谷崎潤一郎とかいう浅瀬のクソM


大澤:あとね、新潮文庫版の『痴人の愛』もあるよ。


籠原:きたきた。


大澤:これね、裏表紙のあらすじだけでもう笑うから引用しますね。



 >主人公譲治は、自分で見いだし育てあげた美少女ナオミの、成熟するにつれて妖艶さを増す肉体に悩まされ、ついには愛欲の奴隷となって、生活も荒廃していく……。



大澤:笑っちゃうよね。文頭で「譲治は」と主語を置いて「見いだし」「育てあげた」ときているのに、読点ひとつ挟んでいきなり「悩まされ」になってるの。お前が勝手に悩んでるだけじゃんっていう。こういうナチュラルな受動態への変化とかね、すごく鼻についちゃうのわたし。で、最後には恨み節でしょう?


籠原: 大澤さんはマゾ男性が醸し出してくれるエロさをなんにも分かっちゃいないね(ふう)


大澤:は?(真顔)


籠原:いい? まず谷崎潤一郎『痴人の愛』は「最後は恨み節」じゃないよ。潜在的なドMくんが無意識下のマゾヒズムを叶えてくれる最高の女性と出会い、最後は彼と彼女にとって理想的な形で結ばれるハッピーエンドの物語でしょう。逆に本当に男がヒロインに振られてしまうマゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』と比べると両者にとって完全無欠のハッピーエンドと言って過言ではないよね。ナオミを本気の本気で「悪女」呼ばわりする感想なんてもそうそう聞かないし。もとより殿方たちの間では「奔放な女の子様に振り回されて壊れちゃいたい」という欲が根強い人気を有していて、ナボコフ『ロリータ』なんかも要するにそういう話なんだよ。大澤さんの『痴人の愛』解釈は私には斬新すぎて意味不明だし全然分かんない。なんでこのエロさが分かんないかな~分かんないのかな~もう~もう~バカ!!


大澤:(真顔)んー、エロいとかエロくないとかじゃなくてですね、責任転嫁ですよねっていう。譲治がナオミを「見いだした」(は?)時点で彼女は15歳ですからね。そりゃ順当に肉体は成熟しますよね。それをいちいち「妖艶さを増す」とか言ってたらアホなんじゃないかと思いますよね。予測してろよっていう。不当に理不尽に自由奔放に振る舞っているわけでもなく、たんに結婚当初の約束を履行させようとしているだけですしナオミ。「振り回されて」の時点でちょっと事実誤認ですよね。キャパないのに大風呂敷ひろげただけじゃないですか譲治。


籠原:責任転嫁じゃないんだよバカほんとバカもうもう! 責任転嫁と言うからには譲治はナオミのことを責めている必要があるけれど、そもそもクライマックスにおける彼は彼女をぜんぜん責めていないんだから。もしかすると大澤さんは名曲『はじめてのチュウ』の歌詞「眠れない夜、君のせいだよ」に対して「他人のせいにするなこの野郎」とマジレスするタイプなの? 上島竜兵が押すなよ絶対に押すなよと言ったら本当に押さないまま終わるタイプなの? ナオミは自由奔放に振る舞うことで、譲治の「女に不当に理不尽に振る舞われたいぜ!」という欲望を叶えてあげたんだよなぜそれが分からないんだ本当に谷崎を読んだのか?


大澤:うーん、分からない世界だ。まあいいや、次。


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