、そこでぼーんって価値観が変わるみたいなの、そういうのって描きやすいし物語的で分かりやすいんですけれど、そういうのなしに、自然に変わっていくとか、なんとなくそうなるみたいなのを違和感なく描くのってものすごい高度なことで、これはすごいものを読んだなって思いました。

 藤のさんみたいに少なからず交流があって、身内っていうわけじゃないですけれども、まあそういう、身内てきな要素のある人の作品を褒めるのって本当に難しくて。なんかこう、いろいろとついてまわるじゃないですか? でも「せんせいのお人形」は本当にすごいものを含んでいるなと、それは身内とかそういう要素を全部さっ引いても思うので、もう本当に、全人類「せんせいのお人形」を読もう!


藤の:そういう風に「いいところ」を見つけてもらえるってすごい嬉しいですね。


大澤: 「含んでいる」であって「頭からしっぽまで全部」とはまだ言いませんけれど(笑)


藤の:そもそも頭からしっぽまでって好きな作品思い出してもそうないですよ。自分の漫画を好きだと言ってくれたり紹介してくれる読者さんも、ある部分を評価してくれて、こういうのがあるのはいいものだから! って感じじゃないのかな? わたしもそうだし。


大澤:これが初めてのストーリー漫画だということなので、まだ完結もしていないうちからアレなんですけれども、次回作がすごく楽しみです。たぶん、今回でものすごい経験値を蓄積されておられると思うので。


藤の:藤の先生の次回作にご期待ください!!

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